星の進化に要する時間は、人の一生と比べるとけた違いに長い。1人の科学者がどんなに高度なテクノロジーに支えられた機器を用いて観測しても、進化を直接捉えるには、人の一生はあまりにも短い。その意味で、星の進化を捉えることは世代を超えた事業で、高度な観測機器によって星の進化を捉えるのは我々の子孫に代々託されていくべき命題なのだ。

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 だが、肉眼観測に限定すれば、人類は過去の歴史において様々な記録を文書に残してきた。それらの点情報を線としてまとめ上げていけば、数千年間に渡る星の進化を捉えることが可能になる。この命題にドイツのイエーナ天文台の科学者を筆頭とするドイツ、アメリカ、イタリアらによる研究チームが挑戦し、その結果がコーネル大学が運営する論文サイトarXivで公表された。

 恒星は概ね水素燃焼段階にある主系列星と、水素を核融合で使い果たした赤色巨星の2種類に大別される。これら2種類の恒星の色と光度のパターンには明確な差(ヘルツシュプルングギャップ)があり、それらの隙間を埋める中間的な性質の恒星はほとんど発見されていない。

 だが時系列的に見れば、どんな恒星もいずれは水素を使い果たし、主系列星から赤色巨星へと進化を遂げるのは明白な事実だ。主系列星と赤色巨星の中間的な性質を示す恒星が発見されないのは、星の一生の中でこの中間的な性質を示す時間がきわめて短いことを意味し、この中間的な性質を示す期間の変化は数千年の時間的スパンで捉えられる可能性がある。

 今回の研究論文では、この中間的な性質を示す時期に差し掛かっている恒星の候補として、赤色超巨星であるベテルギウスとアンタレスに着目し、過去約2000年間に渡る古文書の記録を追跡している。

 洋の東西を問わず約2000年前の古文書では、ベテルギウスは黄色、アンタレスは赤と表現されており、ベテルギウスが放つ光がこの2000年間で黄色から赤に変化したと結論付けている。つまり、過去2000年間ベテルギウスは先述の中間的な性質を示す段階にあったことが判明したのだ。