日本と韓国の違いを「食」という視点から考えてみませんか(写真:Fast&Slow/PIXTA)

個人では仲がいいのに、国同士になるとなぜ揉め続けるのか? 韓国で新政権が誕生した今、両国関係はどう変わっていくのか? いったい何を理解すれば、日韓の揉め事が解決するのか? 
これに答えるのが、『最強の働き方」『一流の育て方』などのベストセラーでもよく知られる、在日コリアンのひとりであるムーギー・キム氏。京都に生まれ、日韓両国の文化の中で育ち、世界中で学び働きながらも、物心がついたときから40年にわたり、日韓関係について考えてきた。
日本と韓国、双方の視点や互いの誤解、それぞれの価値観をまとめた新著『京都生まれの和風韓国人が40年間、徹底比較したから書けた! そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。: 文化・アイドル・政治・経済・歴史・美容の最新グローバル日韓教養書』が発売された。著者が「人生を通じて最も書きたかった1冊」だという。
本記事では、そのムーギー氏が「『食の違い』でわかる『日本と韓国』決定的な3つの差」について解説する。

40年間、日本と韓国の間で考え続けてきた

皆様はじめまして、覚えてくださっている方は、お久しぶりです。今まで長らく、メディア活動から遠ざかっていましたが、それは仕事に加え博士課程まで始まり、おまけに子どもも2人生まれて、奥さんの尻にしかれて「東アジアイチのイクメン」をめざして育児に奮闘してきたからです。


しかし、なんといっても最大の理由は、今回出させていただいた「グローバル日韓教養書」の執筆に2年半もかけていたからだ。

40余年に及ぶ自分の実体験に加え、2000年に及ぶ両国関係に関する日本側と韓国側の歴史的文献や学術論文および英語・中国語の文献を読み込み、執筆内容は複数の専門家に何重ものチェックを受け、ようやく完成した1冊である。

なお、7年も続いたミセス・パンプキンの人生相談が何の予告もなく止まってしまったのも、ひとえに私がミセス・パンプキンのドラフトを放置してしまっていたからである。ここで今更ながら、お詫び申し上げたい(パンプキンは、いまも元気にしています)。

本日が新刊の発売日なわけだが、今後しばらくの間、新しい日韓関係に関して、はなはだ僭越ながら私が40年間考え続けてきた事柄の一部を共有させていただきたい

さて、長かったコロナによる移動規制も徐々に解除され、最大の関門であった「成田空港で、何時間待たせるんや問題」「PCRテスト、何回やったら気が済むんや問題」「意味なさそうなアプリ、何個ダウンロードさせるんや問題」が解消に向かう今、久しぶりに韓国に遊びに向かおうという方々も少なくないのではなかろうか。実際報道によると、韓国領事館の前にビサをとるための長蛇の列がつくられているという。

そこで今回は、韓国に遊びや仕事で行かれたときに毎日の日常生活、それこそ食事ひとつににじみ出る、「『日本文化』と『韓国文化』の決定的な文化的違い」に関して、皆様にご説明させていただきたいと思う(なお以下の比較は、あくまで全体的な傾向の違いであり、いわゆる「韓国人ぽい日本人」も「日本人ぽい韓国人」もたくさんいることは、言をまたない)。

「食文化の違い」でわかる「日韓の国民性の違い」

日本人と韓国人は、基本的に食文化も共通点が多い。 韓国では「寿司」「とんかつ」がブームだし、実際に私の友人たちも日本に来ると、とんかつ名店巡りに勤しんでいる

ちなみに寿司のレベルは韓国もずいぶん上がって、日本の高級店と比べても遜色のない店も増えてきたが、韓国のとんかつは、なぜか日本のとんかつに、まったく追いつけていない(日本は韓国に所得水準等で追いつかれたとはいえ、とんかつの質ではまだまだ日本が圧倒的先進国なのだ)。

さて、「日本製品不買運動」で大騒ぎしているかと思いきや、じつは明洞や江南の(日本式の)居酒屋はお客さんでいっぱいである。「そば」「ラーメン」が好きな人も多く、大きな声では言えないが、「最も好きな外国の食事は和食」という韓国人も非常に多い

これに対し日本人も、「焼肉」はもはや日本食に組み込まれる勢いだし、「キムチ」も家庭に普及している。韓国料理店も新大久保のコリアンタウンだけでなく日本中に存在しており、韓国にグルメツアーに行く女性たちも非常に多い

