※この記事は2021年10月12日にBLOGOSで公開されたものです

男女平等の度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数」が156カ国中120位(3月31日、世界経済フォーラム発表)と、先進国のなかでは最低基準である日本。

「女性の活躍」という言葉が叫ばれて久しいが、変化は起きているのか?

そんな疑問を胸に、フリーランスのパイオニアとして様々な挑戦を続けてきた安藤美冬さんと、日中両国のビジネス業界で活躍する齋藤ソフィーさんに対談インタビューを敢行。

「女性の活躍」を皮切りに、日本で感じる違和感や日中の違い、現代日本に必要なものなど幅広く語っていただいた。

「女性の活躍推進」にピンとこなかった

ソフィー:私は中国生まれ中国育ちで、日本の大学に留学する2003年までは上海にいました。中国では、普通に女性が社会の中で活躍していたこともあり、「女性の社会進出」を意識して考えたことはありませんでした。

働くのも結婚するのも当たり前、どんどん管理職になるのも当たり前。それが日本では"普通"じゃないと実感して初めて意識するようになりました。

安藤:私は東京で生まれ育ちましたが、前職の出版社では女性が当たり前に活躍している職場でした。

その後、フリーランスとして働くなかで、子育て・結婚生活と仕事を両立しながらバリバリ働いている人や、あえて結婚しない選択をして仕事に邁進する人など、いろんなタイプの女性に出会ってきました。だから、「日本で女性の活躍推進を」と言われても、あまりピンとこないというのが率直な感想です。

年齢を聞く日本の文化に違和感

安藤:一方、日本で違和感を抱くのは、ニュースなどで"女性"政治家や"女性"コメンテイター、"女性"起業家などと「女性」の冠がつけられることです。メディアでは人を紹介する際に年齢を表示することが多く、バラエティ番組やワイドショーでは未婚か既婚かを話題にすることもあります。

ソフィー:ええ!結婚しているかどうかも伝えるんですか?

安藤:「独身の大物女性芸人」と言った表現を目にしたことはありませんか?

これまで60カ国近くの国に仕事やプライベートで足を運び、いろんな人たちと接してきましたが、年齢を質問するのは日本人特有だと感じています。日本では、出会ってすぐの人にも年齢を聞きますから。

ソフィー:韓国もそうですよね。敬語を使うか否かを確認しないと、会話が始まらないという文化の違いもあると思います。

安藤:確かにそうですね。でも日本は少し事情が違う気がします。

ソフィー:上下関係の確認とは違うんですか?

安藤:例えば「相手が年下であることを確認して安心したい」とか。

ソフィー:なるほど。

優しい日本とバイタリティーのある中国

ソフィー:日本と中国の間でも違いは多くありますよね。

例えば、中国で男性が「結婚したら仕事を辞めてくれる?」なんて女性に言ったら、多分、その男性は一生結婚できなくなるんじゃないでしょうか(笑)

ソフィー:また、ビジネスも含めて日中の大きな違いとして感じるのは変化のスピードです。

日本で「女性の活躍」というのは10年以上前から言われている気がしますが、いまだに変わっていない。私は日本に来て10数年が経ちますが、その間に女性の働く環境が大きく変わった実感はありません。

もちろん、日本にはたくさんいいところがあります。一番思うのは社会が優しいこと。

中国は男女関係なしに成果主義なので、ある意味では非常に厳しい社会と言えます。できる人はどんどん活躍していきますが、できない人、挑戦しない人は容赦なく置いていかれてしまう。だから、皆がどんどん挑戦していく。中国社会は数年経てばがらりと変化します。

安藤:すごくバイタリティーがありますよね。

ソフィー:サバイバルです(笑)

日本はみんなが優しいから、「そんなに変わらなくても大丈夫だよ」と受け入れてくれる。起業の面でもそれはあって「女性だから大目に見てあげる」「女性だから仕方ないよね」というマインドは感じます。だからこそ、色眼鏡をかけられて、男性と比べたらチャンスが少なくなってしまうといったことが起きるのかもしれません。

女性の挑戦が個性として受け入れられない

安藤:日中どちらも、良いところやそうでないところはありますよね。日本はみんな親切だし、とても整列された国だと思います。

ソフィー:本当に生きやすいですよね。

安藤:でも、横にきちんと揃っている、整列されているからこそ「出る杭は打たれる」という考え方が生まれます。中国だとみんな「出る杭」になろうとしているから、そういう意識はないんじゃないですか?

