雨が近づいてくると、頭が痛くなったり、気分が落ち込んだりしませんか?(写真:Ushico/PIXTA)

本格的な梅雨を迎えた。雨が近づいてくると、頭が痛くなったり、重くなったり、関節や古傷が痛んだり、はたまた気分が落ち込んだり……。そんな不調を抱えながら日々過ごしている人は、意外と多いようだ。

これらは「気象病」と呼ばれる。決して仮病ではないが、近年ようやく研究が進みつつある、という状況で、周囲の無理解に苦しむ人も少なくない。

誤解されがちな 「雨で体調不良」

気象病は、気候や天気が原因で起こる体の不調の総称だ。症状によっては「天気痛」とも呼ばれるが、どんな症状がいつ出るか、個人差も非常に大きい。そもそも体調不良と天気との関係に気づかず、気象病の自覚のない人もいる。

国内男女960人へのアンケート調査では、「気象病にかかったことがある」と答えた人が、全体の37.6%に上った。女性が男性の約1.5倍と、性差もあるようだ(「VOICE NOTE MAGAZINE」調べ)。

症状は人それぞれ、私の知る限りでも、

●慢性痛(頭痛、関節痛・リウマチ、神経痛、歯痛など)
●心血管疾患(脳卒中、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症など)
●血行障害(低血圧、肩こりなど)
●喘息などの呼吸器症状
●うつ病などの精神疾患
●緑内障、めまいやメニエール病などの神経障害
●倦怠感

など、実にさまざまだ。その人の体質や持病がベースにあって、弱い部分に現れたり悪化したりすると感じている。

不調のタイミングとしては、雨やその接近時に、患者さんの訴えがもっとも多い。

先のアンケート調査でも、「雨が降りそうなとき」は気象病が起こりやすいタイミングの第1位で、58.4%だった。以下、「雨が降っているとき」46.0%、「台風が近いとき」35.7%、「湿度が高いとき」26.9%、「曇っているとき」23.5%、「寒いとき」20.5%と続く(複数回答)。

症状としては、「頭痛・頭重感」との回答が最多で、77.6%に上った(複数回答)。英国NHS(国民保健サービス)も、頭痛の10大要因の1つに「悪天候」を挙げている。

「頭痛薬」の売上と「低気圧」の関係

なぜ、雨が近づくと頭が痛くなったり、重たく感じたりするのだろうか?

これまでさまざまな仮説が示されてきた。天気に関連する主な要素は、気圧、気温、湿度、日差しの4つだが、中でも「低気圧のせい」というのはよく聞かれる。

実際、国内の市販頭痛薬(市販名ロキソニン)数十万錠分の売上動向を調べた2014年の研究では、購入日の前日から降水量、平均湿度、最低湿度が高くなる傾向が見られた。特に、平均気圧が下がると売上が上がっていた。ほとんどの購入者は、頭痛を理由に発症後に購入していた。

たしかに今の時期だと、豪雨の原因となる小さな低気圧が梅雨前線の上に発達する。熱帯低気圧である台風が近づいてきた時も、気象病を訴える患者さんが増える。

ただし詳細なメカニズムは長年不明で、“それらしい”臆測も数多く出回ってきた。

例えば、「低気圧で体液や関節包が膨張し、周囲の血管や神経を圧迫して痛み等が出る」といったものだ。だが、血管や関節などは筋肉や周りの組織にぴっちり囲まれていて、日常の気圧変化程度で、それほど自由に膨張するものではないだろう。

これまでの気圧と頭痛の関連についての研究を網羅的に調べた論文でも、仮説として、三叉神経(顔の感覚を伝える神経)の興奮や、血管の収縮・拡張、気圧外傷(急激な気圧変化による耳内部の障害や痛み)などの要因が示されている。

現在有力な考え方は、「内耳にある気圧センサーが急激な気圧変化で刺激され、交感神経を興奮させて、頭痛その他の症状が起きる」というものだ。

名古屋大学と愛知医科大学は2015〜2018年、天気痛を持病とする患者さん53人に対し、特殊な部屋の中で気圧を下げ、身体の変化を見る実験を行っている。気圧を40hPa下げたところ、痛みの増強と交感神経の興奮、鼓膜の温度上昇が起きた。

天気痛のない人で同じ実験を行っても、鼓膜の温度などに変化はなかったという。

2019年には、内耳の「前庭器官」に気圧を感知する部位があることも、マウス実験で確かめられている。

気圧変化を受けて交感神経を興奮させるのは、別名「しあわせホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質「セロトニン」の働きと考えられている。

内耳(前庭器管)で感知された気圧の低下は、体へのストレスと認識される。そこで、精神の安定や安心感を高め、ストレスに対抗する働きのあるセロトニンが大量に放出されるのだ。

だが、セロトニンは交感神経を刺激し、血管を収縮させる作用もある。この血管収縮によって、後頭部を中心に頭が重く、締め付けられるような「緊張型頭痛」が起こる(頭痛の約8割)。

