条件つきで愛情を与える親の典型的なNGパターン
「毒親」の典型例や行動と、4つの虐待の実態(写真:USSIE/PIXTA)
「子どもにイライラして怒ってしまう」「言わなくていいことまでつい言ってしまう」「正直手をあげてしまったこともある」──。
長引くコロナ禍でメンタル疾患を抱えている人が増えており、精神科医の井上智介さんのところにも多くの相談がくるそうです。なかでも、幼児や小学生の子どもを育てる30〜40代の人たちが冒頭のような悩みを打ち明け、自分は毒親かもしれないと不安に思う人が目立ってきているそう。そもそも「毒親」とはいったいなんでしょうか。井上氏の新著『子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本』を一部抜粋し再構成のうえお届けします。
毒親とはいったい何か
子どもにイライラしてついどなってしまった、言うことを聞かないので、つい手が出そうになってしまった……、子育て中なら経験がある人も多いでしょう。しかし、これがエスカレートすると「毒親」になる可能性があります。
毒親と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべますか。言葉自体が毒々しいので、自分には関係ないと思いがちですが、実はそんなに激しいものでなくても毒親にあたります。
そもそも毒親とは、アメリカのスーザン・フォワードさんの著書『TOXIC PARENTS』を日本語に訳した言葉。フォワードさんは毒親を、子どもに対して悪い影響を与える親と定義しています。
具体的には、子どもの恐怖心や義務感、罪悪感を過剰に刺激し、子どもの考えや気持ちを無視し、自分の思いどおりにコントロールしようとする親のこと。自分の思う条件があって、それをクリアしないと愛さないよというのが、毒親の大きな一面です。
本来であれば、親から子への愛情は無条件であるもの。成績がいいから愛するよ、手がかからないようないい子でいてくれるから愛するよ、というものではありません。でもそういった条件つきでしか愛情を与えないのが、まさに毒親の大きな特徴です。
また大きなポイントは、多くの毒親が意識的にコントロールしてやろうと思ってやっているわけではないということ。無意識でやってしまっている。それどころか、よかれと思ってやっていることもあります。
自覚がまったくないわけです。
毒親の兆候は、以下のふるまいから見え始めます。
〇家事を完璧にやらないと気がすまない
〇世間的によいとされることは、どんどんとり入れたい
〇子どもがどこで何をしているかを把握しておきたい
思い当たる節のある人も、少なくないのではないでしょうか。そんな人は、実は毒親予備軍かもしれません。さしずめ「グレー親」「黒親」といったところでしょうか。さらに毒親について、くわしく解説していきます。
恐怖を与える4つの虐待
毒親の典型例は3つ。子どもの「恐怖心」「罪悪感」「義務感」を過剰に刺激するというものです。1つずつ説明していきましょう。
毒親ってどんな親? 1
まず「子どもに恐怖心を与える」というのは、いわゆる虐待とイコールと考えてよいでしょう。虐待はニュースとしてとり上げられることが多いからか、レアケースのように思われますが、厚生労働省が発表した令和2年度の児童虐待の相談対応件数は20万件超。右肩上がりで増えています。虐待は、大きく次の4つに分類されます。
1 心理的虐待
2 身体的虐待
3 育児放棄(ネグレクト)
4 性的虐待
4つのうち最も多いのが1、心理的虐待で、全体の6割を占めています。具体的には「おまえは何をやってもダメなやつだ」と大声で罵倒したり、「いい子にしていないとごはんはなし」と脅迫めいた言い方をしたりする、言葉で行う虐待です。
「こわい人に誘拐されたらよかったのに」「実はよそからもらってきた子なんだよ」といった冗談めいた言葉でも、子どもには真偽がわからず、ただただ恐怖です。また大人になってからも残るのが「あんたなんか生まなきゃよかった」という言葉。このように、その子の存在を軽視するような発言や、無視することは、よくある心理的虐待です。
さらに「なんでお兄ちゃんみたいにできないの」「このままだとお姉ちゃんみたいになっちゃうよ」など、きょうだい間で比較することも心理的虐待で、意外にやってしまいがちなパターンです。夫婦げんかが発展して、どちらかがDVを加えていたり、親が情緒不安定でリストカットしたりするところを見せられたりすることも、心理的虐待に含まれます。