日韓両国の食卓をより豊かにするお互いの食文化だが、両国を40年眺めつづけてきた私から見ると、それでも日本と韓国の国民性の違いが「食文化の3つの違い」に表れていることに気づく。そこで以下では日韓食文化ににじみ出る、「両国国民性の違い」を考察したいと思う。

まずは、代表的なものとして「キムチ」と「タクアン」から見る「食文化の違い」から見てみよう。

【1】「キムチ」と「タクアン」食文化の違いににじみ出る意外な違い

韓国といえば「キムチ」、日本といえば「タクアン・梅干し」というくらい、代表するお漬物も異なるわけだが、基本的に和食は出汁や酢を使ったものが多いので、甘いか酸っぱく感じることも多い。日本の場合、タクアンや梅干しを食べすぎても、なにせしょっぱいか酸っぱいので、我慢強くなりそうだ。

これに対し、韓国は唐辛子を使うことが多く、なんでもかんでも辛くしなければ食べた気がしないという人が比較的多い。しかし、唐辛子やスパイスをたくさん摂ると交感神経が刺激され、体温が上がり、結果的にカッカする人が増えることになる

よく日本では「韓国人は怒りっぽい」と言われるが、それは私の肌感覚からしてもたしかにそうだ。しかし、これは決して怒りっぽいDNAを持っているとか種族的な違いではなく、「食習慣の違い」にも間違いなく起因していると思われる

仮に、日本人がタクアンや梅干しの代わりにキムチを食べ、青のりの代わりに唐辛子を振りかけるようになったら、感情表現を抑えて我慢強い国民性を維持できるかどうか、想像してみていただきたい。

食文化による影響は「感情表現への違い」にも出てくる

私の韓国人の親友はここだけの話、すごく怒りっぽいのだが、たしかに非常に辛い食品ばかり食べており、食文化が与える感情表現への違いのインパクトは日々、個人的にも実感しているところである。

韓国人でも特に辛いモノ好きのこの女性は、うどんやそばにも七味をボトルごと入れて、チゲか四川鍋みたいな色になっている。しまいにはカレーライスにも七味を入れていて、「さすがにちょっと違うのでは?」と思ったものである。

この食事と気質の因果関係に関しては、米国科学アカデミー紀要の実験でも「食べ物が判断に影響することがあり、かつ長らく影響が持続する可能性がある」と示唆されている。

韓国ドラマでやたらと怒鳴っている人が多いのは、おそらく辛いキムチをたくさん食べているということも、少なからず影響しているのである。

食文化の違いでわかる、もうひとつの両国の違いが、「秩序があり、我慢強い日本」と「なんでも混ぜて、せっかちな韓国」の違いである。

【2】秩序立った「懐石精神」日本、混ぜてせっかちな「ビビンバ」韓国

ご存じのように、和食は小さな鉢や皿に盛りつけられて少しずつ出てくる。 和食やフランス料理は次の食事が出てくるまでゆっくり話せるので、ビジネスの会合に向いていたりする。

また日本では、大きな器から取り分ける場合には「とり箸」を使い、相手に失礼のないようにとの配慮が強く働く。箸の使い方ひとつにも、韓国と比べ、人間関係の距離の違いが表れるのだ。 私は、この日本特有の何事も少しずつゆっくり秩序立った様子を「懐石精神」と呼んでいる。

これに対し、韓国料理は頼んでもいない大量の副菜が皿に盛られてテーブルを埋め尽くし、前菜や副菜やメインの順番は関係なく、いっきに全部出てくることが多い。そして人間関係が近いからか、大きなお皿や鍋を共につつく

多くの食材を融合させる「ビビンバスピリット」

また、サムギョプサルやカルビもいっきに焼いて食べるので、食事が早く終わってしまう。おまけに自分のペースでダラダラ食べることはできず、アジュマ(おばさん)が出てきて ハサミで肉を切り(包丁ではなくハサミという点にも、韓国人のせっかちさがにじみ出ている)テキパキと焼いてくれるので、何かと食事のスピードが速いのだ。

なおこれは余談だが、両国でビジネスをしていても、日本企業は「メールでのやりとり」がメインだが、韓国企業は相手が大手機関投資家でも、担当者と携帯の「チャットでやりとり」することが多い。

