現在の日本代表に対照的なふたりがいる。

 南野拓実と鎌田大地だ。

 南野が所属するのは、イングランド・プレミアリーグのリバプール。昨季はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)、国内リーグでいずれも2位となるなど、世界最高レベルにあるクラブのひとつだ。

 しかし、南野個人はというと、リーグ戦やCLでの出番は限られ、事実上の国内カップ戦要員。試合に出れば点をとるという活躍を見せてはいたが、本人曰く「大したことをしたとは思っていない。手応えより悔しさしかなかった」。

 南野が振り返る。

「(国内カップ戦を)どうでもいい試合とは思わないが、(CLやリーグ戦の)重要な試合に出て結果を残すことに意味がある。もっと重要な試合で結果を出せる選手になりたい」


ドイツで充実のシーズンを送ってきた鎌田大地だが...

 一方、鎌田が所属するのは、ドイツ・ブンデスリーガのフランクフルト。昨季はUEFAヨーロッパリーグ(EL)で優勝の栄誉に浴したが、国内リーグは11位と優勝争いには程遠い順位にいたクラブである。ヨーロッパではもちろん、ドイツ国内でもトップレベルのクラブとは言い難い。

 だが、鎌田個人はと言うと、リーグ戦やELにおいて攻撃の中心的役割を担い、特にELでは得点ランク4位タイの5ゴールを記録。国際舞台での強さを発揮し、クラブにとって42年ぶりのヨーロッパタイトル獲得という歴史的偉業達成に大きく貢献した。

「ネーションズリーグを見ているが、ドイツもスペインもワールドカップで優勝した時ほどの強さはない。苦戦しているなっていう印象がある。今の日本なら(ワールドカップで)うまく戦えると思う」

 そんな言葉を口にできるのは、バルセロナをはじめとする強敵を下したELでの経験があればこそ。所属クラブの格という点では、南野が鎌田を圧倒するものの、どちらがより充実したシーズンを過ごしたかは、比べるまでもないだろう。

 とはいえ、日本代表に目を移すと、両者の立場は一転する。

 2018年に森保一監督が就任して以降、南野は一貫して日本代表の主力であり続けてきた。当初はトリオでその活躍を取り上げられることが多かった、南野、堂安律、中島翔哉のなかで、その後もずっと同じ立場を守り続けているのは、南野だけだ。

 ポジションの変化はあっても、ワールドカップ最終予選などの重要な試合で、南野の名がスタメンから消えることはほとんどなかった。

 一方、鎌田はシントトロイデンでのブレイクをきっかけに、2019年に初めての代表入り。その後、フランクフルトでの活躍もあって、一昨年から昨年にかけて日本代表内での序列を徐々に高めているかにも見えたが、ワールドカップ最終予選が始まると出場機会を減らし、ついには代表メンバーから外れるようになった。

 結果的にEL優勝のインパクトも後押しになったのか、代表復帰には至ったが、チーム内で確かな地位を築いているとは言い難い。

 今回の6月シリーズ4試合を振り返っても、両者の立ち位置に大きな変化は見られなかった。

 まず"控え組"主体で臨んだ初戦のパラグアイ戦(4−1)では鎌田が先発出場し、1ゴールを記録する一方で、南野は出場なし。

 続く2戦目のブラジル戦(0−1)は"主力組"主体で臨んだことで、南野は先発出場したが、鎌田は後半からの途中出場。両者の立場は、従来どおりの流れに沿ったものだった。

 そんな序列に変化の兆しがうかがえたのは、3戦目のガーナ戦(4−1)である。

 再び控え組主体で臨んだこの試合、南野は80分から途中出場したが、鎌田は出場なし。この時点で、最後のチュニジア戦での鎌田の先発出場、すなわち主力組への登用が予想された。

 実際、キリンカップ決勝のチュニジア戦(0−3)で、鎌田は南野とともにスタメンに名を連ねた。南野は4−3−3の左FW、鎌田は左インサイドMFである(試合途中、4−2−3−1に変更となったことで、南野は左MF、鎌田はトップ下に入った)。

 ところが、55分にチュニジアに先制を許すと、5分後の選手交代で退いたのは鎌田。代わってトップ下にポジションを移したのは南野。どちらが日本代表にとって(あるいは、森保監督にとって)重要な選手であるのかを示唆しているようだった。

 森保監督は、長い活動時間を確保できないという代表チームの特性も踏まえ、選手個々が所属クラブで成長することを期待するコメントを常々口にしている。

 だが、実際の選手起用には、個々の成長を裏づける所属クラブでの活躍がさほど大きな影響を与えているようには感じられない。

「ここまで試合に出られない難しい期間が続いたことはなかった」

 昨季をそう振り返る南野は、「すべてのタイトル(獲得)の可能性を残してシーズンを最後まで戦えたことは、サッカー選手として充実していた」と言いつつも、こんなことを話している。

「(所属クラブで)試合にしっかり出場して、最高のコンディションでワールドカップを迎えたい。かつレベルアップしないといけない、とブラジル戦でも感じた。そういうことを踏まえて(来季の行き先を)決断できたらいい」

 自らが自身の出場試合減を憂い、ゲーム体力に不安を覚えている選手を、重要な試合で使い続ける。それが日本代表の現状だ。

 もちろん、活動期間が限られるからこそ、ワールドカップ最終予選を戦うなかで練度を高めてきた組み合わせを大きくいじりたくない。そうした側面はあるだろう。

 だが、今年のワールドカップは11月開幕という異例の大会であり、大会直前に使える準備期間は1週間程度。チーム作りと呼べるほどの活動ができる時間はない。

 だとすれば、その時点での選手のコンディションや調子を見極め、いわば"旬の選手"を見逃さないことが短期決戦を勝ち上がるためには重要な要素となるはずだが、むしろそれとは逆行するような選手起用が見られるのは、本番に向けて気になるところだ。

 過去のワールドカップを振り返れば、本田圭佑や乾貴士が日本代表をベスト16に導く活躍ができたのは、それまでの代表実績にこだわらない選手起用があったからではなかったか。

 6月シリーズをまさかの惨敗で締めくくることになった日本代表。そこに決して小さくはない不安を覚えるのは、0−3というスコアだけが理由ではないだろう。

 さまざまな面で対照的なふたりの存在は、現在の日本代表に漂う閉塞感を象徴しているように見える。