相場展望6月30日 「速く乗り・速く逃げる」相場局面に注意 7月の4〜6月決算発表で業績悪化懸念を注視

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)6/27、NYダウ▲62ドル安、31,438ドル(日経新聞より抜粋)  ・NYダウは前週に+1,600ドル余り上昇し、短期的な利益確定の売り優勢となった。  ・米連邦制度理事会(FRB)の金融引締めが景気後退を招くとの警戒感も引続き相場の重荷になった。反面、6月末に向けて機関投資家の資産配分見直しに伴う買いが入りやすいとの見方が相場を支えた。  ・米10年国債の利回りが前週末比+0.08%高い3.21%に上昇し、割高感を意識。高PERのハイテクが売られ、セールスフォース▲3%安、マイクロソフトも下落。  ・世界主要中央銀行の利上げ加速で、景気後退の確率を引上げる金融機関が目立つ。シティは6/27、景気悪化を見据えて年末の米株式相場の目標水準を引下げた。景気敏感のボーイング・ダウがともに▲2%安、ナイキ・ディズニーも売られた。反面、ディフェンシブのメルク・ユナイテッドヘルスは総じて買われた。

【前回は】相場展望6月27日 米国ではヘッジファンド中間決算、日本は株主総会前のお化粧買いで上昇 ⇒ 問題は7月の4〜6月期決算発表

 2)6/28、NYダウ▲491ドル安、30,946ドル(日経新聞より抜粋)  ・中国の新型コロナ感染防止の水際対策の緩和を好感した買いが先行し一時+446ドル高後、消費者景況感悪化を映す指標を受け、売りが強まり一時▲950ドル安に達した。  ・米消費者信頼感指数98.7と5月(103.2)から低下し、市場予想(100.0)も下回る。ガソリンや食品を中心にインフレ懸念の高まりが景況感の悪化につながった。「消費が想定以上に落込み、景気の足枷になりかねない」との見方が強まった。  ・消費関連を中心に売られ、業績見通しが弱いとしてナイキが▲7%安、ホームデポやビザの下げも目立った。  ・米長期金利が3.2%と高止まりし、主力ハイテクが下げ、セールスフォース▲5%安・アップル▲3%安、一方、原油高を受け石油のシェブロン+2%高・化学のダウも高い。

 3)6/29、NYダウ+82ドル高、31,029ドル(日経新聞より抜粋)  ・四半期(4〜6月)末とあって機関投資家の資産配分見直しに伴う買いが入るとの期待が相場を支えた。  ・米連邦制度理事会(FRB)の金融引締めと景気後退への警戒感から上値は重かった。  ・多くの機関投資家が運用指標とするSP500は3月末から6/28までに▲16%下落。四半期末に向け、保有資産に占める株式の比率低下を調整する目的で機関投資家が買いを入れているとの見方があった。  ・NYダウは一時+200ドル余り上げたが、相場の上値は重かった。  ・FRBのパウエル議長が6/29、欧州中央銀行(ECB)開催のシンポジウムで、「FRBが経済のソフトランディング(軟着陸)を達成できる保証はない」と述べ、景気懸念が頭をもたげた。パウエル氏は「米労働市場は非常に強く、金融引締めに耐えられる」「最大の間違いは物価安定の回復に失敗することだ」とも強調し、積極的な利上げを続ける姿勢を示した。ECBのラガルド総裁も「インフレ期待が大幅に高まっている」と危機感を示した。主要国の中央銀行による金融引締めが世界景気を冷やすとの警戒感が投資家心理の重荷になった。  ・マクドナルドやゴールドマンサックス、アップルが上げ、原油安や景気懸念を受けキャタピラーやシェブロン、アメックスが安い。ナスダック総合指数は小幅続落。

●2.米国株 : 米企業の4〜6月期決算発表に注目、業績悪化の恐れ

 1)当面の懸念材料は、  (1) 米企業の業績悪化  (2) 中国のゼロコロナ政策による厳しい都市封鎖解除からの経済回復の進捗遅れ  (3) ウクライナ戦争

 2)注目点は、米国の  (1) 高インフレの進展、特に商品先物指数の動向  (2) 景気後退

●3.米国株、上昇でも押し目買いの動き消滅、ETFから1兆円余り流出(ブルームバーグ)

