いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、お茶の水の喫茶店「SALON DE CAFÉ いしい」をご紹介。

「のりトースト」が消えたと思っていたら…「SALON DE CAFÉ いしい」(お茶の水)

○1980年代のムードを残す正統的な喫茶店

お茶の水駅の聖橋口近辺の喫茶店といえば、すぐに思い出すのは以前ご紹介した「穂高」かもしれません。とても居心地のいい店ですが、またタイプの異なる、昔ながらの喫茶店もすぐ近くにあるのです。

オーソドックスな立て看板

聖橋口正面、2階に「ディスクユニオン」が入っている「お茶の水サンクレール」1階の「SALON DE CAFÉ いしい」がそれ。ユニオンとは反対側の、東京メトロ千代田線・新御茶ノ水駅改札に通じる階段脇です。

適度にレトロな店内

イマドキっぽいカフェではなく、カウンターやテーブル席に整然と並ぶ茶色い椅子の質感などに、1980年代のムードを残す正統的な喫茶店。

考えてみると、ずいぶんひさしぶりです。しかも午前中だったので、お客さんがいないタイミングで伺うことに成功。いつも複数のサラリーマンがいる印象があったので、お店を独り占めできたようなちょっと得した気分です。

新御茶ノ水駅に直結

それにしても、3面がガラス張りになった開放的な雰囲気は変わらないなー。変化があるとすれば、禁煙になっていたことでしょうか。以前は喫煙OKの店で、サラリーマンがタバコを吸っている光景を見かけたのですが、やはり時代の流れでしょうね。でも15年前にタバコをやめた立場からすれば、当然ながら現在のほうが快適であります。

普通の電源タップのかわいさ

あと関係ないけど、「コンセントございます。ご自由にお使いください」というメッセージとともに、家庭用みたいな電源タップがおいてあるところがかわいいと思いました。なんか憎めなくて。

ところで、このお店にまたお邪魔したことにはひとつ目的があったのです。ずっと前にここで食べた「のりトースト」がずっと頭に残っていたんですよねー。のりトーストといえば、すぐに思い出すのが(これまた以前にご紹介した)神田の「珈琲専門店エース」ですが、こちらはこちらで、いい意味での“なんてことなさ”が魅力的だったのです。

まさかの「ハーフサンドセット」推し

ところがメニューを見てみると、残念ながら見当たりません。そうかー、しばらく来ないうちになくなっちゃったのかー。でも、珈琲・紅茶・ミルクと組み合わせることのできる「ハーフサンドセット」の具材には、「ハムチーズ」「タマゴ」「ポテトサラダ」と並んで「のりチーズ」というものがありますね。こちらに統一されたということなのでしょうか? というわけで、のりチーズのハーフサンドセットとアイスコーヒーをオーダーすることにしました。

明るく癒し効果抜群

BGMは有線放送でしょうか?エミリーの“Hide”とか、レトロなお店の雰囲気とは少しばかりミスマッチ感のある楽曲が流れています。でも、オールディーズなどがかかっているよりも、こっちのほうが自然かも。忙しそうに通り過ぎる人の姿を目で追っていると、ガラス窓で隔てられたここだけ、時間がゆったりと流れているような気もしてきます。

ハーフサンドセット【のりチーズ】

さて、読みかけの本に目を落としていたら、やがてハーフサンドセットとアイスコーヒーが運ばれてきました。サンドイッチなのですから当然ですが、トーストに大判ののりがのっていたのりトーストとは見た目の印象がかなり違います。

でもパンをめくってみたら、のりがしっかり入っておりました(って当然ですけど)。食べてみれば、きゅうり、チーズ、のりの相性がよく、これはこれで予想以上に満足できる味ですね。

内部にはのりがしっかり

ただ、ハーフサンドというだけあって、人によってはちょっと物足りなく感じるかもしれません。食欲のない朝とか、あるいはちょっと小腹がすいたときなどにいいのかな。

ところが、食べ終えてからメニューをなんとなくまた見てみたら、そこに衝撃的な記述を発見したのです。こげ茶色の地に白抜きで「ハーフサンドセット」「トーストセット」と大きく書かれているので、それを見て「あー、のりトーストはなくなっちゃったのね」と思い込んでいたのですが、よく見れば「トーストセット」という表記の下に小さく「(のりトーストへ変更出来ます)」と書かれていたのです。

「のりトーストへ変更出来ます」って書いてあるじゃん!

つまり、のりトーストはひっそりと現存していたのです。しかし見落としていたわけで、これは痛恨のミスですなあ。とはいえ、のりの入ったハーフサンドセットに満足できたのは事実だし、これもひとつのいい経験だったと解釈するべきですね。

禁煙になって店内の快適性はさらに高まったわけだし、近くに用事があったらまた立ち寄ってみよう。

●SALON DE CAFÉ いしい

住所:東京都千代田区神田駿河台4-3 新お茶の水ビル サンクレール商店街1F

営業時間:[月〜金]8:00〜20:00、[土]11:00〜20:00、[日]11:00〜19:00

定休日:不定休

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)ほか著書多数。最新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(3月4日発売、PHP研究所)。 この著者の記事一覧はこちら