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性暴力の多くは、顔見知りから被害を受けている。女性の被害者では、加害者との関係が交際相手・元交際相手や配偶者・元配偶者といった身近な人で6割を占める。

「家族の中の性暴力は、まず警察に届けられることがない。性的DVという言葉が出ることによって、ようやくこの問題が言葉にできるようになったと思う」。

DV被害者を支援するNPO法人「全国女性シェルターネット」の共同代表・北仲千里さんは、6月7日に開かれた院内集会「刑法性犯罪をUpdate!院内集会」(主催・NPO法人「しあわせなみだ」)で、夫婦という継続的な関係性のなかで起こる性的DVの深刻な実態を報告した。

●避妊をしない夫

北仲さんは性的DVについて、「性を通じた支配の一つ。相手の満足のために我慢し、モノとして扱われる痛みや繰り返される無力感を感じながらも、生活のために離れることを選べないケースが多い」と説明する。

被害者からは、長期にわたって相談対応する中で「実は他にもこういうことがあった」と、性的DVについて打ち明けられることが多いという。

相談では「夫の性行為の要求を断ると、暴言がひどくなるため、いやでも応じざるを得なかった」「夫からアダルトビデオまがいの性関係を求められた」などの望まない性的行為や「避妊もしないために子どもは5人いる」など避妊に協力してくれないという声が寄せられている。

●夫婦間の性暴力は刑事事件化しにくい?

現在、法務省の法制審議会で性犯罪に関する刑法改正について議論がされており、配偶者間においても強制性交等罪などが成立することを明確化する方向だ。

ただ、夫婦間の継続的な支配関係の中での性暴力を、性犯罪として刑事事件化することは「なかなか難しい」と北仲さんは話す。刑法177条の強制性交等罪の「暴行・脅迫を用いて」という暴行・脅迫要件が壁になるためだ。

「私たちは、繰り返し性被害を受けているという相談を受けることが多い。しかし、警察に相談すると、何月何日の性行為について立件できるか、証拠が確認できるか、と聞かれる。継続的な虐待の中での性暴力は、暴行や脅迫がなく大人しく従っていることもある」

法制審議会では、強制性交等罪などの条文に別の要件を列挙して、処罰されるべき対象を明確にすることも検討されている。

具体的には、(1)暴行・脅迫(2)心身の障害(3)睡眠、アルコール・薬物の影響(4)不意打ち(5)継続的な虐待(6)恐怖・驚愕・困惑(7)重大な不利益の憂慮(8)偽計・欺罔による誤信--などが挙げられている。

北仲さんは「『継続的な虐待』が考慮されれば、ようやく日本でも夫婦間の性暴力が犯罪として扱われる余地があるのではないか」と期待した。