メディアの取材を受けさせていただくときも、日本では複数人でやってきて丁寧にインタビューしたあとに、記事の原稿を見せてくれたうえで記事化する。

これに対し韓国では、記者さんが話を聴きながらその場で直接記事をタイピングしていることも多い(ちなみに韓国では、スピード違反の交通事故率も日本に比べてダントツ高い)。韓国人は何かとスピード重視なのだ。

また、韓国では「多くの食材を融合させて、新しい味をつくり出す」という食文化傾向が強い。なんでも混ぜておいしくしてしまう「ビビンバスピリット」というものもあるのだ。

食文化の違いでさらに特徴的なのが、「お通し」の差だ。

【3】「お通し」も請求する日本、無料で「おまけ」をくれる韓国

日本の居酒屋だと頼んでもいないのに、ほんの少し小皿に盛られた「お通し」がひとつ出てきて、それが料金に上乗せされているということで、外国人観光客とトラブルになることも多い

これに対して韓国では前述のとおり、頼んでもいないのに大量のおかずが出てきて、それが「無料でお替わり自由」というお店が当たり前である。

また、お皿も1つや2つではなく、6つも7つも出てきて、頼んだメインの食事より分量が多いこともしばしばだ。そして、いくらお替わりしても追加料金が発生しない。

日本の「お通し文化」、韓国の「おまけ」文化

これは、韓国人の「おまけでサービスしてほしい」という国民的ニーズの高さを反映した文化だとも言えるし、「気前よくおもてなしをすること」を尊重する文化の表れだとも言える。

また、韓国ではコンビニひとつとっても、お茶を2個買ったら1個ついてくる形式のセールス方式の店も多い。一時はインターネットに加入すると料金が長期間無料になる特典のみならず、なんと「キムチ冷蔵庫」のおまけがついてくるキャンペーンなどもあったくらいだ。

「お通し&おまけ文化」の背景には、韓国人は「追加サービスを大らかに提供」し、日本人は「追加料金を几帳面に請求する」という違いがあるのである。

さらに、「支払い方法」でも大きな差が出てくる。

韓国人は年上がメンツにかけて全額払う傾向が強いが、日本は上司と食事に行っても割り勘になることは珍しくない。この日本人の几帳面さは、よくも悪くも経済活動のいたるところに見受けられるのだ。

皆様も韓国人とご飯を食べられる際は、大皿を一緒につついて共有し、会話中に相手が怒っても「香辛料のせいだ」くらいに大らかに構え、店の人におまけサービスを可愛げあるスマイルで要求してみよう。

そして韓国人が年上だったら「ヒョンニム(兄さん!)」「オンニ(姉さん)!!ごちそうさまでした!」と甘え、逆にご自身が年上だったら全員分奢ってみることで、ビックリするくらい親近感が育まれ、建設的な関係構築に寄与することだろう。

なお、奢ってあげても韓国ではたいして感謝の言葉を受けることはないので、日本的な感覚からすると「無礼」だと思われることもあるかもしれない。

しかしそれも「恩知らず」なわけではなく、「日本ほど『ありがとう』と言わないカルチャー」だと理解できれば、両国人間関係の違和感もずいぶん解消されることだろう。

「お互いの共通点と違い」を知ることが第一歩

新刊は、日本と韓国の間で40年過ごして考え続けたからこそわかる「両方の視点と情報を1つにまとめてお互いが知れば、大半の誤解と怒りが解消する」内容になっている。

また後半に読み進めるにつれ、これまで私が友人や家族にも話したことがない、言いにくいセンシティブな本音だらけの、3年がかりの渾身の1冊だ。

これを世に出せたことで、「我が人生、悔いなし」と思っているし、「子どもの次に大切な、私のレガシー」だと思っている。

なぜ私が書くのかがこのうえなく明確で、私以外絶対に書けないユニークな実体験と視点に満ちた、全ての日本人・全ての韓国人・全ての在日コリアン、全ての東洋経済オンライン読者の皆様、そして何より、「たまたまSNSで目にしてしまった全ての方々」にお読みいただきたい1冊だ。

日本と韓国、「お互いの共通点と違い」をきちんと正しく知ることで、日韓関係をムラサキする(BTSのアーミー用語で「長く信頼し合う」の意)、その大きなきっかけになるはずである。

(ムーギー・キム : 『最強の働き方』『一流の育て方』著者)