(画像提供/明石市役所)

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2022年3月に発表された「SUUMO住みたい街ランキング2022」において、首都版で得点が最も伸びた街(自治体)に選ばれた千葉県流山市と、関西版で子育て世代の投票を特に集めた兵庫県明石市。共に子育てサービスが充実し、子育て環境が充実している点が支持につながりました。全国初の支援を次々と打ち出している流山市と明石市では、どのように子育てができるのでしょうか。子育て支援の最新事情を取材しました。

“「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」”から12年、定着した駅前送迎ステーション、保育園数は5倍に

「住みたい街ランキング2022首都圏版」の、昨年より得点がジャンプアップした自治体ランキングで1位を獲得した流山は、自然豊かな住宅都市。つくばエクスプレス快速で秋葉原駅まで約20分。そのほか市内には、JR武蔵野線、常磐線、東武野田線、流鉄流山線など5線11駅があり、バス網も整備されています。流山おおたかの森駅前には、大型ショッピングモールや子育て支援施設、公園が充実。駅前に多くを集結させ、時間効率性をアップしたことで子育て世代や共働きカップルの得点が高い結果になりました。

流山おおたかの森駅前。2022年春開業したCOTOE(コトエ)は、約40店舗が入居する複合商業施設。保育所や学習塾が入ったこもれびテラスも近くにある(画像提供/流山市役所)

流山グリーンフェスティバルの様子。春には住宅街で個人邸のオープンガーデンが催される(画像提供/流山市役所)

流山が子育て家族の街として注目されたのは、「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチフレーズで2010年から展開された市のプロモーション活動です。2007年から開始されていた駅前保育送迎ステーション(保護者それぞれで保育園に子どもを送らなくても、駅前のステーションにまで送っていけば、そこから市内各所の保育園に送迎してくれる仕組み)も注目を集めました。流山市の子育て支援のサービスや支援を続けるなかでの課題、新しい子育て支援について、流山市マーケティング課河尻和佳子さんに伺いました。

「当時全国に先駆け開設した駅前保育送迎ステーションは、現在も稼働しています。2022年3月の利用児童は131名。『通勤前後に子どもを送り出せて時短になる』と保護者に好評ですが、実は徐々に利用者は減っています。理由は保育園の定員が入園を希望する児童数に追いついてきたためです。駅前保育送迎ステーションはもともと家の近くの保育園に預けられず、離れた園に空きはあっても待機児童になってしまうのを解消する目的ではじめた施策なので、保育園数が増えて利用者が減ることは目標に近づいていると言えます」(河尻さん)

駅前保育送迎ステーション。おおたかの森駅前、南流山駅前で児童を預けられる。通勤に使う駅で送り迎えができるので、通勤している共働き世帯に好評のサービスだ(画像提供/流山市役所)

保育園数は、10年余で5倍になり、定員も4倍強に増加。大規模な共同住宅等を建設する場合、事業者に保育所の設置を要請しています。今後、子どもたちが通うための小学校の新設も予定されているそうです。

流山市がさまざまな子育て支援策を打ち出し始めたのは、井崎義治市長が就任した2003年以降。流山市では今後住民の高齢化が進行し、将来、市の財政が厳しくなるリスクがありました。そこで、共働きが多い若い世代への子育て環境の整備を行い、移住者を呼び込み、少子高齢社会を支えようと考えたのです。全国初のマーケティング課を市役所に創設し、首都圏の子育て世代をターゲットにインターネット等でプロモーション活動をしたところ、「自分に語り掛けてくるようだ」と30代〜40代の子育て世代から予想以上の反響がありました。

「流山市の人口は、10年間で約3.8万人増えています。年齢別人口でみると35〜39歳代の人口が伸びており、その多くが首都圏からの移住者です。4歳以下の子どもの数も増え、合計特殊出生率は1.55。人口増加はつくばエクスプレス開業の効果もありますが、子育て施策が注目され、メディアでの露出が増え、知名度やイメージが向上したことも大きいと感じています」(河尻さん)

オンラインコミュニティNの研究室や女性創業支援で、自己実現をバックアップ

移住してきた子育て世代が街に定着している流山市では、今後、どのような支援が求められていくのでしょうか。

「日本の人口が減り続けるなかで、流山市の人口増加は2027年がピークと推計しています。今後も魅力ある街として共働きの子育て世代に選ばれるには、子育て環境の整備だけでは足りません。『子育てしながら、なりたい自分になれるまち』を目指し、そのきっかけの場づくりなどをしていきます」(河尻さん)

