悩みを抱え込んでしまっている人が少なくありません(写真:Graphs/PIXTA)

6月8日、東京都江戸川区が2021年度に実施したひきこもりの実態調査を公表し、ネットを中心に話題を集めています。

調査対象は、15歳以上の給与収入で課税されていない人、区の介護・障害などの行政サービスを利用していない人を含む18万503世帯で、郵送と訪問で調査したところ10万3196件の有効回答を回収(57.17%)。

主に「区内にひきこもりの当事者が7919人いる」「年齢層は20歳未満から80歳以上まで幅広いほか、30〜50代が約半数を占める」「期間は1〜3年未満と10年以上が多い」「男女比はほぼ半々で、家族と同居している人が9割超」「そのうち54人が直接支援に結びついた」などの結果が明らかになりました。

しかし、ひきこもりの当事者は7919人にとどまりません。42.83%にあたる7万7307件が未回答だったことに加えて、厚生労働省が定義する「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人とほとんど交流せずに6カ月以上続けて自宅にひきこもっている状態」には当てはまらないものの、“準ひきこもり”状態の人もいます。

人間関係や生き方などのコンサルタントをしている私のもとには、ひきこもりに関する相談も寄せられますが、コロナ禍に入ってから増えているのが、“準ひきこもり”状態の人に関するもの。「ほとんど家から出ないけど、友人や同僚とのコミュニケーションはときどき取る」「リモートで学業や就労をしている」などの特徴を持つ3タイプの“準ひきこもり”が増えていることを感じさせられるのです。

その3タイプの新たな“準ひきこもり”の人には、どんな特徴があり、どんなきっかけがあったのでしょうか。

出社拒否でテレワークを押し通す

主に「ひきこもりになったきっかけ」として挙げられるのは、いじめ、ハラスメント、友人や同僚とのいさかい、受験の失敗、学業の遅れ、就職活動の不調、仕事のミス、病気やケガ、家庭問題、失恋や離婚、事件や事故のショックなど、さまざまなものがあります。

なかでも昨年あたりから増えているのが、会社員の準ひきこもり。コロナ禍に入った2020年3月以降、テレワークを導入する企業が多かったものの、少しずつ出社要請をする企業も増えています。ビジネスとしては「テレワークで成果が上がらなければ、あるいは、コロナ禍による減収をカバーするために、再び出社を増やすべき」という方針になるのは自然な流れでしょう。私のもとに寄せられる相談にも、「テレワークが週1日になってしまった」「フル出社に戻された」という声が少なくないのです。

「なってしまった」「戻された」という言い方をしているのは、「テレワークのほうがいい」と思っているからにほかなりません。通勤の時間と労力、起床時刻が早くなること、人間関係のわずらわしさが少ない、精神面の気楽さなど理由はさまざまですが、「出社したくない」と感じている人がいるのです。

そんな人々の中には会社からの要請をかわすようにテレワークを押し通す人も……。「今までテレワークでもやれたのだから強制出社はおかしい」「サボリグセがある人や、会社に近い人だけ出社すればいい」などと言い張る人もいれば、「子どもの送り迎えがある」「最近、体調がよくない」「実は基礎疾患がある」などを盾にする人もいます。

これらの人々は「業務中の電話やリモート会議はする」などコミュニケーションを絶とうとしているわけではなく、あくまで「出社しない」という形での“準ひきこもり”状態。ひどい人になると、嘘をついて出社を拒否したり、ハラスメント被害や退社をチラつかせて認めさせようとしたりなどのケースもあるようです。

会社が組織である以上、出社しない人の穴埋めをする存在が必要であり、必然的に同僚の負担が増えるケースが増えてしまうもの。たとえば、「テレワークと出社を交替で行う」という方針の会社でも、「出社できない」とテレワークを押し通す人がいれば、同僚の出社日数が増えてしまいがちです。

このように同僚に負担をかけてしまうほど社内で孤立しやすく、自身の中にも罪悪感が残ることから、「ますます出社しづらくなって、けっきょく辞めてしまった」という人からの相談も受けました。ちなみにその相談者さんは新たな就職先の希望条件に、「完全テレワークであること」を挙げているものの、就職活動はなかなかうまくいかないようです。

とにかく感染はしたくない接触拒否

2つ目は、新型コロナウイルスへの怖さがきっかけとなった準ひきこもり

最初は「絶対に感染したくない」という死や後遺症などへの恐怖から外出しなくなり、その状態が長期化するほど「せっかく頑張って気をつけてきたのだから」と警戒心が強固になってしまう人がいるのです。

