倒産した高尾の東京支店(東京都台東区、記者撮影)

国民的な娯楽産業を支えてきたメーカーたちがいま、苦境に立たされている。

2022年5月30日、愛知県の中堅パチンコメーカー・高尾が東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請した。

同社は戦後間もない1950年創業の老舗で、近年は「弾球黙示録カイジ」などのシリーズを展開してきた。帝国データバンクと東京商工リサーチによれば、近年の業績は大きく悪化し、資金繰りが逼迫。自力での経営再建を断念した。負債総額は66億円と見込まれている。

売上高はピーク時の6割減に

日本生産性本部の『レジャー白書2021』によると、全国パチンコホールの2020年の売上高は14兆6000億円で、前年から27%も減少。コロナ影響による集客への打撃は甚大だった。近年は多様化するレジャー市場で徐々に規模が縮小しており、35兆円に迫ったピーク時の2005年と比べると、実に60%近い減少だ。


パチンコホールの売り上げ減少は当然、パチンコ機やパチスロ機メーカーを直撃する。パチンコ・パチスロ機大手のセガサミーホールディングスは2021年3月期、遊技機事業は106億円の赤字に転落した。これを受けて、2020年末にかけて希望退職の募集に踏み切った。

このリストラの結果、2021年3月末時点の遊技機事業の従業員数は前年から377人減の1022人となった。

「ルパン三世」などの人気パチンコシリーズを手掛ける大手メーカーの平和も2022年3月期は6億円のセグメント赤字に転落した。同社も2022年初めに遊技機事業を対象として希望退職を募集し、255人が同社を去った。同社は人員削減にとどまらず、全国に25カ所ある営業拠点のうち、八王子や郡山など5カ所の廃止にも踏み込んだ。

相次ぐ経営不振のきっかけとなったのが、2018年2月の規制強化だ。2016年にカジノ法案が成立したことに伴い、警察庁は遊技機における出玉数規制の上限を引き下げた。政府としてギャンブルなどへの依存症対策の強化を求められ、それを果たす狙いがあった。

これに対し、メーカー各社は「(規制に)ぎりぎりの性能で開発し、(新しい規制への)適合を狙ってきた」(大手メーカー幹部)が、規制強化前と同様にホールの投資意欲をそそるような機械はなかなか現れなかった。

そこに追い打ちをかけたのがコロナ禍だった。2020年に健康増進法が施行され、ホール内が原則禁煙となったこともあって、ホールの客離れは急加速した。2020年度、それぞれの業界団体が把握しているパチンコの新台数は、2012年度比61%減の92万台。パチスロも同74%減の26万台まで落ち込んだ。

ユーザー目線に欠けた新機種開発

各社が苦戦する背景には、それまで看板タイトルであれば台数を稼げた市場環境に気が緩み、「新機種の開発部隊からユーザー目線が抜け落ちていた」という指摘も上がる。

ある大手メーカーの関係者は、自社の看板タイトルの不振について「(演出などが)王道でわかりやすく、老若男女問わず打てる機械だったのに、開発者が凝りすぎてユーザーの心を射止められなかった」と明かす。

市場トレンドの変化をしっかり追いかけられていなかったという声も少なくない。「まったく開発が台を打ってないとは思わないが、昔の開発者のように、財布がすっからかんになるほど遊んでいるかどうか。ここが、沼にはまるほど面白いヒット作になるか否かを分ける」(大手メーカーの関係者)。

リストラを断行した大手メーカーは、反撃の機会をうかがっている。

セガサミーは遊技機稼働シェアで2年以内にトップを目指す目標を掲げた。2022年3月期は3位だった。


平和も最新ニーズの把握・分析を強化し、プレーヤー目線のモノづくりを徹底する方針を発表した。「今回、40歳以上59歳以下の従業員を対象に希望退職を実施したが、これはプレーヤーが20代、30代にシフトしてきているため。当社もその年齢層に合わせた体制に変えた」(平和の嶺井勝也社長)。

ただ、セガサミーは成長分野である主力のゲーム事業が好調で、成熟した遊技機事業はむしろ着実な収益獲得期にある。JPモルガン証券の森はるかアナリストは「(セガサミーの)遊技機事業は攻めすぎず、利益水準を維持する戦略に変わった。これは大きな評価ポイント」と指摘する。

平和もゴルフ場運営が堅調だ。セガサミー、平和とも遊技機事業の苦戦を多角化経営でカバーできている。経営状況がより深刻化しうるのが、冒頭の高尾のようにパチンコ一本足打法の中堅メーカーだ。

中堅メーカーに迫るシェア争い

例えば、東証スタンダード上場の中堅メーカー・藤商事。2022年3月末時点で自己資本比率80%と財務水準は良好で、ライトノベル原作の大型タイトル「Pとある魔術の禁書目録」の人気シリーズ化に成功した。一方で、「リング」などホラー系の看板シリーズが軒並み低迷し、2020年や2022年は最終赤字に転落した(いずれも3月期)。

2016年からは新規事業としてスマホゲームを計3本発表し、収益化を目指し4本目の開発を進めていたが、2020年に事業を断念した。

今山武成社長は2022年5月に開かれた決算説明会で、「基本的に人を切るという考え方は、創業家からも(避けるよう)強く言われており、私自身も考えていない」と明言したが、大手メーカーとのシェア争いは一層の激化が見込まれ、業況は予断を許さない。

看板タイトル頼りで生き残れる市況は終わりを迎えた。製販一体となってニーズの変化にアンテナを張ることができなければ、縮小するパチンコ市場で生き残ることは難しくなりそうだ。

(森田 宗一郎 : 東洋経済 記者)