商工振興課では、女性の創業・起業支援として創業スクールを開講。100人以上に及ぶ卒業生の中には、創業のほか、NPO団体や街のコミュニティを立ち上げる人もいます。民間のシェアサテライトオフィスTrist(トリスト)は、都内に通勤していた子育て女性によって「地元でスキルを活かした仕事をしたい女性を応援する」ために設立されました。現在は、市内2拠点でリモートワークの場として、企業と一緒に復職プログラムを開発したり、利用者同士のコミュニティもつくられています。

講師を迎えて開講される創業スクールの授業風景(画像提供/流山市役所)

2022年度の募集パンフレット。募集を開始すると2日で定員が埋まる盛況ぶり(画像提供/流山市役所)

さらに市民の「やってみたい」を形にするため、2022年1月末から、市民のためのオンラインコミュニティ「Nの研究室」が開設されました。

「アイデアの提案や仲間探しの場になればと企画しました。コメント欄では、2カ月で80人強の市民が参加し活発な意見交換が行われています。『虫が苦手なママのための昆虫教室』や『市内の名所で家族写真を撮るサービス』などの発案がプロジェクト化に向け進行しています」(河尻さん)

当初否定的なコメントが増える可能性を案じていたが、熱い議論が交わされ「面白そう」と市外から参加する人も(画像提供/流山市役所)

実際に、流山市に移住し、子育てをしている田中さん(専業主婦・30代)に、流山市の住み心地を取材しました。田中さんが夫と共に約3年間暮らしたアメリカ・ニューヨークから、里帰り出産のため愛知県の実家に戻ったのが2020年の1月ごろ。出産を経て6月に流山市へ引越し、1か月後に帰国した夫と家族3人で暮らしています。流山市へ移住した理由は、都心に出やすく、夫の通勤に便利なこと、徒歩圏内に商業施設や公園がたくさんあることが決め手でした。

「児童センターや支援センターを積極的に活用しています。月ごとにさまざまなイベントがあり、子どもは喜んで通っています。最新の子育て情報を知ることができるLINE配信も便利です」(田中さん)

コミュニティのイベントで娘を遊ばせる田中さん。「まわりのお母さんたちが子どもの成長を一緒に見届けてくれることがうれしい」と話す(画像提供/田中さん)

田中さんは、NY mom’sナガレヤママムズという3歳以下の子どもをもつ母が参加できるコミュニティの3期目の運営に携わりました。昨年度の流山マムズ参加人数は、約90名。活動内容は、Facebookでの情報交換、月に一度の交流会、季節のイベント、月に数回少人数で集まる会、部活動(英語部、絵本部、ダンス部、ホームパーティー部などです。流山市に移住して間もない母親の加入が多く、情報交換の場になっているそうです。

田中さんの流山市の子育て支援についての満足度は、10点満点中8点。

「流山市は新しい保育園がたくさんでき、駅前保育送迎ステーションなど働くお母さんのための選択肢がたくさんあるのが良いですね。私は専業主婦なので、幼稚園ももっと充実させていただけたらうれしいなと思います」(田中さん)

自己実現の満足度を訪ねると、「料理が苦手なので8点くらいですが、10点を目指しています!」と明るく答えてくれました。

所得制限なく5つの無料化を続ける明石市。すべての子育て世代に支援を

明石城跡につくられた明石公園では、週末にマルシェが催されることも(画像提供/明石市役所)

面積約50平方kmの兵庫県明石市は、目の前に明石海峡や淡路島を望む、海に面した街です。明石市では、2011年の泉房穂市長就任以降、「子どもを核としたまちづくり」を掲げてきました。「住みたい街ランキング2022関西版」では、夫婦+子育て世帯を対象にしたランキングで明石市として10位、明石駅は過去最高の7位。兵庫県民ランキングにおいては、初のベスト5入りと支持を集めました。明石市の子育て支援について、明石市役所に取材しました。

明石市の無料化施策の特徴は、現金を配るのではなく、サービスを提供すること。しっかり子どもに支援を届けていくために、今すでに発生している公共サービスを無料にしています。例えば、『おむつ定期便』では、経済的負担の軽減に加え、毎月支援員が家庭を訪問することで必要な支援につなげています。さらに、親の所得に関わらず、すべての子どもたちにサービスを届けるため、5つの無料化はすべて所得制限なしで提供されています。

