水谷隼さんと済美高・女子卓球部の部員たち【写真:荒川祐史】

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ポカリスエット「エールキャラバン2022」で愛媛・済美高を訪問

 卓球で五輪に4大会連続で出場し、東京五輪混合ダブルス金メダルを獲得した水谷隼さんが現役高校生と触れ合った。7月4日、愛媛のスポーツ強豪校・済美高を訪問し、運動部の生徒400人を相手に特別授業を実施。さらに、今夏のインターハイ出場を決めている女子卓球部に直接指導を行った。「僕が高校生の時はインターハイで優勝することを目標に一生懸命やってきた。インターハイで皆さんが輝いてくれることを応援しています」と済美高と全国の高校生にエールを送った。

 東京五輪金メダリストが現役高校生に直接指導する。夢のような1日が、梅雨明けの四国で生まれた。

 7月4日、松山市民会館のホール。この日のために東京からやってきた水谷さんが姿を現すと、座席を埋めた400人の生徒から「おおっ〜!」というどよめきと拍手に包まれた。「こんなに声援がもらえるなんて……僕、ジャニーズじゃないですよ。大丈夫ですか!? でも、うれしいです」と水谷さんは笑った。

 この日登場したのは、部活で汗を流す、すべての高校生を応援するポカリスエットの「エールと、ともに。」プロジェクトの一環として、大塚製薬が2014年から開催する「エールキャラバン2022」。各競技のレジェンドがサポーターとなり、部活を頑張る高校生、指導者に直接指導するだけでなく、レジェンドの高校時代の苦しみや挫折から何を学んだか、経験をもとにしたエールを送る活動だ。

 コロナ禍以前の2019年12月までに全国45校を訪問し、約3万5000人の高校生と交流。今年はインターハイが四国各地で開催されるため、四国の高校5校で実施される。その第1弾として登場したのが、水谷さんだった。

 特別授業で語られたのは、金メダリストならではの貴重な経験の数々。高校生からの質問で現役時代を振り返った。

 インターハイ優勝を経験した青森山田高時代については「いろんな部活が凄く強いスポーツ名門校だった。周りに負けないように練習していたら、インターハイ優勝もできた。高校生は純粋に競技を楽しめる時期。僕も一番楽しかったし、もし戻れるなら高校時代がいい」と話し、「人生一度しかない。80年あるうちの3年くらい全力で生きてもいい。グダグダしてボーッとするのはいつでもできる。今こそやりたいことを限界まで挑戦してほしい」とアドバイスを送った。

 また、座右の銘が「強者であり、弱者であれ」であることを明かした。その理由について「五輪金メダルも獲ることができたし、トップを走り続けられたけど、目線としては一番下でありたい。年を取ると人をあごで使うようになることもある。でも、目線を低く広い視野を持っていると気付きも多い」と説明。「部活もきっとエース一人の力では勝てない。常に支えてくれている人の気持ちを忘れてはいけない」と話し、スポーツにおける感謝の気持ちの大切さを説いた。

 コロナ禍でできないことも増えたが、水谷さんは「ピンチはチャンス」と考えて過ごしたという。「部活で放課後4時間練習したら、例えば自分でもう1時間イメージトレーニングをしてみる。そうした1時間の積み重ねでも継続すれば、他の選手や学校と大きな差になっていく」と日々の意識に成長のヒントがあると伝えた。

 生徒はもちろん、先生も必死にメモを取り、充実した45分間の特別授業。「試合中にパンツを穿かない理由はなぜですか?」という生徒からの問いにも「やってみれば気持ちが分かるよ。君は野球部? それなら適してるね。穿かない方がいいと思うよ」と笑いを取るなど、和やかなムードで幕を閉じた。

女子卓球部13人に直接指導「皆さん、卓球が好きなんだなって」

 交流は、これで終わりではない。

 学校に移り、行われたのは女子卓球部への直接指導。多くの選手がインターハイ出場を決めている13人と汗を流した。まずはウォーミングアップで行っていた2人一組のラリーに“飛び入り参加”。実際に打ち合った1年生の選手を「緊張したけど、テレビの中にいる人と一緒にできてうれしかった」と感激させた。

 さらに、インターハイを控える選手たちと1人5分ほど個別に打ち合い、現役時代さながらのサーブやスマッシュを披露。終わった後はそれぞれから質問を受け、サーブのスライスのかけ方、レシーブの際に意識すべきことなど、具体的にアドバイスを送った。選手たちは真剣な眼差しで聞き入った。

 1時間半にわたり、指導を行った水谷さんは最後に、ポカリスエットのスクイズボトルを個別に、サイン入りのウォータージャグをチームに贈呈。選手たちと記念撮影を行い、「皆さんがインターハイにかける想いがひしひしと伝わってきた。みんなで切磋琢磨して頑張ってください」と挨拶し、エールを送った。

 高校の部活指導は初めてだったという水谷さん。1日を終えた後で地元テレビ局2台のカメラの前に立った。

「高校生とどう接すればいいかと思って緊張したけど、やってみたら選手の皆さんの向上心が高かったので、凄く教えやすかったです」と笑顔。「皆さん、卓球が好きなんだなって感じた。自分が高校生の頃、漠然と強くなることだけを考えて打ち込んでいた頃を思い出しました」と感慨深げな様子だ。

 今年2月の引退セレモニーから、まだ半年足らず。今後の活動については、卓球の普及に強い想いを持っているという。「卓球というのは生涯スポーツなので、ぜひ死ぬまでやってほしい。練習を積んでいけば、必ず強くなる、結果を残せるということをこれから伝えていきたい」と決意を新たにした。

 済美卓球部の練習場には「済美から世界へ」というスローガンが壁に掲げられていた。

 選手たちにとって、五輪金メダリストとの触れ合いは、まさにその言葉をよりリアルに感じられる1日に。

 そして、全国の高校生たちにとってはインターハイが目前に迫っている。

「僕が高校生の時はインターハイで優勝することを目標に一生懸命やってきた。そのインターハイで、皆さんが輝いてくれることを応援しています」

 水谷さんが愛媛の地で最後に残した言葉は、この夏にかけるすべての高校生へのエールだ。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)