在宅勤務が定着したことで、職場に生じているさまざまな変化とは?みらいワークスの岡本社長(右)と、リーマントラベラーこと東松氏(左)が、ポストコロナ時代の働き方や自分との向き合い方について語り合った(撮影:今井 康一)

コロナ禍を経て、日本にも「日常」が戻りつつある。経済活動も再開され、リモートからオフィスワークに戻る動きも見られるようになった。これからの時代、働き方や休み方、仕事への向き合い方はどう変化していくのだろうか。

ちょうど2年前、コロナ禍でも自分を見失わない働き方や休み方をテーマについて対談した、フリーランスや転職・副業希望者などの人材マッチング事業を手がける「働き方」のプロ、みらいワークスの岡本祥治社長と、広告代理店で働くかたわら週末は「リーマントラベラー」として世界中を旅している「休み方」のプロ、東松寛文氏が、再び語り合う。

リモートとリアルの最適バランス

――コロナも一段落し、企業の中にはオフィスワークに回帰する動きも見られます。改めて世の中の働き方や、休み方の変化をどう感じていますか。

東松:僕の場合は、ほとんどリモートになりました。出勤は月に2回。

岡本:えっ、「週」じゃなくて「月」に2回ですか(笑)?

東松:出社の必要はほぼなくなっていますが、マネジメントする上司の立場としては顔が見えたほうがいいと思うので、たまに出社するようにしています。

岡本:東松さんはオンとオフを切り替える“達人”ですから、リモート中心でも自分を律しながら効率的に仕事を進められそうですね。でも、リモートだとダラダラしてしまって、誰かがいたほうがほどよい緊張感が保てる人もいる。そのリモートとリアルのバランスは人によってさまざまですよね。

業務の特性によってもリモートとリアルの最適な割合は違うことがわかってきました。当社の例で言うと、営業職のメンバーは、社内で情報共有や意見交換をする中で物事が決まることが多いので、客先に出ていても直帰せずオフィスに戻る人が増えましたね。それと、新入社員が入った部署などは、チームビルディングの必要があるので、出社の割合が高まっています。

東松:岡本さんの会社では、一律ではなく、部署によってベストな出勤の割合を選択できる設計にしているのがいいですね。

それと、最近になって顕在化したのは会社への「帰属意識」の差です。例えば、上司が「オフィスで会議しよう」と言っても、部下の側は「なんとなく『会議しようよ』と言われてわざわざ出勤するのはイヤだ」と感じている。

その世代間の意識の差が、これまではグラデーションになっていたのが、リモートの普及でスパっと色分けされたイメージがあります。そこがもう少し寄り添えるといいなと思うのですが……岡本さんの会社ではどう工夫していますか?

オフィスの中に「バー」を作ったら…

岡本:すごく難しい課題ですよね。当社でも部署や階層を超えたつながりや、帰属意識を高めることは意識して取り組んでいます。例えば、コロナ前から導入しているのが「部活制度」。今いちばん盛り上がっているのが「ボードゲーム部」で、“部員”が定期的に集まってボードゲームをワイワイ楽しんでいます。


(撮影:今井 康一)

東松:そんな部活があるんですね! 自然と仲良くなれそうです。

岡本:あとは、2022年3月に創業10周年を迎えたのを機にオフィスを移転したのですが、新しいオフィスの中に「バー」を作りました。40代前後の世代ならご存じかもしれませんが、その名も「ルイーダの酒場」(笑)。実際にお酒も置いてあって、仕事を終えた社員がふらっと立ち寄ってボードゲームに興じたり、それを見ながらお酒を楽しんだりしています。

東松:すごいですね! これまでのオフィスは「毎朝決まった時刻に行かなければいけない場所」でしたが、なんだかオフィスの概念、定義が変わりますよね。

岡本:おっしゃるとおりで、今回のオフィスの移転に際して「オフィスの価値って何だろう?」と改めて考えました。そして、「リモートが主体だけど、オフィスに行ったらコミュニケーションやコラボレーションが自然と発生する空間にしたい」とオフィスの価値を再定義したんです。たぶんコロナを経験していなかったらそういう発想にはなっていなかったと思いますね。

東松:そこで生まれる雑談も、オフィスの大きな価値になっていると思います。Zoomが一気に流行った時に、合理化・効率化の観点から、雑談も「無駄」なものとして排除されました。

でも、その結果、会議も想定の範囲内で終わってしまい、想定外の化学反応が起きにくくなった。会議の前後の「曖昧」な時間の中で生まれていた雑談って、実はすごく貴重だったんだなと……岡本さんのオフィスにはそういう曖昧な空間が意図的に設計されていて、うらやましいなと思いました。

岡本:ただ、オフィスはそのように設計したけど、リモートの中で雑談や偶然のコミュニケーションをうまく発生させる方法は、僕たちもまだ見つけられていないんです。「オンラインのランチ会」みたいなことはできるけど、どうしても作為的、計画的になってしまう。そうではない、偶発的なコミュニケーションをどうやってリモートの中で生み出していくのかは、今も試行錯誤を繰り返しているところですね。

リモートワークで働き方が「昭和」に戻った?

