4月クールで最も好調だったのはTBSの日曜劇場「マイファミリー」でした(画像:マイファミリー公式サイトより)

4月クールの民放の連続ドラマ、通称“春ドラマ”は残すところ2作。6月30日に「やんごとなき一族」(フジテレビ系)、7月3日に「金田一少年の事件簿」(日本テレビ系)が最終回を迎え、フィニッシュとなる。だが、全体的に視聴率や配信の再生回数、ネットでの感想を見ると、視聴者の満足度が低い不発のクールになってしまった。

テレビドラマの本数はどっと増えている

もしかすると、今はTVドラマのバブルなのだろうか。4月改編でフジテレビが水曜夜10時の連続ドラマ枠を復活させ、TBSとテレビ東京が深夜枠のドラマを増やすなど、2022年の春ドラマは放送本数がどっと増えた。

在京キー局ではゴールデンタイム(夜7時から11時までにスタート)のドラマが14本、深夜ドラマ(夜11時以降に放送開始)は17本と、合計31作が毎週放送されたことに。ドラマ関連のライターをしている筆者でも、とても追いきれないほどの本数になってしまった。

 そもそも、この4月改編はテレビの歴史に残る画期的な転換点でもあった。最近、「NOW ON TVer」というテロップに気づいた人も多いのではないだろうか。4月から視聴アプリ「TVer(ティーバー)」で民放各局の放送が同時受信できるようになり、これまで“地デジ”として東京スカイツリーなどから電波で発信されていた地上波は、テレビ機器がなくてもインターネット回線とスマホやタブレット、パソコンがあれば、リアルタイムで見られるようになった。

現在のところ、全ての番組ではないのだが、ドラマに限ればほぼ全作がリアルタイム配信。もはやB-CASカードは要らない!?という状態になりつつある。

しかし、肝心の番組内容はどうか。本来、ドラマが最も盛り上がるはずの4月クールだが、初回から最終回まで世帯視聴率10%以上をキープできたのは日曜劇場「マイファミリー」(TBS系)のみ。ちなみに昨年4月期は3本あった。比例して個人視聴率も低くなっている。

ネット同時配信が始まったので、視聴率だけでは判断できないのだが、そのネット配信でもパッとした結果が出ていない。前クール(1〜3月期)では月9「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ系)が見逃し配信視聴で3300万回再生という記録を打ち立てた。その前のクール(2021年10〜12月期)も、金曜ドラマ「最愛」(TBS系)がその時点での見逃し配信最高記録を出した。しかし、今回の春ドラマからは、両作に並ぶヒットコンテンツは出てきていないのだ。

それどころか、各作品の最終回まで見た視聴者からは、内容に不満ありという声が少なからず挙がっている。TwitterやYahoo!テレビなどの感想掲示板には「どこかで見たことがある」「展開が読めて面白くない」と既視感やマンネリズムを指摘し、設定にもリアリティがないとする意見が多い。

恋マジはずっこけてしまった

最終回のずっこけ具合では、関西テレビ制作、フジテレビ系列放送の「恋なんて、本気でやってどうするの?」(通称「恋マジ」)が突出していた。広瀬アリスと松村北斗という旬のキャストをそろえ、代官山のフレンチ・ビストロなどを舞台に20代男女が恋に仕事に揺れ動くさまを描いたこのドラマ。

恋愛に重きを置かない若者たちというリアルなラインを狙ったのだと思うが、まず広瀬アリス演じるヒロイン・純が「27歳にして恋愛経験ゼロ」という設定は、どう見ても群を抜いて美しい広瀬だけに共感しにくかった。

純は松村北斗演じる料理人・柊磨と出会い、ひと通りのことを経験するも、数々の女性と刹那的に関係を持ってきた彼との将来は見えない。そんなとき他の男性にプロポーズされ…という状態で迎えた最終回、純は柊磨の店を訪れ、やはり彼でないとダメなのだと告白する。そして、柊磨の手を引っ張って公園へダッシュ。そこで、なんといきなり「好きと言って!」と彼に公開告白を迫る。

Twitterでは見ていた人たちが「なぜ公園?」「この演出でキュンとすると思ったの?」と一斉にツッコミ。せっかくのクライマックスなのに感動したという意見はあまり見られなかった。また、ある人物が自分は「恋愛できない」アセクシャルだと打ち明けるシーンもとってつけたようだと指摘された。

恋愛ドラマはいったん下火になった後、この2年で再ブームとなり、毎クール何本かが放送されているが、ジェンダー平等や性的マイノリティの観点を取り込み、恋愛しない人へも配慮し…と誰も傷つけないことを心がけ、かと言って、性的マイノリティの人を主人公にするなどの問題意識も提示できず、どっちつかずでカタルシスを提供できなくなっている。