●4.米6月消費者信頼感指数は98.7に急落、インフレ懸念が重石(ロイターより抜粋)

 1)5月比▲4.5低下、市場予測は100.4だった。 2)向こう1年間の期待インフレ率は8.0%で、前月は7.5%だった。

●5.ウォール街の業績予想の引上げは現実離れ、一部のストラテジストが警鐘(ブルームバーグより抜粋)

 1)ウォール街のアナリストは、4〜6月期の米企業業績で強気予想を堅持している。  ・SP500の増益率予想:年初+8.7%⇒1ヶ月前+10%⇒今では+10.7%

 2)米FRBの積極的な利上げ、リセッション(景気後退)懸念の広がりなどの要因を踏まえれば、上方修正は現実離れしていると指摘。

 3)4〜6月期、7〜9月期の決算発表が投資家の失望を誘う内容になる可能性がある。

●6.米サンフランシスコ連銀総裁、7月基本シナリオは+0.75%追加利上げ(ロイター)

 1)米FRBの利上げで、成長率2%を下回る水準に鈍化、との見方を示した。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)6/27、上海総合+29高、3,379(亜州リサーチより抜粋)  ・前営業日までの好調な地合を継ぐ流れとなった。  ・中国経済対策や経済活動正常化に対する期待感が相場を押し上げた。  ・本土で新型コロナ新規感染者数は、このところ2桁前半で推移し、上海市は6/25にコロナ防疫戦の「勝利」を宣言し、北京市では6/27から小中学校で対面授業が再開。  ・また、中国人民銀行(中央銀行)は先週末に続き、資金供給を拡大させた。  ・業種別では、消費関連の上げが目立ち、旅行・エネルギー・医薬品なども買われた。

 2)6/28、上海総合+30高、3,409(亜州リサーチより抜粋)  ・中国経済対策の期待感が相場を支える流れとなった。  ・新型コロナ感染拡大で経済成長が鈍化する中、地方政府による債券発行が加速。中でも、6月末時点で2022年発行枠の99%消化した。  ・また、中国人民銀行(中央銀行)は資金供給を継続、6/28に1,000億元を供給した。  ・業種別では、自動車の上げが目立ち、ハイテクも急伸、旅行関連も買われた。

 3)6/29、上海総合▲47安、3,361(亜州リサーチより抜粋)  ・上海総合は急ピッチで上昇し3ヶ月半ぶりの高値だったこともあり、利益確定売りが先行する流れとなった。  ・ただ、中国政府の景気テコ入れ策や、経済早期正常化に対する期待で、下値は限定的。  ・業種別では、自動車の下げが目立ち、金属・ハイテクが売られ、不動産は急伸した。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)6/27、日経平均+379円高、26,817円(日経新聞より抜粋)  ・前週末の米株式市場の上昇を受け、東京市場でも運用リスクを取りやすくなった投資家の買いが入り、上海や香港の指数が上昇も、日本株の買い安心感につながった。  ・米半導体関連銘柄の大幅上昇で、東エレク・ファナックなど、値嵩のハイテクも上昇。  ・米連邦制度理事会(FRB)の利上げ加速に対する過度な警戒感が後退し、短期筋による買い戻しが入ったとの見方が多い。  ・市場では、「6月末に向けて機関投資家のリバランス(資産配分の調整)に伴う買い期待感から、個人投資家が先回りした買いが入った」との指摘もあった。  ・反面、心理的節目の27,000円が近づくと戻り待ちの売りも出やすく、伸び悩んだ。  ・東電・ソフトバンクG・信越化・大塚・川崎汽の上昇が目立ち、不動産が売られた。

 2)6/28、日経平均+179円高、27,049円(日経新聞より抜粋)  ・27,000円台を回復するのは6/10以来。外国為替市場で円安・ドル高が進み、輸出採算改善との見方から自動車などの景気敏感株が買われたほか、資源高を追い風とした鉱業や鉄鋼などが上げ、不動産や鉄道など内需関連に買いが入った。  ・KDDI・第一三共・大塚・ファストリが上昇、一方、東エレク・ファナックなどが下落。

