日本生命で判明した金銭詐取事件などの件数を示した同社の内部資料。2021年に青森支社で契約者貸付を不正利用した事故が発生している(記者撮影)

生命保険会社の営業職員による金銭詐取事案が頻発している。

明治安田生命は6月27日、元営業職員が契約者から約2000万円をだまし取っていたと発表した。2020年に発覚した第一生命保険の約19億円の巨額詐取事件を筆頭に、メットライフ生命やソニー生命で営業職員による金銭詐取事件が次々と明らかになっている。

事態を重く見た金融庁は2021年9月から2022年1月にかけて、第一生命に立ち入り検査を実施して監視を強化している。同時に、業界団体である生命保険協会と2022年に複数回の意見交換を行い、「営業職員の管理態勢の見直しや高度化に向けた取り組みを後押ししている」(金融庁)という。

固唾をのむ生保最大手

こうした中、当局の動きを固唾をのんで見守っている会社がある。業界最大手の日本生命だ。

というのも、日本生命の営業現場では保険募集に関わる重大な事故が毎年発生しており、同社からの事故の届け出を受けた金融庁が、とりわけ監視の目を光らせているからだ。

営業職員チャネルを持つどの生保会社でも同じだが、営業職員による金銭詐取やコンプライアンスに抵触する保険募集が発覚した場合、各社は地元の財務局へ事故の届け出をしなければならない。そして、届け出を受理した財務局が金融庁に報告する流れになっている。

日本生命の場合、2021年度は12月時点(2021年4月〜12月)で34件の事故が発覚し、その旨を財務局に届け出ている。「重要事項の不説明」や「特別利益の提供」(契約者や被保険者に対して保険料の割引きなどを行うこと)など、保険募集に関わるさまざまな違反行為が報告されたが、特に目立つのが保険に加入意思のない人の名義だけを借りて作成する「名義借り契約」と呼ばれる不正契約の多さだ。


2021年4〜12月に34件の事故が発覚したことを説明する日本生命の内部資料(記者撮影)

日本生命の全国99支社の1割に当たる10支社で名義借りが発覚しており、実際の不正契約の件数は100件以上に上る。

中には、1人で30件もの名義借り契約を作成した営業職員もいた。1つの営業部で営業職員9人が不正に関わるケースも発覚するなど、組織ぐるみの不正が疑われる事案もあった。金融庁は不正の件数だけでなく、事案の悪質性も問題視している。

異例の要請のきっかけになった事件

「今後、金銭詐取事案が発生した場合には、財務局だけでなく、金融庁にも前もって報告するように」――。

金融庁が日本生命に対して異例の要請を出すきっかけになったのは、2021年度に発覚した同社青森支社における金銭詐取事件だ。

同支社所属の営業職員が70代の契約者の配偶者と懇意になり、銀行の通帳とパスワードを入手。約8カ月間に計38回も契約者貸付金や配当金を不正に引き出して金銭を取得した事故が同社の社内調査で判明している。

契約している保険の解約返戻金の範囲内で、保険会社からお金を借りることができる「契約者貸付制度」を悪用したという点で、この事故は第一生命などで発覚した金銭詐取事件と類似点がある。「自分は被害を受けているのではないか」と不審に思った契約者が、日本生命と金融庁の両方に申し出たことで詐欺行為が発覚した。

問題はそれだけではない。日本生命の内部資料によると、2017年度から2021年度までの直近5年間で、営業職員による金銭詐取事案が15件判明している。もちろん金融庁は事故の報告を受けているが、中には1事故で契約者の被害総額が数億円に上る詐欺事件も発生している。にもかかわらず、日本生命はこうした事実を一切公表していない。

第一生命は再発防止策に取り組んでいるが…

営業職員による巨額詐欺事件の発覚を受けて、第一生命は再発防止策の策定と実行に取り組んでいる。営業職員チャネルの積年の課題であるターンオーバー(大量採用・大量脱落)問題への対応策として、2022年4月から営業職員の採用基準と給与水準、教育体制を刷新する改革をスタートさせている。

そうした動きとは対照的に日本生命は金銭詐取事案を公表せず、ターンオーバー問題でも明確な改善策を打ち出していない。

節税保険の不適正営業によるマニュライフ生命への金融庁検査は6月中旬で終わり、7月からは金融庁が新しい事務年度に入る。「(営業職員チャネルについては)現時点で顕在化されていない問題であっても、当局が把握し問題だと考える事案があれば、必要に応じて立ち入り検査を活用する」と金融庁の担当者は話す。

金融庁が口を酸っぱくして言う「顧客本位の業務運営」から鑑みて、日本生命に金融庁の立入検査が入る可能性が高まっている。

(高見 和也 : 東洋経済 記者)