分かっていたことでも、改めて突きつけられると重い。
 日本代表が6月シリーズを終えた。
 
 2日のパラグアイ戦に4対1で勝利し、6日のブラジル戦は0対1で敗れた。10日のガーナ戦は4対1で勝ち、14日のチュニジア戦は0対3で敗れている。
 パラグアイはカタールW杯南米予選で敗退し、すでに26年大会へ向けて動き出している。来日メンバーには国際Aマッチ出場経験の少ない選手も含まれており、未来を見据えて経験を積むことが重視されていた。

 ブラジルはベストメンバーを組んできた。結果は最少得点差での敗退だったが、試合に注ぐ熱量は決して低くなかった。
 シュート数は4対18である。日本に決定機と呼べるものはなく、ブラジルは何度となく日本ゴールを脅かした。スコアは最少得点差でも、力の差は明らかだった。

 10日のガーナ戦は、相手のテンションが低かった。試合前に定期的に行なわれる新型コロナウイルスの検査で、複数の選手が陽性判定を受けたことも影響したか。
 それにしても、来日メンバーは20人に満たず、日本戦は控え選手が5人しかいなかった。直前の6月5日にアフリカネーションズカップの予選を戦っており、メンバーを分散して招集したようだ。その結果として、W杯出場国のクオリティを置き忘れていた。

 チュニジアも2日、5日にネーションズカップの予選を消化していたが、キリンカップには高いテンションで挑んできた。主力選手と国際経験の少ない選手をミックスしたメンバー編成は、W杯へのサバイバルとなっていた。

 日本戦のスタメンは、平均身長184・7センチだった。11人のうち10人が180センチ以上の大型チームである。それでいて、一人ひとりの技術が高いのだ。プレッシャーを受けてもすぐにボールを下げず、日本の守備の矢印を利用して引っ繰り返してきた。巧みさと力強さを併せ持つチームは、チャンスを確実に生かして日本を粉砕した。

 今回の4試合は、中3日で消化されていった。W杯と同じ日程である。
 それだけに、チュニジア戦の完敗が重い。

 遠藤航と吉田麻也は、4試合連続で先発した。プレータイムは遠藤が294分で、吉田が270分だ。守田英正が早々に離脱してしまったこともあって、遠藤のプレ―タイムが長くなった。

 W杯本大会でも、遠藤や吉田は今回と同じくらいの稼働率になるだろう。登録メンバーが23人から26人に増え、交代枠が「5」だとしても、彼らは簡単に代えられない選手だ。

 ドイツ、コスタリカ、スペインとの試合は、インテンシティの高いものとなるだろう。心身の消耗は激しいが、格上との対戦だ。大量得点差をつけての「お疲れさま」的な交代は、望めそうもない。CBの吉田とアンカーの遠藤は、どの試合でも最後までピッチに立つだろう。

 グループステージをくぐり抜けて、ノックアウトステージへたどり着いたとする。グループ1位なら中3日、同2位なら中4日で、グループFのチームと激突する。日本の首位進出は考えにくく、2位通過で首位チームとの対戦になるだろう。クロアチアかベルギーが濃厚だ。ロシアW杯の準優勝国と3位国が、ラウンド16で待ち構えている。

 グループステージ第1戦は、直前のテストマッチの情報を頼りに戦うことになる。しかし、2試合目は互いの1試合目を分析したうえで臨み、3試合目では前試合をスカウティングして戦う。
 ラウンド16になれば、お互いの手元には3試合分のデータが集積されている。分析の確度は、かなり高くなる。

 そこで、今回のチュニジア戦だ。敵将ジャレル・カドリは、日本を緻密に分析していた。アンカーの遠藤がボールを持つと、複数の選手が囲い込んだ。攻撃の起点がどこにあるのかを、把握していたのである。
 ブラジルのチッチ監督も、日本を良く知っていった。伊東純也を「1対1に強く、スピードがある」と分析し、見事に封じ込めた。
 グループステージの3試合を通して、選手たちは確実に消耗していく。これはもう、避けられない。疲労感があるとしても、クロスゲームの連続で主力を代えられない。

 さらに言えば、センターラインを挟んだ向こう側には、日本のメカニズムを分解してきた格上のチームがいる。ベスト8入りを賭けたサバイバルとは、かくもシビアな戦いなのだ。

 今回の4試合で、チーム全体の底上げは進んだ。ポジションごとの選択肢は増えた。しかし、世界のトップ・オブ・トップとの距離が縮まったわけでなく、残り5か月で急速に縮められるとも考えられない。森保監督と選手たちの眼前には、厳しい現実が広がっている。