 3)6/29、日経平均▲244円安、26,804円(日経新聞より抜粋)  ・米国でインフレが進んで景気が減速するという懸念を受けて米株式相場が大幅下落、東京市場にも売りが波及し景気敏感株である輸送用機器・機械などの業種が下落した。  ・中国の上海・香港市場の下落も、投資家心理の重荷になった。  ・日経平均は6/28まで戻りを試して27,000円台を回復したため、利益確定売りや、戻り待ちの売りが出やすかった。  ・郵船・川崎汽・東エレク・太陽誘電・日産自が安く、京成・東電・サッポロが高い。

●2.日本株:長期下落傾向の中での「買われ過ぎ」示唆のため、「売りタイミング」に注目

 1)テクニカル指標は、買われ過ぎを示唆している。  ・騰落レシオ(6日) 6/28 249.10、 6/29 169.15  ・6/29に日経平均が反落▲244円したにも関わらず、騰落レシオ(6日)は169.15と高水準のため注意が必要と思われる。

 2)外国人投資家動向だが、先物の買い仕掛けが続いている(6/29時点)  ・昨年8月下旬から始まった外国人投資家、特に短期筋によるの「買い仕掛け⇒売り」による株価の乱高下が繰り返し続いている。  ・現在も、外国人短期筋の買い仕掛けとなっている。その手口が「株式先物」主導のため、切り返しが速く、注意したい。株価上昇局面では「売り」を、下落局面では「買い」を素早く実行するのが良さそうな展開となっていることに留意したい。つまり、「速く乗り・速く降りる」のが正解のようだ。

 3)また、7月決算発表(4〜6月期)で企業業績悪化が確認された場合、急落もあり得るので慎重に対処するのが賢明と思われる。

●3.日銀の政策決定メンバーの構造改革を求める

 1)日銀・政策決定委員の6月会合での主な発言(共同通信)  ・足元の物価上昇は輸入価格上昇に伴う「一時的」なもの。  ・金融緩和継続で、経済をしっかりと下支えすることが適当。  ・金融緩和の継続が、持続的な賃上げの後押しに有効。(ブルームバーグ)  ・日銀総裁が緩和堅持表明、「世界的インフレの影響それほど受けず」(ロイター)    2)黒田・日銀総裁は2013年3月に就任し、目指したのは「消費者物価+2%上昇」を目標に掲げて、『2%インフレで景気拡大』であったはずだ。ところが、現実は、『景気拡大なき2%以上のインフレ』という結果である。

 3)しかも、「物価2%上昇」の中味は、黒田・日銀が描いていたモノとは違って、単にエネルギー価格や食料品価格の上昇によるコストプッシュ型のインフレである。日銀にとって想定外の物価上昇であり、日銀が2013年に想定した『2%インフレで景気拡大』とは何ら関係のない『異次元の物価上昇』となっている。

 4)黒田・日銀が目指したのは結果的に『株価上昇と維持のための異次元の超金融緩和策』だったと、総括できよう。その先兵が、日銀による「日経平均が一定以下に下落した場合のストッパーとしてのETF買いによる株価買い支え」である。現状でも、東京株式市場の前場終値でTOPIXが▲2%超下落すると、すかさず後場に701億円の日銀によるETF買いが行なわれ続けている。物価目標2%達成と、日銀によるETF買いとは、論理的につながるとは思えない。欧米含む各国の中央銀行では禁じ手である、株式市場に直接介入して資金を投入するのは世界で日本銀行だけである。

 5)政府が発行する日本国債の50%近くまで日銀が購入している。これは、やってはいけない日銀による財政ファンアンスであり、政府の金庫番に成り下がったと言われる所以である。日銀法に違反したと言われても仕方がないのではないか。

 6)日銀資産を500兆円まで膨張させた結果、『金利上昇で保有する日本国債の巨額損失⇒日銀破綻』を招きかねない状況にまでみずから追い込んでしまった。日銀債務超過⇒日銀破綻から逃れるための苦肉の策が『超金融緩和の継続』ではないか。日銀の破綻は、『日本国の信用が著しく毀損する』ことに直結する。すでに海外ヘッジファンド等による、日本国債の売り浴びせにあっている。日銀はそれに買い向かって、必死に「低金利」を守ろうとして買い向かっている。それも最近の1週間だけで10.9兆円の巨額購入となっている。

