「モータースポーツの聖地」と謳われるシルバーストンは、F1マシンが最もF1マシンらしい走りを見せるサーキットのひとつと言われている。

 つまり、莫大なダウンフォースで圧倒的な速さで駆け抜ける中高速コーナーが連続するということだ。

 それは、アルファタウリにとって苦戦を意味する。

 AT-03は依然としてダウンフォース不足を抱え、フロントのグリップが不十分で、高速コーナーでは中団グループのライバルに後れを取ることが多いからだ。


角田裕毅は気まぐれな天気を攻略できるか

 角田裕毅は第10戦イギリスGPを前に語る。

「厳しい戦いになるんじゃないかと思っています。僕らがいいパフォーマンスを出せてきたのは、モナコのような低速コーナーの多いサーキット。今回はアップグレードを持ち込むチームも多そうなので、僕らとしてはできるだけクルマからパフォーマンスを引き出していかなければと思っています」

 アルファタウリはエミリア・ロマーニャGP(第4戦)で改良型フロアを投入して以来、大きなアップグレードはない。今回のシルバーストンでも、地元イギリスのチームを中心に改良パーツを投入するチームが少なくないなか、アルファタウリはマシンに進歩がない。

 シーズン開幕前から抱えてきた空力性能不足に、大きな改善を果たせていないのが現状だ。

「正直に言って、その点に関してはあまり進歩はありません。ここまで大きなアップグレードは入っていませんから。なので、今後のアップグレードがその問題を解決してくれることを願っていますけど、今のところはその制約を抱えて走るしかありません。

 ただ、マシンに対する理解は深まってきています。(現状のマシンから)最大限にパフォーマンスを引き出すための方法は見えてきています」(角田)

 苦戦を覚悟していたスペインGP(第6戦)で入賞を果たしたように、アルファタウリは思わぬパフォーマンスを発揮する時もある。逆に、得意なはずのサーキットで思いどおりのパフォーマンスを発揮してくれない時もある。

 だからこそ、事前の机上予想に囚われすぎず、レース週末のなかで目の前のマシンから最大限のパフォーマンスを引き出すことに集中するしかない。それがマシンを進歩させることにもつながると、角田は言う。

「予想以上にいい時もあれば、予想に反してすごくよくないときもあります。特に今週末は予想が難しい天気になりそうですし、何が起きるかわからないと思います。

 仮に予想よりもマシン挙動がイマイチだったとしても、その状況のなかで最大限のパフォーマンスを引き出すしかありません。エンジニアに最大限のフィードバックをすることが、今後に向けた開発につながると思っています」

 前戦カナダGPではまずまずのパフォーマンスが期待されたものの、角田は4基目のパワーユニット投入で最後尾スタート。同僚ピエール・ガスリーもFP3で2位につけていたものの、予選でブレーキトラブルに見舞われてQ1敗退。戦略ミスもあって、ふたりともにノーポイントに終わった。

 角田自身は、ピット出口でブレーキをロックアップさせてクラッシュするという苦い結果になってしまった。今年初めての大きなミスだが、自分のミスはしっかりと見つめ直せている。

「集中力を失っていて起きたことで、完全に僕のミスです。ピット出口であそこまでプッシュする必要はありませんでしたし、それ自体は小さなミスでした。あそこまではかなりいいペースで走れていただけに、ああいうかたちでレースが終わってしまったことは余計に残念でした」

 昨年のシーズン前半戦は、何度もクラッシュを繰り返し、そのたびに自信が揺らぎ、速さも失っていった。

 しかし、今年の角田はそんな負のスパイラルに陥る恐れはなさそうだ。

「去年のクラッシュとは別物だと思います。去年は純粋にドライビングがまずくてクラッシュしていました。いいタイムを出そうとして、プッシュしすぎてクラッシュをしていたんです。

 でも今回は、集中力を欠いたせいで犯したミスです。そういう意味ではバカげたミスでしたし、今年あんな大きなミスを犯したのは初めてでしたけど、間違いなく二度とあんなミスはしません。今後に向けていい学習にはなったと思います。

 ポジティブな要素もたくさんあったレースでした。後悔は忘れて今週末のレースに集中したいと思っています」

 今週末のシルバーストンは、週末を通して雨絡みの予報もある。そんな不安定なコンディションのなかで、いかにパフォーマンスを発揮できるかが勝負になる。

 そのような状況のなか、マシンの持つポテンシャルを最大限に引き出し、ドライバーの腕も最大限に発揮しなければならない。2年目の角田の真価が問われることになりそうだ。