2、身体的虐待は、いわゆるなぐる、蹴るといった体に暴力や危害を与える行為です。全体の25%が、これにあたります。なぐる、蹴るに始まり、熱湯をかけるなどの行為は、ニュースざたになるレベルですが、寒い時期に外に出す、物置に閉じ込めるなども含まれます。殴る、蹴るでなくても、意外とあるので、それが虐待といわれてもピンとこない人も少なくないのではないでしょうか。
3、育児放棄(ネグレクト)は、全体の15%くらいあります。食事を与えない、服を着がえさせないというケースが典型的ですが、子どもを家や車に残して出かけてしまう、子どもが病気やケガをしているのに病院に連れていかないのも、育児放棄の1つです。
病院に連れていくとなると、親からするとけっこうお金がかかるので、「がまんしなさい」「寝ていれば治る」と子どもの病気を軽く見て、連れていかないことがあるのです。実際何もなかったとしても、子どもからすれば「痛いのに親は何もしてくれなかった」というつらい思いだけが残ります。
また最近、話題になりつつあるのが、親がスマートフォンを見すぎていること。親がずっとゲームをしていたり、SNSに夢中になっていたりして、子どもの気持ちや親に求めるものを無視している。親がスマホにかまけすぎて、子どもをまったくかまっていないこのケースは、ネグレクトの前段階といわれています。
4、性的虐待は、親が子どもに性的なことを強要したり、子どもに性行為をしたりするものです。非常にショッキングなことですが、全体の約1%といわれています。
割合としては少ないですが、子どもから言い出しにくいのはもちろん、子どもの年齢が低いと、そもそもそれが虐待であることに気づいていないこともあるので、本当は1%どころではなく、もっと件数は多いだろうといわれています。
実は子どもが嫌がっているのに、おふろにいっしょに入ることを強要したり、親がおふろ上がりに裸でうろちょろしたりというのも、性的虐待に近い行為なのです。
この4つが、子どもの恐怖心をあおる毒親の典型パターンです。
過干渉は毒親の出発点
毒親ってどんな親? 2
毒親の典型例の2つ目は「子どもの義務感をあおる」。その出発点となるのが、親の過干渉です。
よく過保護と過干渉は違うといわれますが、子どもが望んでいることを先回りしてやりすぎるのが過保護なのに対して、過干渉は子どもが望んでいないことを先回りしてやりすぎること。
つまり過干渉な親は子どもの気持ちや考えをいっさい無視して、服装、髪形、友達、習い事、進学先、部活……、なんでもかんでも決めてしまいます。親としては、これが正しいと思っているわけですから、別に悪いことをしているつもりはありません。
ですから子どもがこれをやりたいと言っても、違う、違う、ダメダメと全部否定します。これがエスカレートすると、いま、5つ目の虐待といわれている「教育虐待」に発展しかねません。
「子どものため」という大義名分で、一生懸命やるわけですが、親の目標となれば、もうきりがない、天井がない、どんどん上を目指したくなるので、非現実的な勉強量や練習量を与えて、結局それができないとどなったり、このままじゃ将来がダメになると脅したり、「お兄ちゃんと比べてダメじゃない」などと比較したりします。
そういうことを言われると、子どもは親の期待を裏切ったら悪いなとか、がんばらないといけないなという義務感が刺激されて、どんどんつらくなってしまいます。
教育虐待について、もう少しくわしくお話ししましょう。教育虐待しがちな親というのは、高学歴か学歴コンプレックスを抱えているか、そのどちらかです。中間はあまりいません。
高学歴なら満たされた生活をしている人が多いので、それが正しい道であって、子どもにも正しい道を歩ませてあげたいと思うのです。
だから勉強しなくてはいけないという考えのもと、子どもに勉強させるわけですが、自分だったらこれくらいはできた、と子どものキャパシティーを考えずに必要以上の叱咤激励をするのです。子ども目線でなく、自分目線で判断してしまい、その結果、子どもを苦しめることになります。
一方、学歴コンプレックスを抱えている人は、自分に学歴がなかったせいで、人生がうまくいっていないと考えてしまいます。
子どもに同じ思いをさせたくないから、勉強しなさいと言って友達と遊ぶのをやめさせたり、塾はここに行きなさいと子どもに干渉したりします。子どもの部屋に勝手に入って、勉強に必要のないマンガやゲームをどんどん捨てるといったことをする親もいます。
遊ぶことも成長には大切!
