今年1月のAFC女子アジアカップでは2連覇を狙っていたなでしこジャパンだが、準決勝で中国にPKの末敗れた。来年7月のFIFA女子ワールドカップに向けての強化が急がれるが、9月に予定されていたアジア競技大会が延期になるなど、思うように強化日程を組めないもどかしさがある。
2戦目のフィンランド戦で得点を決めて、結果を残した遠藤純

 だからこそ、今回のセルビア、フィンランドとの2連戦は何としても実りあるものにしなければならなかった。セルビアに5−0、フィンランドに5−1の圧勝という結果から見れば、昨年11月のオランダ遠征では無得点に終わっていた攻撃面は活性化され、何より大きく守備が変わった。攻守において収穫を得ることには成功したと言えるだろう。

 セルビアは4月のW杯予選でドイツに3−2で勝利をおさめたダークホース的存在で、フィンランドは7月にUEFAヨーロッパ女子選手権を控えてチーム力を引き上げたいところだ。どちらもヨーロッパの新勢力の座を狙える位置にいる。

 ここまでの池田ジャパンは、守備では粘れない脆さ、立ち上がりは受け身などの課題があったが、この遠征で池田太監督の求める"高い位置からのアグレッシブな守備"においてもう一段階前で奪うという、ひとつの形が示された。数的ギャップやアンカーの対応など、これまで日本が後手に回りがちなプレッシングが整理されたのだ。

 連動性が必須で、致命的な穴になりかねない中盤とセンターバック(CB)の間を埋める動きが最終ラインには求められる。カギは熊谷紗希(FCバイエルン・ミュンヘン)のスイッチだ。フィジカルで世界と張り合えない日本としてはリスクを伴うが、奪えれば優位に攻撃を組み立てることができる。それが表現できたのが5発完封勝利のセルビア戦だった。

「これをモノにするには失敗をしながらやっていかないと。今回は自分が主導でやったけど、今はいけたかな、うしろはいってほしくない、というのを失敗しながらもやれた。90分間プレスをかけ続けるのは難しいので、どこでいかせるのかFWのコントロールを試合の流れのなかで変えられるようにしていきたい」(熊谷)

 CBとしてペアを組んだ南萌華(三菱重工浦和レッズレディース)もこう語る。

「ボールにアタックできる回数がCBだけでなくボランチ、サイドバックでも生み出せた。紗希さんのところでセカンドボールを生み出すという場面もたくさん出せた。ボランチが出ていくタイミングでしっかりうしろがついていく、そのタイミングをしっかり合わせないとセルビア戦のようないい守備はできない」

 リスクを誰よりも感じ取るCBのふたりも手応えはあったようだ。ただ、これはつないでくる相手、圧倒的なフィジカル差がない相手という前提がある。世界の試合巧者がロングボールを織り交ぜて、中盤を飛ばしたパワー勝負に出た場合など、ここからまた選択肢を広げていかなければならないが、これからのなでしこジャパンにとって、大きな指針となることは間違いない。

 攻撃面では、個とコンビネーションの成長がゴールにつながった。東京オリンピックで悔しい思いをして、海外への道を選んだ選手たちのステップアップは目を見張るものがある。長谷川唯(ウェストハム・ユナイテッド)はサイド、トップ下でコンビネーションの核となり、いつも以上にスパイスが効いていた。

ボランチの林穂之香(AIKフットボール)、サイドの杉田妃和(ポートランド・ソーンズFC)らもしかり。なかでも、フィンランド戦に先発した遠藤純(エンジェル・シティFC)のプレーは際立っていた。

 相手のオウンゴールを誘った日本の先制点は、彼女が立て続けに狙ったDFラインとGK間への高精度なクロスボールがもたらしたものだ。後半には清水梨紗(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)からのマイナスのボールを思いきり振り抜いてゴール。

「来い!とは思っていたんですけど、実は準備はできていなかったので、決まってよかったです(苦笑)」(遠藤)

 2得点に絡む活躍にも、本人は前半の動きをしきりに反省していた。

「前半は相手の強度に乗りきれてなかった。太さん(池田監督)からも『前半、もっと動けたんじゃない?』と言われたんですけど、本当にそのとおりで......」

 遠藤は今シーズンからアメリカNWSLへ挑戦している。半年にも満たないわずかな期間ではあるが、今回、練習のピッチに現れた彼女の体つきは変わり、シュートの音も重くなった。「遠藤、違うでしょ?」と目を細めたのは池田監督だ。期待が大きい分、要求も高くなる。

 自身の変化に遠藤は一番に海外選手と対峙する"慣れ"を挙げた。もちろんトレーニングも欠かさない。それは「遠めからのシュートも打てるようになるため」と、トレーニングで使用するウェイトを重くした。持ち上がらなかったものが少しずつ持ち上げられるようになり、毎日コツコツと積み上げた成果が、ブレない身体を作り、精度の高いクロス、重みのあるシュートを生み出している。

 こうした海外で活躍する選手たちが、なでしこジャパンに還元する要素はやはり高い個のスキル。国内で技術を高めることも十分可能だが、実際に"世界"に触れながらの日々とは濃度が異なるのも事実だ。

 今回は、その海外濃度と、国内濃度がうまく交じり合ったコンビネーションプレーでの得点も多く見られた。2試合で大量10得点――勝手知ったる選手だけでなく、第3、第4の動きを交えての10得点は相手のレベルを差し引いても評価できる。あとはW杯までに、このクオリティをどの強度の相手まで保つことができるか。保てなくなった際のプランB、C以降のバリエーションをいくつ作れるか。ようやくしっかりした土台が見えてきたヨーロッパ勢との2連戦だった。