特に基礎疾患がある人の警戒心は強くなりやすく、「あの人が近所にコロナを広げているのでは?」などと人間不信に陥っている相談者さんもいました。また、“ワクチンを打たない派”の人にも、外出を避けてひきこもりに近い状態の人が少なくないようです。

ただ、「オンラインでは顔を合わせて会話するけど、『会おう』と言われても絶対に応じない」「近所の人や宅配業者とはインターホン越しになら話す」など、すべての接触を避ける完全なひきこもりではありません。

また、全身に感染対策を施したうえで、朝や深夜などの人が少ない時間帯にスーパーやコンビニなどへ買い物に行くことも特徴の1つ。このタイプの人たちは、「ずっと準ひきこもりでいる」とは思っておらず、「コロナ禍が終わったら元の生活に戻すつもり」なのです。「準ひきこもりの生活を2年もしてきた以上、コロナ禍が終息するまでは今さら変えられない」という心境もあるのでしょう。

実際のところ私の周囲にも、「コロナ感染を恐れるあまり、恋人とも会わなくなって別れてしまい、よく家に来ていた友人との縁も切れてしまった」「『玄関前に山積みされたネットショッピングの“置き配”をしつこいくらい消毒しながら開梱している』と変わり者扱いされている」「毎日朝夕に犬の散歩で多くの愛犬家とふれ合っていたのに、ここ2年間はほとんど家から出ず、誰もその姿を見かけなくなった」などの人がいます。

しかし、もしコロナ禍が終息する日が訪れたとしても、準ひきこもり状態が長期化すると、「本当に終息したのか?」と疑心暗鬼になってしまうなど、なかなか元に戻りづらいのではないでしょうか。

YouTube依存の幼児や小学生と親

3つ目は、YouTube依存の幼児や小学生と、その親の準ひきこもり

「子どもが泣きやむ。機嫌がよくなる」「言葉やマナー、やってはいけないことなどを覚えられる」「見ていてくれる間は家事や仕事ができる」「コロナ禍でお出かけができない子どもの不満を解消するため」などの理由から、乳幼児のときからYouTubeを見せる親は多く、子どもたちにとって“最初にハマるエンターテインメント”になるケースが増えています。

しかし、乳幼児はもちろん小学生になっても、まだ自分の行動や感情をコントロールできません。初めてハマったものを我慢することができず、「制限されると泣き叫ぶ」、あるいは「暴れるなど暴力的になる」という子どもが増え、悩む親たちからの相談をよく聞きます。

事実、この1週間だけで「お外は行かない。YouTube見る」と言い張る2歳児、タブレットをリビングだけでなく寝室にも持ち込み、食事中もつねに見ている3歳児、YouTubeを見るために幼稚園へ行かなくなった5歳児などの声を聞きました。さまざまな物にふれて感情を学び、人々と接することで社会性を育むべき時期に、準ひきこもり状態になってしまうリスクは計り知れないものがあります。

もう1つの怖さは、そんな子どもに引っ張られるように外出の機会を減らしてしまう親がいること。「子どもを1人にして出かけられないから」とスーパーなどへの買い物も行けなくなり、「平日はまったく外に出なくなった」というのです。

また、「週末に子どもを外に連れて行っても喜ばれず、車から出ずにYouTubeを見ている」という声もありました。そうなるとますます外出の機会は減り、準ひきこもり状態の傾向が濃くなってしまいます。

ひきこもりのうちに早期改善を

内閣府の調査では「ひきこもりは全国で115万人超」という推計もありますし、80代の親が無職50代の子どもを支える「8050問題」という言葉も聞いたことがあるのではないでしょうか。

江戸川区の調査を見ても、ひきこもりには「早期に対応しなければ10年以上の長期にわたりやすい」というリスクがあることは間違いないでしょう。そんなリスクがあるからこそ、自分では「ひきこもりではない」「いつでも元に戻せる」などと思っている準ひきこもり状態のうちに改善しておきたいところです。

当事者たちも悪気があってひきこもりになった人はほとんどいないですし、「今日も家から出ずに1日が終わってしまった」と焦っている人や、「将来が不安でほとんど寝られない」と苦しんでいる人もいます。当事者や家族の中には、相談どころか人にうまく説明できずに悩みを抱え込んでいる人が少なくありません。

生きづらさを感じやすく、誰もが孤立化しやすい社会だけに、周囲の人々も「自業自得」と当事者や家族のせいにしたり、偏見の目で見たりすることは避けたいところ。もちろん当事者の努力は必要ですが、今回のような調査を続けながら、さまざまな形で手を差し伸べられる社会であってほしいと願っています。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)