しかしながら子どもの成長には当然、友達と遊ぶこと、親子でスキンシップをとること、夜きちんと寝ること。勉強以外にも大切なものがたくさんあります。いろいろな経験をして失敗しながら、善悪を身につけて成長していくものです。それをすっ飛ばして、すべて勉強だとなってしまうのは、非常に危ないことは言うまでもありません。
とかく教育虐待というのは、外からは見えにくく、親はいわゆる「教育熱心な親」と片づけられて、発見されにくいのが実情です。
いちばん重要なのは、子どもの素直な気持ちですが、そもそも子どもはそれをうまく出せません。教育虐待をする親がよく言うのが「子どももそうしたいと言った」ということです。しかし大前提として、子どもは自分の気持ちをすべて口で伝えることはできません。
子どもがいくらいいと言っても、それは親の期待する答えに対して言っているだけで、6か7くらいはいいけれど、3か4は嫌だと思っているかもしれません。子どものネガティブな気持ちにも目を向けて、共感してあげないと、できなかったときに「あなたがやるって言ったんでしょう」となってしまうのです。
教育虐待がエスカレートすると、子どもはだんだん精神的に追い詰められて、おなかが痛い、体がだるいと不定愁訴を訴えてきます。小学校高学年になって、おねしょをするなど赤ちゃん返りをしたり、目をパチパチさせる、体を揺らすといった運動性のチック症状が出たりすることもあります。親との関係は、それほど子どもの心身に影響を与えてしまうのです。
毒親ってどんな親? 3
子どもは親の期待にこたえられなければ、罪悪感を抱くことになります。心をコントロールするのがうまい親なら、例えば「前に自分でやるって言ったけど、ダメだったんだから言うことを聞きなさい」という表現をします。そうすると子どもはたしかにダメだった、とその罪悪感を刺激されて、もう言うことを聞くしかないなとコントロールされていくのです。
あるいはリストカットするような、精神的に不安定な親であれば、子どもに向かって「お母さんの言うことを聞かないなら、もう死ぬから」と言ってみたりします。そうすると子どもは親が死んでしまうから、言うことを聞かないといけない、となるわけです。
しかし、親からすると「子どもを殺すと言ったわけじゃないから、虐待じゃないでしょう」と考えているのです。自分の命や体で駆け引きして子どもの罪悪感をあおる。そんなことをされたら、子どもは身動きがとれなくなってしまいます。
夫婦げんかは子どもに関係ない
DVを受けている母親が「あんたが勉強しないから、お母さんはお父さんになぐられるのよ」と子どもに対して、はっきり言うこともあります。悲壮感たっぷりに言って、やはり子どもの罪悪感をあおります。
でもこれ、本当は子どもではなく、自分の夫と話をしなければいけないことです。うまく子どもに責任を転嫁して、親は自分の精神安定を保っているわけです。とてもこわいケースですが、虐待が20万件超もあることを考えると、こういう例は非常にたくさんあるというのが実際のところかもしれません。
こういった虐待が発見された場合、病院から学校、行政へとつないでいくことで、風穴があいていくことがあります。そこで初めて親自身が、子どもにプレッシャーを与えていたのかとか、自分にも病気があったとか、いろいろとわかることや気づくことがあります。
ですから、そもそも子どもは親だけで育てられるものではないという考えをもって、どんどん家庭を開いていってほしいです。
(井上 智介 : 産業医・精神科医)