頭痛の痛みに対してさらにセロトニンが放出され、血管を収縮させて頭痛を悪化させる、という悪循環が起きていく。

片頭痛は少しの気圧低下でも発症しやすい

緊張型頭痛以上に低気圧の影響を受けやすいのが、頭痛の約1割とも言われる「片頭痛」だ。

ズキンズキンと波打つように痛み、次第に吐き気やめまいの症状も出て、光や臭いに敏感になる。

片頭痛では、低気圧が接近した際、緊張型頭痛よりも過剰にセロトニンが放出されるらしい。脳血管が急激に収縮し、視野の中に突然ギザギザ・キラキラとした光の波が現れる人もいる(閃輝暗点・せんきあんてん)。特徴的な片頭痛の前兆だ。

一気に消費されたセロトニンは、すぐに枯渇してしまう。セロトニンによるコントロールの外れた三叉神経が興奮し、“痛み物質”を放出して血管拡張と炎症を引き起こす。こうして片頭痛が発生するというのが有力説だ。

2015年の東海大学の研究では、気圧低下に伴い、緊張型頭痛持ち人の2割強(28人中6人)が発症したのに対し、片頭痛持ちでは4分の3近く(34人中25人)が発症した。

片頭痛は、標準の気圧(1013hPa)よりも6〜10hPa低くなったときに最も出やすかった。台風は900〜1000hPaくらいなので、そこまで大幅に下がらなくても、小さな低気圧の接近や通過で十分に影響を受けてしまう。「雨が近づくと頭痛がする」という患者さんの実感にもマッチしている。

頭痛あるいは痛み全般に言えるのが、「早めの服薬」が肝心ということだ。神経の興奮は連鎖反応なので、放っておくと自然に治まるどころか、進んだり強まったりすることのほうが多い。強まってからでは、薬を飲んでもすぐには治まらない。頭痛薬などをいつも携帯して、天候が怪しいときや、なんとなく頭が重いなど予兆を感じたら、すぐ服薬することが大事だ。

なお、片頭痛に関しては先日、国内では20年ぶりに新薬が発売された。「ラスミジタン」(商品名レイボー)だ。

セロトニン受容体に作用して三叉神経の興奮を鎮める薬として、片頭痛にはこの20年「トリプタン」(商品名イミグラン他)が使われてきた。国内で今回新たに使えるようになったラスミジタンは、それとは異なる種類のセロトニン受容体に作用することがわかっている。

トリプタンにせよ、ラスミジタンにせよ、片頭痛薬は、閃輝暗点が現れた時点で飲む必要がある。

また、私は気象病の患者さんに漢方薬を処方することも多い。痛みのタイプを問わず緊張性頭痛でも片頭痛でも、関節痛でも使いやすいのが、「五苓散」(ごれいさん)だ。

漢方「五苓散」は頭痛薬との併用も可

五苓散は、東洋医学で言うところの「水毒」(水滞)、つまり体内で水の巡りが滞って起きる不調に用いられる。水分の代謝・循環を促し、水分バランスや内耳の働きを整えるので、頭痛や関節痛の他、むくみやめまいなどに効果を期待できる。

熊本大学とロート製薬の共同研究では、五苓散が脳血流量を正常化する作用が発表されている。実験で気圧を50hPa低下させて脳の血流量を調べたところ、何も服用しない人では脳血流量が大きく増え、頭痛との関連が推察された。気圧を元に戻しても、脳血流量は正常値までは低下しなかった。

一方、五苓散を服用した人は増加が小さく抑えられ、気圧を元に戻した後は速やかに脳血流量が正常値まで減少した。ロキソニンも同様に、低気圧下で脳血流量の増加を抑える効果はあったが、気圧を元に戻しても脳血流量は正常値まで戻らなかった。

五苓散を通常の頭痛薬や片頭痛薬と併用することも可能だ。片頭痛には予防薬もあるが、五苓散を予防薬として服用することもできる。

もちろん私の診療経験上、五苓散の効き目がいまいちの人もいる。その場合は体質を見ながら、「真武湯」(しんぶとう)や「呉茱萸湯」(ごしゅゆとう)を、切り替えや併用で試していただいている。どちらも体をあたためる作用を持ち、真武湯は水毒に対する効果もある。

いずれにしても、頭痛の種類や程度によっては市販薬でしのぐよりも、受診してドンピシャな薬を処方してもらったほうが手っ取り早く解決することが多い。漢方薬は体質によって合う・合わないがあるので、詳しい医師に相談するのがおススメだ。

頭痛や痛みへの対処はオンライン診療でも十分に事足りることが多い。時間の制約も少なく、雨の中をわざわざ出掛けていく必要もないのでお手軽だ。同時に、天気の動向と体調を併せてチェックする習慣もつけておきたい。頭痛などの現れるタイミングは個人差が大きいので、雨雲や低気圧の接近などと照らし合わせて、自分がどんな気象条件で体調悪化するかを把握するためだ。

頭痛持ちの人向けのスマホアプリもある。天気や気圧変動の予測だけでなく、頭痛時に記録をつけるようになっている。データがたまると、頭痛の発生しやすい気象条件を自動分析してくれて、“頭痛警戒アラート”が送られてくる。

「気象病」あるいは「天気痛」という呼び名は、医学的に確立された“疾病”ではない。発熱などの客観的にわかりやすい症状がないことも多く、「雨が降りそうなので休みます」とは言いにくいのがつらいところだ。天気も気分もなかなかスッキリとはいかないが、医師とアプリを上手に活用して乗り切っていただけたらと思う。

(久住 英二 : ナビタスクリニック内科医師)