価格が変動する商品の中で、なじみが深いものの1つはフライトチケットだろう。同一区間の利用なのに季節によって、時間帯によって、高くなったり安くなったりすることに、当初は新鮮な驚きを感じたものだ。

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 その後は、格安航空会社(LCC)が登場してきて値段の幅がさらに広がった。LCCはコストを切り詰めてより競争力のある価格を設定するところに最大の存在理由があるから、搭乗口が遠くても機内サービスがなくても、利用者がクレームを付けることはない。空の旅を身近にした功績は大である。

 テーマパークでも入場料金の変動は進んでいる。土・日・祝日に溢れるような入場客が集まり、人気アトラクションに長蛇の列が出来て、1日滞在しても遊んだ実感を得られないのに、何故かクタクタになった経験は誰にでもある筈だ。

 待たされるばかりでは、満足度が低下するのは止むを得まい。その上、繁忙日とそうでない日に価格で差を付けると、混雑状況が緩和されるという効果が生まれ、アトラクションの待ち時間も多少短くなったように感じてもらえれば、満足感の向上にもつながる。

 美容院でも同様の動きが始まっている。時期や曜日、時間帯によって予約の入り方には一定の傾向があった。利用者も承知しているものだから、予約の先取り競争のようになってしまう。込み合う時間帯の美容師は休憩すらもろくに取れない状況になり、閑散時に手持無沙汰の時間が続くのはいかにも効率が悪い。

 美容師の職場定着率が悪いのも深刻な問題だった。厚生労働省が産業別にまとめた離職状況によると、理美容業が含まれる生活関連サービス業の離職率が1年以内で29.1%、3年以内で56.1%である。地方では一層深刻な問題になっていた。

 予約が平準化するように20〜30%程度の値引きを行って、平日と週末の凸凹が改善されれば、美容師の働き方や収入が安定し、慢性的な人手不足対策にもなるという訳だから効果は大きい。

 飲食業界でも同様の動きがある。ビジネス街では、昼食時間帯の飲食店に顧客が押し寄せて、昼食難民が発生するほどの混雑が生じていた。店側にとっても販売機会の喪失という重大な問題があった。コロナ禍で結果的に緩和されているが基本は変わらない。

 そこで、昼食メニューの価格を13〜14時の時間帯に値引きする店が、現れるようになった。飲酒時間帯のドリンク価格に差を付けるという工夫もある。例えば16時には300円でスタートしたジョッキビールが、17時には400円、18時には500円、19時には600円と変遷した場合、時間帯ごとの顧客が平準化へ向かうことと、回転率の向上にも寄与する可能性がある。

 未だに続くコロナ問題を考えると、「密」をコントロールできる魅力は大きい。なるべく長く働いて収入を増加させたい、という従業員の希望にも叶うという発想だ。

 自動販売機にも時間が経つと、安く買えるものが出て来た。渋谷のオフィスビルや有楽町の高架下などに設置されているサラダや食品の自販機の中には、時間が経つごとに安く買えるものがある。売り切ってフードロスを削減しようという、スーパーの値引きシールと同じ発想だから時代感覚も備えている。

 スーパーの棚に並ぶ商品は、消費期限の長いものが選ばれる傾向が強かった。フードロスを避けるという理念だけでは乗り越えられない壁があったのだ。消費期限が近い商品を値引きすると、対象商品から売れていくという傾向は実証的に確認されている。理念で動く人達がいれば、実利に聡い人達もいる訳だから、切り口にもいろいろな工夫が必要という訳だ。

 今後はほとんど全ての商品に変動価格制が導入されるとみなす声もある。それを可能にするのが人工知能(AI)だ。

 これまでは、ベテランの担当者が経験と勘を頼りに、天気や競合店の状況、イベントの予定などを勘案しながら、最適価格を設定していた。今やAIが短時間で顧客の行動を予測し、売れ行きを判定する。顧客の行動を、先読みする時代が始まっている。