東松:働き方に関して言うと、世の中的に「あまり働きすぎるな」という風潮がありますよね。きっちり勤怠管理してなるべく残業させない、みたいな。仕事は仕事、プライベートはプライベートと区切られちゃって、そこも曖昧な時間がなくなっている。


(撮影:尾形 文繁)

岡本:そうですよね。一方で不思議な現象だと思うのが、昔は勤務中に「病院に行ってきます」「子どものお迎えに行ってきます」と言いにくかったのが、リモートが普及してからは「ちょっと抜けてきます」がOKになっている。リモートによって、逆にオンとオフがうまく融合している側面があるんです。

僕の中では「昭和(戦前)に戻った」と見ています。戦前の昔は、会社組織で働く人より個人商店を営んでいる人が大半で、お母さんが子育てしている横でお父さんが働いているといった、生活の中に職場が溶け込んでいました。それが、戦後から高度経済成長期にかけて企業組織ができて、地方から大都市に来て集団で働くようになり、だんだん「職」と「住」が離れていきました。

そこから平成になり、終身雇用からだんだんと転職が当たり前になって、徐々に組織から個人へと働き方の軸足が移ってきた。そこにコロナがやってきて、リモートが普及し、再び「職」と「住」が接近してきたんです。

――東松さんが指摘された「オンとオフの区別に『曖昧さ』がなくなっている」という傾向と、岡本さんがおっしゃった「リモートでオンとオフが融合している」という傾向の2つがあるのが面白いですね。

東松:個人にフォーカスすると、自分を律しながらオンとオフをうまく切り替えることが大事。でも企業にフォーカスすると、社員が多様な働き方ができるよう、あえてオンとオフを区別しない曖昧な部分をつくってもらうことが必要だと、岡本さんのお話を聞いて思いました。会社の中にそういう曖昧さがあることで、個人としてもオンとオフのフレキシブルな切り替えができるようになりますよね。

でも、そのベースにあるのはやっぱり会社と社員の信頼関係です。会社側が社員を信頼して性善説に立たないと、制度を設けてもうまくワークしない気がします。

岡本:信頼関係が、リモートワーク時代におけるキーワードだということは間違いありませんね。

東松:信頼関係、という点でもう1つ言うと、リモートには人と人との信頼関係をすり減らす側面もあるのではないか、と思っています。ひと昔前なら、相手に何かを依頼する時は直接出向くのが当たり前でしたが、それが電話に代わり、メールに代わり、Zoomやチャットに代わっていった。でも、コミュニケーションが効率化・簡素化されたぶん、もとの信頼関係がだんだん目減りしていっている気がします。

これまでリモートだけの関係だった人もそうだし、初対面の人はなおのこと、できるだけリアルに会うことで信頼関係を築いていかないと、と意識はしています。

岡本:まったく同感です。当社も、地方創生の事業でさまざまな地域の自治体や企業から人材の要件やニーズを聞いてまわるのですが、リモートだけで商談していてもなかなか話が進展しない。でも、こちらから会いに行くと、翌週からはなぜか案件が動くんですよ(笑)。

東松:一気に「血が流れる」みたいな(笑)。

岡本:やっぱり、まずはお互いに顔を合わせるところから信頼関係は生まれるものだとつくづく感じますね。リアルなところで「では、これからよろしくお願いしますね」とガッチリ握って、そこから一気に血が通いだす。

リモートで「切り出しにくい案件」増えてる?

東松:僕もオーストラリアの「ケアンズ&グレートバリアリーフ観光大使」をやらせていただいているのですが、それも現地の観光局の方が来日したタイミングでたまたまお会いして、「何かお願いできませんかね……?」と、微妙なニュアンスの打診があったんです。メールやリモートでは言いづらかった話が、たまたま会った時にポロっと出て。


岡本:その観光局の方の気持ち、すごくわかるなぁ(笑)。仕事のお願いごとをするときに、メールやリモートでは切り出せなくて、実際に会って雑談している中で「あ、実は……」とはじめて切り出せるものがある。

東松:リモートが定着したことで、そういった微妙に切り出せなくて止まっている案件がたくさんありそうですね。昔だったら、一緒に飲んでいる流れで軽くお願いしていたことも多かったけど。

岡本:そうなんですよ。でも、これも「昭和」な考え方なのかなぁ(笑)。

東松:でも、若い子たちも会ってイヤな気持ちにはならないと思いますよ。うまくリアルなコミュニケーションを取り入れるのは、世代に関係なく必要だと思います。

(構成:堀尾 大悟)

(岡本 祥治 : みらいワークス社長)
(東松 寛文 : リーマントラベラー、休み方研究家)