森保一監督。筆者はその発した言葉の中で、東京五輪後に述べた以下の一言に、最も抵抗を覚える。

「先を見越して戦うことはまだできない。世界の中で日本が勝ち上がろうとした時、1戦1戦フルで戦いながら次に向かっていくことが現実的である」

 大会後の会見で、中2日で行われた五輪の計6試合を、ローテーションを意識せず、偏りがちなメンバーで戦った理由について問われた際の返答である。「まだできない」と言うことは、W杯本大会もこの東京五輪方式で臨もうとしていると考えられる。

 森保監督は2019年に開催されたアジアカップにも同様なコンセプトで臨んでいる。つまり、先を見越して戦うことは「まだできない」は、正確には「やったことがない」を意味する。W杯に初出場した1998年フランス大会当時の代表監督なら「まだできない」に納得するが、日本は、今回のカタール大会を含めると、以降7会連続本大会に駒を進めている。後進国から、決勝トーナメントに3度出場した経験を持つ中堅国へと脱皮した。前回はあと一歩のところでベスト8入りを逃す惜しいベスト16だった。

 就任会見に臨んだ森保監督も、目標をそのベスト8に設定した。筆者はその達成可能度を25%〜30%と予想した。組み合わせにもよるが、上手くやれば達成できるかもしれない、と。

 だが、監督の腕次第であるとも同時に思った。そうした視点に立った時、森保監督は力不足に見えた。アジアカップ、東京五輪の采配。そして五輪後のコメントを耳にすると、その想いは確信に近づいている。中3日で試合が行われるカタールW杯をその方法論で乗りきることは難しい、と。

 ベスト8という目標は、ドイツ、スペインとグループリーグを戦うW杯本大会の組み合わせが決まると、別の意味で非現実的な設定に見えてくる。当初抱いた25〜30%という実現の可能性は大きく低下している。

 英国ブックメーカーの最王手ウィリアムヒル社のグループリーグEの突破予想は、1位スペイン(1.83倍)、2位ドイツ(2.1倍)、3位日本(12倍)、4位コスタリカ(41倍)となるが、オッズにしたがえば、突破確率は10%程度に過ぎないだろう。スペイン、ドイツのいずれかを倒し2位に滑り込むことは世界を驚かす、文字通りの番狂わせに値する。

 森保監督の言う、先を見越して戦うことは「まだできない」に、賛同する人は増えそうな状況だ。しかし、くり返すが中3日だ。しかも舞台はカタールだ。そして時代はプレッシングだ。設定の厳しさは前回ロシア大会より何割も増している。

 前回の西野ジャパンは、同じスタメンで2試合を戦い、3試合目でメンバーを大幅に入れ替えている。まさしく、先を見越して戦うことができない森保式で1、2戦を戦っている。

 その結果、3試合目(ポーランド戦)のスタメンに、西野朗監督は自らがサブと位置づけた選手を並べた。1戦、2戦を同じスタメンで戦ったツケを露呈させるような、計画性に欠ける先を見越すことができない采配を振った。ポーランド戦に西野ジャパンは、戦力ダウンやむなしの、イチかバチかの戦法で臨んだのだ。ラッキーだったのはポーランドが、その時点でグループリーグ落ちしていたことだ。1-0とリードしても2点目を奪おうとはしなかった。

 2試合同じスタメンで戦えば3試合目は息切れする。持続しなくなる。これは厳然とした事実である。カタールW杯では3試合目はスペイン戦にあたる。前回方式は通じない。先を見越して戦わないと3試合目に力を発揮することが難しくなる。

 前回大会4試合の力配分を数値化すれば、100%→95%→75%→85%となる。1、2、4戦は同じスタメンで戦い、3戦目だけ入れ替わったわけだが、4戦目のベルギー戦に勝っていたら、5試合目(準々決勝ブラジル戦)をどんなスタメンで戦っていたのだろうか。サブチームなのか、スタメンチームなのか。このようにチームをレギュラーとサブに分ける、白か黒かのような采配では、番狂わせは望めない。