ソフィー:ないですね。

安藤:もちろん生き方の選択は自分の幸せを基準にするべきで、スピード感があっても、ゆっくりしていてもOKだと思います。

でも日本では、人と違う挑戦を選択した人に対して「意識が高い」とか「イタい」という声が多く上がる。そして、そういう声は男性よりも女性に対して向けられることが多い気がします。

ソフィー:すごくわかります。挑戦を個性として受け止められない風潮はありますよね。

安藤:女性のなかにも「家庭的な姿がいい」とか「このくらいの時期に結婚・出産するほうがいい」、「こういう振る舞い方をすると痛々しくない」という、他人の軸に合わせようとする人は多い。メディアも「世間からいかに愛されるか」といった視線で伝えることが多いですよね。

でも、自分の人生を愛するという側面で見ると、「自分で選択する」ことをもっと大切にするべきではないでしょうか。日本の女性には、自分の生き方をもっと大切にしてほしいと思っています。

女性のロールモデルは必要?

ソフィー:私はいまの日本の女性に必要なのは、ロールモデルだと思っています。

例えば、深センにいる私の友人は、起業して教育プラットフォームを立ち上げ、500万人の会員がいるサービスに育てました。最近、結婚をした彼女は、成功した起業家としてのロールモデルになっていくと口にしています。成功した彼女を「出る杭」と見る人はいません。

彼女のSNS(Weibo=ウェイボー、微博)には100万人以上のフォロワーがいて、なかにはもちろん批判コメントもありますが、それは「女性だから」といった批判ではありません。そして、それ以上に、彼女に憧れた女性たちが起業にチャレンジするというポジティブな影響を生んでいます。

さっきミッフィー(安藤さん)も言ったように、日本では彼女のような人が目立ってくると結構な割合で批判されてしまう。そうなると「本当はやりたいけれども、批判を受けたくない」と、挑戦したくなくなりますよね。

女性が起業することをみんなが応援する、そして若い人がその姿に憧れて新たなビジネスを生み出す。日本でもそんな社会の動きが生まれるといいのではと思いますが、どうですか?

安藤:ソフィーさんの話はすごく共感します。でも私自身は、ロールモデルについて少し考え方が違うかもしれません。

ロールモデルの話では、例えば男性に憧れの人物を聞くと"坂本龍馬"など、歴史上の人物が回答にあがることが多い。一方、女性は憧れの人自体をあげる人が少ない気がします。強いて言えば、「お母さん」「おばあちゃん」など、身近な人をあげることはありますが。

これは、あくまで私の考えですが、女性は「あの人のようになりたい」という思いよりも「自分が自分らしく輝きたい」という思いのほうが強いのではないかなと思っていて。

何歳でも新しい挑戦ができることを示したい

安藤:でも、これまでの年齢やロールモデルの話と矛盾するかもしれませんが、いま私は新しい目標に挑戦していて、その姿で少しでも周囲の人に希望を与えられたらいいなと思っています。

40代になっても新しい挑戦を始めて活躍することができる。それにインスパイアされる人がきっといるんじゃないかなと。

ソフィー:きっといると思います。

私はこの秋に日本に拠点を置いていた中国企業を退職しました。企業勤めと並行して、個人的に教育関係イベントのプロデュースを行う会社を運営してきましたが、その知見を生かし、オンラインでの講演など講師としての仕事に今後は力を入れていきたいと思っています。

対談者プロフィール

安藤美冬(あんどう みふゆ)/作家・コメンテイター
1980年生まれ、東京育ち。
累計発行部数20万部、新しいフリーランス・起業の形をつくった働き方のパイオニア。
新卒で(株)集英社に入社し、7年目に独立。本やコラムの執筆をしながら、パソコンとスマートフォンひとつでどこでも働ける自由なノマドワークスタイルを実践中。
「情熱大陸」「NHKスペシャル」などメディア出演多数。
最新刊に『つながらない練習』(PHP研究所)、『売れる個人のつくり方』(Clover出版)がある。

齋藤ソフィー
上海外国語大学卒業後に日本へ留学。慶應義塾大学大学院日本文学修士課程卒業後に大手IT 企業を経て独立。コンテンツプロデューサーとして、様々な日本発のコンテンツを中国へ紹介し定着させた実績を持つ。
「声は生活をより美しくする」というXimalaya(himalaya中国本体)のビジョンに共感し、2021年9月までシマラヤジャパン株式会社副社長。