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衆議院で「可決」されただけ……

電動キックボードに関する新しいルールは「特定小型原動機付自転車に関する改正道交法」として2022年3月4日に閣議決定された。

【画像】ナンバープレートなし、ヘルメットなしなど【電動キックボードの危険走行】 全16枚

その後4月19日には衆院本会議で可決・成立している。


電動キックボードに関する新しいルールは、衆議院で「可決」しただけ。施行はまだ2年近く先。

ここで重要なのは「可決・成立」しても、「施行」はまだ先で2024年4月頃をめどにしているということ。

なぜかかん違いして「電動キックボードが免許不要で乗れるようになった!」と喜んでいる人たちもいる。

現行の電動キックボードに関する法律では、道路交通法でも、道路運送車両法でも原動機付自転車(以下、原付)と同様の扱いとなる。

電動キックボードを運転するには原付以上の免許が必要で、ヘルメット着用も義務づけられている。そして走行できるのは「車道」のみ。

ヘルメットやナンバー(番号標)のない原付が歩道を走っていたら多くの人は驚くだろうし、それが違法な行為であることがわかる。

しかし現在は、電動キックボードがヘルメット無し、ナンバー無しで歩道を走っていても驚く人はほとんどいない。

原付と電動キックボードは同じ扱いだということがまったく周知されていないからだ。

この状況で改正道交法が成立したというニュースが目に入るようになって、ますます混乱する人が増えている。

さらにもう1つ、混乱させる理由がある。

経産省主導の「産業競争力強化法に基づく新事業特例制度による電動キックボード」(以下、特例電動キックボード)」の存在である。

これはLUUPに代表される「特例事業者によるシェアキックボード」で、都市圏を中心に急激に増えており、最大手のLUUPの会員数は数万人レベルだ。

改正道交法でどう変わる?

特例制度は電動キックボードを普及させるためのものなので、原付の扱いではなく、「小型特殊車両」として扱っている。

速度は15km/h以下に制御されているが、小型特殊扱いなのでヘルメットは不要。


最高速度20km/h以下の電動キックボードは免許不要(16歳以上に限る)。車道または車道上に設置された自転車専用通行帯を走行する。

免許は小型特殊以上が必要で原付免許だけでは運転できない。

しかし、あくまでも「車両」であるため歩道走行は横断歩道含めて禁止されており飲酒運転ももちろん禁止だ。

ただし実際には歩道を走る、横断歩道も電動キックボードに乗ったままわたる、飲酒運転をするなど道交法違反の特例電動キックボードは頻繁に見かける。

整理すると、現在日本の道路を走る電動キックボードには、(1)原付扱いの電動キックボード、(2)小型特殊扱いの電動キックボードの2種類が存在する。

この2つに新たに2024年4月頃をめどに加わるのが以下。

(3)20km/h以下なら免許もヘルメットも不要、6km/h以下なら歩道(自転車通行帯がある歩道)も走れる電動キックボード

改正道交法を詳しくみてみよう。

電動キックボード等に関する改正道交法の概要(施行は2024年4月頃めど)

(1)電動キックボードは原則として車道や自転車専用通行帯を通行
(2)最高速度が20km/h以下に制御され、長さ190cm×幅60cmに収まる車両を「特定小型原動機付自転車」(電動キックボード)と定義する
(3)上記(2)のうち最高速度6km/h以下に制御されている車両は例外的に歩道などを通行可能(自転車通行可の歩道に限る)。ただし、歩行者扱いになるわけではない。
(4)電動キックボードの運転には、運転免許が不要(ただし16歳未満は運転禁止)。ヘルメット着用は努力義務。
(5)交通反則通告制度と放置違反金の対象となり、危険な違反行為を繰り返す者には講習の受講を命ずる。

なお、最高速度20km/h以上の電動キックボードに関しては改正道交法施行後もこれまでと同様で原付と同じ扱いとなる。

とくに大きく変わるのが最高速度20km/h以下、同6km/h以下に「制御された」電動キックボードである。

ここでいう「制御された」とは、乗る人の操作で簡単に設定速度を変えられない仕様のこと。

設定速度が簡単に変えられる電動キックボードは違法車体とみなされ取り締まりの対象になる可能性も出てくる。

確信犯? 「免許不要」うたう業者も

電動キックボードは現在のところすべて「原付」の扱いで20km/h以下の電動キックボードを運転するのに免許が不要、ヘルメット任意で乗れるようになるにはまだあと2年近く必要だ。