火曜ドラマ「持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜」(TBS系)も年齢差のある恋や昔ながらのお見合い結婚など、恋愛の多様性を丁寧に描いていたが、肝心の上野樹里演じるヒロインとその想い人である子持ち男性(田中圭)の恋については大きな盛り上がりがなく、ステップファミリー(子連れ再婚家庭)のリアルにも迫れなかった。

また、配信サービスで再生回数が伸びるはずのサスペンスドラマも不調。柴咲コウと高橋一生の共演作として期待値が高かった金曜ドラマ「インビジブル」(TBS系)も熱狂を呼べなかった。インビジブルとは暗殺依頼を受け殺人者を派遣する“犯罪コーディネーター”のことだが、海外ドラマならある程度リアルに思える設定も、日本では現実味がない。

逆にフィクション性を高めるにしても、過去に同枠で人気を博し映画化もされた「ケイゾク」「SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜」のようなカルト的な世界観を構築できなかった。最終回は真の黒幕と判明した人物がひたすら露悪的に振舞うばかり。Twitterの感想にも「犯人に意外性がない」「展開が読めすぎて、つまらない」という声が挙がっていた。

「マイファミリー」は春ドラマの勝ち組だったが・・・

「インビジブル」と同じTBSの日曜劇場「マイファミリー」は、考察系の作りが上手くいった例で春ドラマの勝ち組。二宮和也演じる主人公が最初は娘を誘拐された被害者だったが、やがて誘拐犯に協力せざるをえなくなり、自らも警察に追われる身になるという、立場が二転三転する展開はこれまでにないもので、ネットでの感想も好意的だった。

だが、実は警察内部に真犯人がいたというオチは「インビジブル」と同じ。犯人を追う警察の中にまさか……というのは既に使い古されたサプライズであり、最終回は「同じクールでまさか……」という思いだった。そもそも、現実の警察にも不祥事はあるだろうが、警察官という立場から一線も二線も踏み越えて罪を犯す人間がそんなに何人も紛れ込んでいるはずはないので、リアリティに欠ける。

また、男性のヒロイズムを描く路線の限界も見えてきた。木村拓哉主演の「未来への10カウント」(テレビ朝日系)は、映画『トップガン マーヴェリック』にも通じる中年男性の復活劇で、これまで幾度も描かれてきたパターン。ボクシング選手だった主人公の抱える辛い過去から復活のチャンスを得て再生へという展開は、既視感が強くて、焼き鳥屋という要素しか意外性がなかった。

フジテレビ水曜夜10時枠の第1弾「ナンバMG5」も、筋金入りのヤンキー一家に育った主人公が普通の高校生になりたいというだけで10話引っ張るのは無理があった。

どの作品もキャストは好演。また、起承転結や伏線回収などの構成はしっかりしており、大きな破綻はないのだが、とにかく脚本家の色(作家性)が感じられず、魅力的なセリフも少なかった。演出も冗長だったりテンポが悪かったりし、特に配信サービスで海外ドラマと同じ市場に並ぶと、分が悪い。もしかすると1.2倍速や1.5倍速の早送りで見る人の増加に合わせているのかと邪推してしまうほど、ゆったりした展開のドラマが多かった。

ドラマバブルがはじけないことを祈るばかり

よく言われるように、ビジネスモデルとしては個人視聴率や配信でペイする時代なので、ヒットせずともキャストのファンなどコアな層に見てもらえればいいという考えは、テレビ局側の都合であって、質が高く面白いものや考えさせられるものを見たいと望む視聴者のためにはなっていない。

夜10時台でも子ども向けのような単純なストーリーが展開されているのを見ると、「クリエイターたちは本当にこのドラマを作りたいのだろうか?」と疑問に思わざるをえない。春ドラマの脚本家や監督には、これまでヒット作「踊る大捜査線」や「HERO」、意欲作「ラスト・フレンズ」や「トドメの接吻」など、オリジナルドラマで面白いものを作ってきたベテランが多かった。

もちろんベストを尽くしたとしても毎回ヒット作を出せるわけではないのだが、春ドラマから垣間見えたのは、配信オリジナル作品を含めて制作本数が増えたものの、優秀なクリエイターの数は足りておらず、スタッフはいっぱいいっぱい。シナリオ作りや演出プランにこだわる時間や予算もなく、俳優は脚本や演出に満足していなくても、なんとか説得力が出るように演じるしかない、そんな悲しい現状。マンパワー不足が解消されて、このドラマバブルがはじけないことを祈るばかりだ。

(小田 慶子 : ライター)