【明石市独自である子育て支援の5つの無料化】※すべて所得制限、自己負担なし

1. こども医療費
2013 年より、中学3年生までの医療費を無料化。さらに 2021年に対象を高校 3 年生まで拡大
2. 中学校給食費
すべての市立中学校で提供している給食を、2020 年から無償化
3. 保育料
2016年から、第2子以降の保育料の完全無料化
4. 公共施設の入場料
天文科学館(市内外問わず高校生以下)、明石海浜プール(市内在住・在学の小学生以下)など
5. おむつ定期便
2020年より、子育て経験がある見守り支援員(配達員)が、0 歳児の赤ちゃんがいる家庭に紙おむつなどを直接お届け

おむつ定期便では、おむつを渡すだけでなく、子育て経験のある支援員が相談にのってくれる(画像提供/明石市役所)

市内に5カ所あるあかし子育て支援センターでは、就学前の子どもが入り混じって遊ぶ(画像提供/明石市役所)

ボールプールや滑り台、読み聞かせのできる図書コーナーもある(画像提供/明石市役所)

長年子育て支援を継続した結果、定住人口は9年連続で増加し、2020年の国勢調査で30万人を超え過去最高に。25〜39歳の子育て層が増加しており、0〜4歳人口も増えています。合計特殊出生率は、2020年統計時に1.7に上昇しました。人口が増えるとともに、明石駅の公共施設がさらに充実し、商業施設、商店街ににぎわいが生まれ、市外からも人が集まるように。交流人口が増加し、商業地地価も毎年上昇しています。

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

明石駅前。大規模商業施設だけでなく、近くに公共施設や商店街がある(画像提供/明石市役所)

人口が増加してからも、次々と新しい子育てサービスを実施。2020年9月に市内全公立幼稚園で給食をスタート(副食費は無料)したり、離婚前後の子どもを支援したり、さまざまな施策を行っています。離婚前後の養育支援では、面会交流のコーディネートのほか、2020年7月〜2021年3月に、養育費の不払いがあった際、市が支払い義務者に働きかけを行い、不払いが続く場合に1か月分(上限5万円)の立て替えを行いました。「子どもに会えて成長を確認できてうれしい」「養育費がちゃんと支払われるようになった」と利用者から感謝の声が寄せられたそうです。

すべての子どもをまちのみんなで応援することが、まちの未来をつくる

明石市では、全小学校区に子ども食堂を配置していますが、運営団体は、まちづくり協議会や民生児童委員協議会、地区社会福祉協議会、ボランティア団体など住民主体の活動です。2020年度の子どもの利用者は、3916名でした。

食材は、地産地消にこだわり、管理栄養士によるバランスのとれた食事を提供したり、団体によって様々な工夫をしている(画像提供/明石市役所)

小学校内や公民館、民間施設などで実施され、ボランティアによって運営されている(画像提供/明石市役所)

また、街づくりの一環としてはじまった「本のまちづくり」は、子どもたちのこころの豊かさを育むことにつながっています。2017年に、子育て施設などが入る明石駅前ビルに移設オープンした、あかし市民図書館を中心に、「いつでも、どこでも、だれでも手を伸ばせば本に届くまち」を掲げ、さまざまな取り組みを行っています。

2017年からは、4か月児健診時に絵本2冊と読み聞かせ体験をプレゼントする『ブックスタート』、2018年から、3歳6か月児健診時に絵本1冊のプレゼントと読み聞かせのアドバイスを行う『ブックセカンド』を開始しました。2020 年の 4 月〜5 月に未就学児を対象に実施した『絵本の宅配便』では、コロナ禍で外出自粛を余儀なくされた子どもと保護者がいつもと変わらず楽しい時間を過ごせるよう、絵本を各家庭まで配送。利用者には大変喜ばれ、多くのお礼のお手紙が図書館に寄せられたそうです。こうした取り組みが評価され、「Library of the Year2021」において、あかし市民図書館が優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞しました。

移動図書館車の「めぐりん」で本を選ぶ子どもたち。大小2台の移動図書館車が市内を巡回して本を届け、子どもが本に接する機会を市がたくさん提供している(画像提供/明石市役所)

すべての子どもを街のみんなで支えるという、明石市が進める子どもを核とした街づくり。無償化するだけでなく、子ども食堂での見守りや面会交流支援など、寄り添う支援を行うことで、安心して子育てができる環境をつくっていると感じました。

それぞれ独自のサービスで支持を集めている流山市と明石市。ふたつの街づくりで共通するのは、子育て世代のニーズに応えられるように、常に変わり続けていること、子どもと一緒に自分の未来が描けることでした。

●取材協力
流山市役所
・明石市役所


(内田優子)