なぜ大黒ふ頭に「ナンバー無し車」放置? 軽から高級車まで無惨な状況も! 長期間放置される理由とは

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日本最大級の自動車輸出拠点「大黒ふ頭」になぜ放置車両が多い?

 神奈川県横浜市にある大黒(だいこく)ふ頭は、クルマ好きにとっての聖地ともいえる「大黒PA」がある場所としても知られています。
 
 一方で埠頭内の一般道にはクルマの輸出入をおこなう業者などが行き交う光景が見かけられます。
 
 そうしたなかで、道端には放置車両が所々に置かれてあり、なかにはナンバープレートが装着されていないものも存在しますが、なぜ廃車がいくつ放置されているのでしょうか。 

なぜナンバープレートが付いていないクルマが放置されるのか…? しかも内装まで荒れ放題…(撮影:加藤博人)

 大黒ふ頭は、2022年4月に再整備を完了しました。大型の自動車専用船が着岸できるように岸壁の水深を深くしたり延伸したり、また荷捌き地を拡張するなどの改良工事を終え、日本最大級の自動車輸出拠点となったのです。

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 この再整備によってこれまでの中古車輸出はもちろん、新車の輸出も大黒ふ頭からおこなわれるケースが増えました。

 綺麗に並んだ大量の新車に対して、大黒ふ頭の一部には不法投棄されているのか、長い間放置されている車両も見られます。

 横浜市港湾局の担当者は次のように話しています。

「ナンバーが付いたクルマは所有者が分かり次第、移動するようお願いしています。

 所有者が特定できない場合や連絡が取れない車両に関しては定期的に会議を開いて処分方法を決めています」

 しかし、放置されているクルマの中にはナンバーのない車もあります。以前よりは台数が減っているようですが、多いときにはY-CC(横浜港国際流通センター)の近辺に100台以上の車が置いてあったこともありました。

 ナンバーがないといっても、7割くらいは比較的綺麗な中古車です。

 国産のコンパクトカーやライトバンが中心で、フィット、マーチ、アルト、ミラ、ムーヴ、カローラ、オデッセイ、ポルテ、プロシード、サクシードなどで軽トラやSUVはほとんど見当たりません。

 時々、積載車が数台乗り入れていることもあったので、これは不法投棄ではない可能性もあります。

 改めて横浜市港湾局に聞いてみたところ「これらの多くは輸出で船積みを待つクルマ」とのことでした。

 保管されているスペースに入りきれなかったクルマが一時的に路上に置かれている状態なので、船積みされた後、スペースが空いたら順次、中に入って次の船積みに向けて準備が行われるそうです。

 これから海外に輸出されていくクルマたちなので、目立ったキズやへこみもなく、年式的には古いものが多いですがこぎれいな状態に保たれていたのも納得できます。

 また、あるときにはこの場所に置かれていたクルマを修理中の外国人に遭遇しました。

 話しかけてみたところ、彼は日本の中古車を輸出する業者で、近々3台の日本車を日本と同じ左側通行のケニアに送るので簡単な修理をしているとのことでした。

「日本の中古車は海外でとても人気があります。

 走行距離が短い(10万キロ以下)割にはとても程度がよく、値段も安く、また走行距離などの履歴がしっかりしています。

 輸出した先の国(今回はケニア)にも日本車を扱う販売店や整備工場が多数あり、補修部品の供給も素早いのです。日本車は中古車であっても長年安心して乗ることができます」

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 このように大黒埠頭の路上にはさまざまな新車・中古車が散見されるのです。

よく見れば…「車台番号削られた盗難車?」らしきクルマ

 船積みを待つ正規の方法で輸出されるクルマが大半ではありますが、なかにはどう見ても「輸出される中古車には見えない」クルマもちらほら置かれています。

 タイヤ&ホイールがなかったり、クルマのなかがゴミだらけで窓が割られていたり、ぶつかって凹んだ状態のままで放置されていたり。

 これらの(おそらく)不法投棄されたクルマたちは、筆者(加藤久美子)が知る限り1-2年間は少なくとも動かされた形跡がありません。

 なかには「盗難車かも?」と思われるクルマもあり、それらに共通するのは「車台番号」が削られていることです。

 車台番号とはナンバープレートの数字ではなく所有者が変わっても、住所が変わっても絶対に変わることがないクルマの「戸籍」のようなもので別名「フレームナンバー」ともいわれます。

 車検証にも記載されている番号で1台にひとつ異なった記号+番号を自動車メーカーが製造時に打刻します。

 主にクルマの骨格にあたる部分に打刻されていますが、外国車のなかには比較的確認しやすい場所にコーションプレートと共に貼り付けられている場合もあります。

 この車台番号を削ったり、改ざんしたりすることは道路運送車両法違反になります。

 そもそも「車台番号が削られている=まともな履歴のクルマではない」ということになります。

「金融車(担保対象となるクルマ)」であっても、正規のルートで流通しているなら車台番号が削られることはありません。

 大黒ふ頭には確認できただけで3-4台の車台番号が削られたクルマがありました。これらは盗難されたか、犯罪に関わったクルマである可能性が高いといえるでしょう。

大黒ふ頭の道端でクルマを修理中の外国人に遭遇(撮影:加藤博人)

 また、ナンバーがない&車体番号が削られているクルマは、盗難されたクルマである可能性以外に「盗難車のダミー車両」の可能性もゼロとはいえません。

 ダミー車両の存在は2018年に横浜税関が公開した「不正輸出の手口」でも明らかになっています。

 どのような手口かというと、日本で盗んだ高級車を完成車の形で輸出する際、そのままでは当然、盗難車であることがバレてしまいます。

 そこで、オークションで仕入れた激安国産車を輸出する形で通関などの手続きをおこないコンテナに積み(シールは未封)、船積みする直前に港近くのヤードなどでコンテナに入ったダミー車両と盗難高級車を入れ替えて封印します。

 その後、コンテナから降ろされたダミー車両は解体処分されますが、輸出中古車に詳しい事情通の話によると「すべてが解体されるとは限らない」とのこと。

「大黒ふ頭に限らず、海外へ輸出される船が出るふ頭にはナンバーのない激安国産中古車が随所に存在します。

 このなかには不要となり車台番号を削り取られたダミー車両が混ざっている可能性もあるでしょう。

 解体にも手間と費用が掛かりますし、途中で発覚して窃盗団が逮捕されるとそれらのクルマは行き場を失うことになります。

 車台番号が削られていると履歴を追うことは難しくなりますし、警察もいちいちダミー車両まで細かく調べることはないでしょう」

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 大黒埠頭のなかに置かれているナンバープレートのないクルマたちは、正規に輸出される以外、何らかの不正や犯罪に関わって行き場を失ってしまったケースもありそうです。