しかし、販売業者の中には、法律を都合よく解釈(もちろん違法)して「免許不要!規制緩和適合の電動キックボード」を販売している業者も存在する。


警視庁のホームページでは、電動キックボードの販売者に対しての案内が掲載されている。    警視庁

ちなみに警視庁の公式サイトでも「販売する方へ」として以下のように警告している。

「電動キックボードの販売取扱店においては、販売する際に上記の点について丁寧にユーザーに対して説明してください。『運転免許がなくても公道で乗れる』などの虚偽の宣伝や説明をすると、刑事責任を問われる場合があります」

「運転免許がなくても公道で乗れる」、「歩道を走ることができる」などは、いくつかの業者がすでに自社サイトなどでアピールしている。

知らずに買った人たちは「有名な店が販売しているのだから道交法が改正されてヘルメットなし、免許なしで乗れると思った」と嘆く。

歩道で乗っていたら警察に注意を受けた人もいる。 

なお、電動キックボードは定格出力によって原付1種、原付2種に分かれる。

(1)定格出力600Wまで⇒原付1種(排気量50ccの原付バイクと同じ扱い。原付以上の免許が必要、普通免許含む)法定速度30km/h)
(2)定格出力601-1000Wまで⇒原付2種(排気量125ccの原付バイクと同じ扱い。小型限定普通二輪免許が必要。法定速度60km/h)

1000Wを超えるハイパワーな電動キックボードも存在するが「軽二輪」扱いとなり、運転するには普通二輪免許以上が必要となる。

強引すぎ? 免許不要になったワケ

今年4月に可決・成立した電動キックボードに関する改正道交法だが、いちばんの問題は20km/h以下なら「免許不要」を許可している点である。

道交法を知らない人たちが2年後に車道にあふれて好き勝手走りまくるのかと思うと、本当にゾッとする。


依然として危険な走行が目立つ電動キックボード。改正道路交通法によりさらに交通の危険が増加するのか……。

事故は多発し死傷者も大勢出ることだろう。

そもそも、「免許不要」についてどのように決まったのか。

改正道交法の元になった「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会報告書」に驚きの事実が公開されている。

2021年1〜2月に埼玉県運転試験場にて埼玉県警察運転免許センターでおこなわれた電動キックボードの「走行実験」の結果を紹介しよう。

実験ではこれまで電動キックボードを運転したことがない者100人(10〜60代、免許あり50人/なし50人)を被験者として「免許の有無で交通違反の件数にどれくらい差が出るのか」を調べた。

主な違反を紹介しておこう。

指定場所不停止 347点/1337点(免許アリ/ナシ、以下同)
信号無視  176点/541点
右側通行(逆走) 64点/235点
右左折方法違反 58.1点/91.3点
歩行者保護不停止等 44点/84点  

免許の有無によって明らかに違反回数に大きな違いが出たわけだが、意外なことに結論は以下のように記されている。

「運転免許を受けている者と受けていない者との間で、一部の項目を除き、運転者の運転行動に全体的には大きな差はないと言うことができる。個々の違反行為では大きな差が生じているものもあるが、これらはもっぱら交通ルールに関する知識の差が要因となっているものと考えられる」

これだけ大きな差がありながら「運転行動に大きな差はない」としており、その差が出た理由を「交通ルールに関する知識の差が要因」としている。

免許の有無で交通ルールに関する知識の差が生じるのは当たり前のことである、だからこそ「20km/h以下で免許不要とするのは危険」という結論を出すべきではなかったのだろうか?

電動キックボードに関する改正道交法は本当にこのまま施行されてしまうのか。

主導する経産省は「人命より経済」で規制緩和を強力に推進しているが、警察庁は「規制緩和を目的としたものではない」とのスタンスだ。

警察には電動キックボードの取り締まりを強化して積極的に取り締まって欲しいと祈るばかりだ。