 7)『円安は、日銀の政策が呼び込んだ愚策』   米FRB、英イングランド銀行、欧ECBなど世界の中央銀行は、インフレ退治のため金融引締め(金利引上げ、量的緩和の縮小)を行なっている。その点、日銀は「超金融緩和の継続」を標榜して、世界との金利差は拡大している。結果、『円安』誘導を日銀は行なっているといわれても仕方がない。上昇したエネルギーや輸入食料品は、さらに『円安』が上乗せされて高騰した価格を国民生活・企業に負担させている。

 8)現実、国民生活の苦しさが伝わる生活周辺の物価上昇は2%程度のものではない。1年前と比較して、ガソリン価格は2%で収まっていない、今や183円程度まで上昇。  2021年8月 146.9円 ⇒ 183円 +24.6%上昇(政府による支援を入れての上昇)  パスタは量販店で約6割・コーヒー豆で54%、レストランも軒並み10%超の値上げを実施している。しかも、春だけでなく、秋にかけても食品会社の値上げラッシュが予定されている。小麦の政府卸価格も秋に値上げが予定されている。電気・ガス料金も7月に値上げし、1年で東京電力+31%上昇、東京ガス+25.4%上昇と過去最高水準となる。

 9)日銀は誰のために存在しているのか?   物価が上昇すれば、食料品・電気ガスなどの生活必需品以外は切り詰めることになる。経済の需要は縮小し、日本のGDPは減少に向かうだろう。せめて、『円安の進行による家計負担増と、多くの企業業績悪化』から救済するのが日銀の役割ではないか。黒田総裁は「円安は経済にプラス」と春から度々主張していたが、批判されると「円安はマイナス」と説明を180度転換した。ところが、発言転換後も日本国債の売りに対して「防戦買い」で低金利維持をしている。世界との金利差拡大を推進し、日銀は「ますます円安」誘導を行なっている。『有言不実行』ではないか。まさか『日銀は、日銀のために存在している』と思っていないことを願う。自分が据わっている座布団は、自分の力では取り除けない。このような日銀の運営を許したのは、国民目線で考えられる消費者の代表者などが日銀の金融政策決定会合メンバーに入っていないからではないだろうか。早急に、国民・国家に根ざして『日銀の原点に立ち返った日銀運営をできる人事を考える』時期にきているのではないだろうか。加えて、「日銀の運営は、日本国・国民の目線で運営」するために、日銀改革を提案したい。それは、日銀の「金融政策決定会合」という機能・組織を、日銀から切り離し、日銀の組織外に置くというものである。それによって、現状の「日銀による、日銀のための日銀運営」という悪弊から脱却できる機構になるのではないか。そのメンバーに消費者代表など国家・国民目線で金融政策を議論できる有識者委員を加えることで日銀はより真っ当な日銀に近づくのではないかと思う。現在の日銀は、金融政策の運営と、金融政策決定が同一人物で行なっている。つまり閉鎖的組織で日本の金融政策の決定と運営が執り行われ、客観的な見方に支障が出ていると思われる。

  提言:  (1) 意思決定の「金融政策決定会合」を日銀から切り離す。  (2) 日銀は金融政策の運営のプロに徹する。  (3) その金融政策決定メンバー構成は、政府財政担当・消費者・経済界など有識者に日銀総裁を加える。

●4.原材料高騰に横浜の企業の8割超が「価格転嫁できず」=商工会議所 (神奈川新聞)

 1)価格転嫁の状況は、(1)一部に留まる49% (2)全くできない34% (3)全額転嫁5%

●5.企業動向

 1)浜松ホトニクス デンマークのレーザー装置会社を295億円で買収(日経新聞)

●6.企業業績

 1)TDK   2023年3月期予想営業利益+10.9%増の1,850億円(フィスコ)

■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)

 ・1332 日本水産   業績好調 ・4502 武田薬品   業績好調、新薬期待 ・4911 資生堂    マスク後の化粧に期待

執筆者プロフィール

中島義之 (なかしま よしゆき)
1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou