※この記事は2021年10月05日にBLOGOSで公開されたものです

自民党の岸田文雄総裁(64)は4日午後、国会で指名を受け、憲政史上の節目となる第100代の首相に就任した。首相は同日夕に組閣を終え、岸田内閣が発足した。

岸田首相は首相官邸で開いた会見で自らの内閣を「新時代を共につくる新時代共創内閣」と表現し、喫緊の課題と捉える新型コロナウイルス対策、経済政策に取り組む考えを示した。

会見では、ポスト・コロナ時代を見据えながら、経済政策に力を入れる考えを強調。新型コロナウイルスの感染拡大に伴うデジタル化の加速と言った社会変革を引き合いに、経済・社会ビジョンを策定し具体的な政策を作り上げる「新しい資本主義実現会議」を立ち上げると説明した。

外交面では、北朝鮮による拉致問題について最重要課題との認識を示した上で「条件をつけずに金正恩委員長と直接向き合う覚悟」と語った。また、「核兵器のない世界に向けて全力を尽くす」と述べ、被爆地・広島出身の総理大臣として核廃絶への思いを明らかにした。

会見の最後、政府の進行役の男性が報道陣に会見の終了を告げる中、フリーランスの男性記者が「すみません」と大きな声を出し追加の質問を投げかけようとすると、岸田首相が「はい。どうぞ」と応じる一幕もあった。岸田首相は先月29日の自民党総裁への就任会見で、「記者の皆さんの後ろには国民の皆さんがいる」と報道対応への心構えを述べていた。

今回の組閣では、全閣僚20人のうち初入閣が13人を占めた。女性は3人で、総裁選を争った野田聖子衆院議員を地方創生や少子化、男女共同参画、子ども庁の担当相に起用した。

岸田首相は、歴代最長の7年9ヶ月在職した安倍晋三・元首相に続く菅義偉・前首相の後継で、首相としては64人目の就任となる。会見では、臨時国会の会期末にあたる今月14日に衆議院を解散し、19日公示、31日投開票の日程で衆院選を行う意向を明言した。

閣僚名簿は次の通り。

【会見全文】

冒頭発言

第100代内閣総理大臣に指名されました岸田文雄です。自由民主党と公明党の連立による新たな内閣が発足いたしました。職責を果たせるよう全身全霊で取り組んでまいります。

まず、新型コロナウイルスにより亡くなられた方とご家族の皆様に心からお悔やみ申し上げますとともに、厳しい闘病生活を送っておられる多くの方にお見舞いを申し上げさせていただきたいと思います。また、医療、保険、あるいは介護、こうした現場の最前線で奮闘されている方々や、感染対策に取り組んでいる事業者の方々、国民の皆様に深く感謝を申し上げさせていただきます。

新型コロナとの闘いは続いています。私の内閣ではまず、喫緊かつ最優先の課題であります新型コロナ対策に万全を期してまいります。国民に納得感を持ってもらえる丁寧な説明を行うこと、そして、常に最悪な事態を想定して対応することを基本としてまいります。新型コロナによって大きな影響を受けている方々を支援するために、速やかに経済対策を策定してまいります。

新しい資本主義の実現で経済・社会のビジョン示す

その上で私が目指すのは新しい資本主義の実現です。我が国の未来を切り開くための新しい経済・社会のビジョンを示していきたいと思います。また、若者も、高齢者も、障害のある方も女性も、全ての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される社会を目指してまいります。これらを実現するためには、ひとりひとりの国民の皆さんの声に寄り添い、そして多様な声を真摯に受け止め、形にする、こうした信頼と共感が得られる政治が必要であります。そのため国民の皆さんとの丁寧な対話を大切にしてまいります。

まず、新型コロナ対応です。足元では感染者は落ち着き、緊急事態宣言、及びまん延防止等重点措置は全て解除されました。しかしながら、今落ち着いていてもまた感染が増えていくのではないか、また、感染が大きく増えた場合、しっかり医療を受けることができるのか。こういった不安を抱えた方が大勢いらっしゃいます。そうした国民の不安に応えるために、ワクチン接種、医療体制の確保、検査の拡充、こうした取り組みの強化について、様々な事態を想定した対応策の全体像を早急に国民の皆様にお示しすることができるよう、山際大臣、後藤大臣、堀内大臣の3大臣に指示を出しました。

合わせて国民の協力を得られるよう、経済支援をしっかりと行い、通常に近い経済、社会活動を1日も早く取り戻すことを目指してまいります。またここまでの対応を徹底的に分析し、何が危機対応のボトルネックになっていたのかを検証してまいります。その内容を踏まえ、緊急時における人流抑制や、病床確保のための法整備、また、危機管理の司令塔機能の強化など、危機対応を抜本的に強化してまいります。

次に私の経済政策について申し上げさせていただきます。私が目指すのは新しい資本主義の実現です。成長と分配の好循環、コロナ後の新しい社会の開拓、これがコンセプトです。成長は引き続き極めて重要なテーマです、しかし、成長だけでその果実が分配されなければ消費や需要は盛り上がらず、次の成長も望めません。「分配なくして次の成長はなし」です。私は成長と分配の好循環を実現し、国民が豊かに生活できる経済を作り上げていきます。

また、新型コロナというピンチをチャンスに変え、希望のある未来を切り開いていくことが重要です。なかなか進まなかったデジタル化の加速など、新型コロナは社会変革の芽ももたらしました。この芽を大きく育て、コロナ後の新しい社会の開拓を実現してまいります。そのためにも、新しい資本主義実現会議を立ち上げ、ポストコロナ時代の経済・社会ビジョンを策定し、具体的な政策を作り上げていきます。

成長戦略と分配戦略が経済政策の両輪

新しい資本主義を実現していく車の両輪は、成長戦略と分配戦略です。

成長戦略の第1は、科学技術立国の実現です。科学技術とイノベーションを政策の中心に据え、グリーン、人工知能、量子、バイオなど先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行います。第2に、デジタル田園都市国家構想です。地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めます。第3は経済安全保障です。新たに設けた担当大臣のもと、戦略技術や物資の確保、技術流出の防止に向けた取り組みを進め、自立的な経済構造を実現していきます。第4は人生100年時代の不安解消です。働き方に中立的な社会保障や税制を整備し、勤労者皆保険の実現に向けて取り組んでまいります。

次に、分配戦略です。分配戦略の第1は働く人への分配機能の強化です。企業で働く人や下請け企業に対して、成長の果実がしっかり分配されるよう環境の整備を進めてまいります。第2に中間層の拡大、そして少子化政策です。中間層の所得拡大に向け、国による分配機能を強化いたします。

第3に公的価格のあり方の抜本的な見直しです。医師、看護師、介護士、さらには幼稚園教諭、保育士、こうした方々など社会の基盤を支える現場で働く方々の所得向上に向け、公的価格のあり方の抜本的見直しを行います。第4の柱は財政の単年度主義の弊害是正です。科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの国家的な課題に計画的に取り組んでまいります。

3つの覚悟で毅然とした外交安全保障を展開

外交安全保障は第3の重点政策です。日米同盟を基軸にし、世界の我が国への信頼のもと、3つの覚悟を持って毅然とした外交安全保障を展開してまいります。

第1に、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を守り抜く覚悟です。同盟国、同志国と連携し、自由で開かれたインド太平洋を強力に推進してまいります。第2に、我が国の平和と安定を守り抜く覚悟です。我が国の領土、領海、領空、そして国民の生命、財産。断固として守るために、ミサイル防衛能力を含む、防衛力や海上保安能力の強化に取り組んでまいります。拉致問題は最重要課題です。全ての拉致被害者の1日も早い帰国を実現すべく、総力をあげて取り組みます。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う覚悟です。

第3に、地球規模の課題に向き合い、人類に貢献し、国際社会を主導する覚悟です。被爆地・広島出身の総理大臣として、核兵器のない世界に向けて、全力を尽くしてまいります。また、地球温暖化対策の推進や、信頼性ある自由なデータ流通、DFFTなど新たなルールづくりに向けて、世界をリードしていきます。

今申し上げた以外にも、我が国においては、デジタル技術を活用した個別教育の推進、地球によりそった多様で豊かな農林水産業の成長戦略化、地球に寄り添った多様で豊かな農林水産業の構築、災害に強い地域づくり、観光立国の実現など課題が山積しています。また、東北の復興なくして、日本の再生はありません。この強い思いの下で、東日本大震災の被災地、中でも福島の復興再生に全力を注いでまいります。

私の内閣は新時代を共につくる、新時代共創内閣です。

新しい時代を皆さんと共に作ってまいります。

「岸田にお任せいただけるのか」国民に判断してもらう

そして最後に、衆議院議員任期と今後の選挙日程について申し上げます。10月21日に衆議院議員の任期は満了いたします。可及的速やかに総選挙を行い、国民から最新のご信任をいただいて、国政を担っていく必要があります。また、コロナ感染の状況は現在落ち着きを見せているとはいえ、先行きについては不透明です。多くの国民の皆さんが未だ大きな不安をお持ちです。一刻も早く、大型で思い切ったコロナ対策、そして経済対策、実現してまいりたいと思います。

そのためには、いの一番に国民の皆様に、この岸田にお任せいただけるのかどうか。このご判断をいただき、可能であるならば、国民の信任を背景に、信頼と共感の政治を全面的に動かしていきたいと考えます。

以上のように考え、私は可能な限り早い時期に、総選挙を行うことを決意いたしました。所信表明、代表質問を行ったのち、今国会の会期末、10月14日に衆議院を解散し、10月19日に公示、10月31日に総選挙を行うことといたします。選挙事務の準備期間が非常に短いため、コロナウイルスの(ワクチン)接種にご尽力いただいている自治体の皆様にはご負担をおかけいたしますが、何卒よろしくお願いをしたいと思います。未だコロナ禍による国難が続いております。総選挙期間中も政府としてはコロナと経済、両面への対応、万全を期すことをお誓いして、冒頭発言とさせていただきます。

質疑応答

10月の解散総選挙 国際会議参加への影響は

記者:総理から選挙日程のご説明がありましたが、説明された選挙日程に近接しておりますイタリアで開かれるG20首脳会議、英国で開かれるCOP26。この国際会議への対応はどのように考えられておられますか。先ほど経済対策の策定にも言及がありましたけど、個人向けの現金給付を生活支援として行う考えはありますでしょうか。支給額や対象についても基本的なお考えをお聞かせください。

岸田:まず1問目の質問、G20、あるいはCOP26への対応ですが、こうした会議、当然のことながら国際社会において大変重要な会議であると認識をしております。ただ現状において、これはリモート等の技術によって発言をする、参加することも可能であると認識しておりますので、できるだけそうした技術も使うことによって日本の発言、存在力をしっかり示していきたいと考えています。

2問目の質問、個人的な現金給付を行うかということについては、私は今コロナ禍において大変苦しんでおられる弱い立場の方々、女性や非正規、あるいは学生の皆さんといった弱い立場の方々に、個別に現金給付を行うことは考えていきたいと思います。金額等につきましては今後与党でも具体的な案をしっかりと検討した上で、確定していきたいと考えています。

記者:コロナ対策についてお伺いします。今回コロナ対策の関係閣僚を全員交代させましたが、その狙いをお聞かせください。また今後関係閣僚の役割分担や意思決定の仕組み、専門家会議のあり方などを見直していく考えはあるのか。これまでの対策を分析して人流抑制などの法改正や危機管理の司令塔の強化などを考えるとおっしゃっていましたが、この辺のスピード感、スケジュール感を教えてください。

岸田:まずコロナ関係閣僚を変えたことの狙いというご質問がありました。自民党の中にはそれぞれ専門分野を持ち、有能な議員がたくさんいます。今回も山際大臣、後藤大臣、あるいは堀内大臣、それぞれの分野で活躍してきた有能な人材であると認識をしています。ぜひこうした新しく就任した大臣においても、しっかりと職責を果たしていただきたいと思っています。

そしてそれぞれの分担については山際大臣、経済、財政を中心にコロナ対策を考えていく。後藤大臣は厚生労働大臣です。堀内大臣はワクチン担当大臣ということですが、これらの担当の大臣がいかに上手く連携していくのか、協力し合うことができるかというのが重要なポイントであると思います。ですから今日も私はこの3大臣に対して、ぜひ全体像を国民の皆さんに示しながらそれぞれの役割分担しっかり果たしてもらいたい、この連携の重要性を強調した、こういったことであります。

そして司令塔の機能をはじめとする今後のスケジュール感、スピード感というご質問がありました。今回のコロナとの闘いの中で、私自身は司令塔機能が重要だと申し上げてきました。こうした体制をしっかり作っていくことが、これから将来に向けても危機管理という面で大変重要であると認識しています。スケジュール感ということについては大きな方向性を示しながら、具体的にできるだけスケジュール感を作っていきたいと思っています。

できるだけ早急にということは間違いないわけでありますが、そういった方向性とスピード感をもって努力をし、そうした未来に向けて司令塔機能をしっかり作っていく取り組みを進めていきたいと思っています。

新しい資本主義の実現会議とは

記者:新しい資本主義の実現会議を作ると仰いましたけど、この実現会議のイメージについて伺いたいと思います。有限に期間があってそこで最終報告を出して終わりなのか、岸田内閣が続く限りずっと常設としてあるようなイメージなのか。どういう提言を出されることを想定しているのでしょうか。総選挙に勝った場合の年末の予算や税制がありますが、どのように新しい資本主義を実現するために売り込もうと考えていらっしゃるでしょうか。

岸田:まずは新しい資本主義実現会議ということですが、まず今はコロナとの闘いの真っ只中にあると思います。そして国民の皆さんの協力を得るために、しっかりとした経済対策が求められると思います。

そしてその先にコロナとの共存、できるだけ通常に近い、社会経済生活を取り戻すことができた上で、その先に経済の再生を考えなければいけない。そこで新しい資本主義の実現会議でありますが、成長と分配の好循環を作っていく、成長が重要であることはもちろんいうまでもないわけですが、成長の果実をどう分配していくか、民間においてもそれぞれサプライチェーンの努力が求められる、それを補うために公的な政策や公的価格の見直しですとか、こういった取り組みを進めていかなければなりません。

こうした具体的な課題についてぜひ関係者、有識者にもしっかりと意見を聞かせていただき、国民の皆さんの様々な知恵をいただきながら成長と分配を実現していく、こうした取り組みをリードしていく会議を設けさせていただければと思っているところです。

2問目は、新しい資本主義を実現する、これは一朝一夕に実現できるものではありません。ぜひ成長と分配の好循環を続けていくためにも様々な努力は続けていかなければなりませんので短期間で終わるものではないとおもいます。内閣としても、内閣をあげて取り組まないといけない話題ですので、中長期的にこうした会議を活用することを考えていきたいと私は思っています。

記者:新しい資本主義の関係ですが、総裁選を通じて金融所得課税の見直しを訴えられていたと思うのですが、1億円の壁という話もありますが、この辺の政策についてはどのようにお考えでしょうか。

岸田:新しい資本主義を議論する際に、成長と分配の好循環を実現する、分配を具体的に行う際には様々な政策が求められます。その1つとして、いわゆる1億円の壁ということを念頭に、金融所得課税も考えてみる必要があるのではないか。様々な選択肢の1つとしてあげさせていただきました。

当然それだけではなくして、例えば民間企業において株主配当だけではなくして、従業員に対する給与を引き上げた場合に優遇税制を行うとか、様々な政策、さらにはこのサプライチェーンにおける、大企業と中小企業の成長の果実の分配が適切に行われているのか、下請けいじめという状況があってはならない。こういったことについても目を光らせていくなど様々な政策が求められると考えています。

ご指摘の点もそのひとつの政策であると思っています。

核兵器禁止条約への署名・批准についての考えは

記者:総理は自民党の総裁選期間中に聞く声を訴え、国民の声を記してきたというノートをかけられました。そこには地元、被爆地・広島の方々の声もあるんだと思います。被爆者の方々は核兵器禁止条約の署名・批准、条約締約国のオブザーバー参加を求めています。アメリカのバイデン大統領も核なき世界について理解を示しておられます。総理は日米首脳会談など、機会があればこれについて協力を求める考えはありますか。核廃絶に向けた決意と覚悟を改めて聞かせてください。

岸田:先ほど冒頭発言でも申し上げた通り、被爆地・広島出身の総理大臣として核兵器のない世界に向けて全力を尽くしていきたいと思っています。私も外務大臣時代から核兵器のない世界を目指す、これはライフワークとして取り組んできました。その中で厳しい現実にも直面しました。

核兵器をなくす大きな目的に向けて努力をする際に、現実に核兵器を持っているのは核兵器国ですから、核兵器国を動かしてこそ現実は変わるんだと。こういう厳しい現実に何回もぶち当たって、残念な思いをしたことがたびたびありました。核兵器のない世界に向けて核兵器禁止条約は大変重要な条約だと思います。核兵器のない世界を目指す出口に当たる大変重要な条約だと思いますが、核兵器国は一国たりとも核禁条約には参加していないという状況であります。ぜひ唯一の戦争被爆国として、アメリカをはじめとする核兵器国を核兵器のない世界への出口に向けて引っ張っていく、こういった役割を我が国が果たさなければならないと強く思っています。

日米首脳会談でこれを取り上げるか、ということですが、具体的な会議の内容について今ここで予断を与えることは適切ではないと思いますが、バイデン・アメリカ大統領もすでに昨年の自らの大統領選挙の最中に核兵器のない世界を目指すと世界に向けて発信されています。バイデン・アメリカ大統領とも意思疎通を図る中で大きな目標の中で何ができるか考えていきたいと思います。

現金再給付、五輪中止 国民の望む政策選ばぬ政府

記者:国民への説明が必要だと言われております。その中身についてお聞きします。これまで過去のSNS等を見ますと、国民が強く求める政策、たとえば国民への一律再給付、五輪中止などありました。これについてなぜ政府はなぜ実施しないのか。その理由がわからないので、結果的に政権不信につながっていった側面は確かにあると思います。すなわち、多くの国民が望む政策を政府が選択しない場合、その理由についても政府に説明してほしいという声なのですが、これについてお考えをお聞きします。

岸田:おっしゃるように、政治、政府の立場から説明する際に、結果のみならず、その必要性や結論に至る様々なプロセス、こうしたものをしっかり説明する。こうした結論に対して、背景といえるような要素についてもしっかり説明するということは大変重要だと認識しています。これまでも、政府において様々な説明の努力は行われてきたと存じますが、ぜひ今後も、今言った観点から、より丁寧な説明を行うべく政府においても不断の努力を続けていかなければならない、こういったことだと思います。私も新しい内閣においても、ぜひ今言った姿勢でしっかり説明すると同時に、絶えず説明の内容、姿勢についても改善すべく努力していきたいと考えます。

記者:北朝鮮による拉致問題について、総理は金正恩総書記と直接向き合う覚悟はあるとおっしゃいました。安倍総理以来、金正恩と直接会談するという意向を表明しておりますが、いまだに実現しておりません。会談のためにどのような手段、道筋つけたいと考えているかお聞かせいただきたい。拉致被害者が最後に帰国してから20年近く経っております。その間、ひとりも帰国していない理由について、どのように考えているのか。その問題を克服するために岸田内閣だからこそできることをお聞かせいただきたい。

岸田:金正恩委員長と直接向き合う必要があると答えたのは、北朝鮮の政治体制を考えますと、トップの会談、あるいは様々な議論が何よりも重要であるという観点から直接向き合う覚悟であると申し上げさせていただきました。今日まで、なかなか拉致問題について結果が出てこない今後の道筋についてどう考えるかということでありますが、私も北朝鮮との関係においては外務大臣時代、ストックホルム合意をはじめ、様々な取り組みを試みました。

結果として具体的な成果があがらなかったことについては、しっかりと反省しながら拉致問題について考えていかなければいけないと考えていますし、アメリカにおいても新政権が誕生しました。新政権の北朝鮮政策のありようについてもしっかりと把握をしながら、その中で日本としてどんな役割を果たせるのか考えながら、具体的な取り組みを進めていくべきであると思っています。

道筋、どうやって結果を出すのかというご質問ですが、今この時点で具体的な道筋を申し上げることはできませんが、ぜひこうした関係国との連携の中で、日本が果たす役割をしっかりと確認し、そして責任を果たしていきたいと思います。いずれにせよ、拉致被害者のご家族の高齢化が進んでいます。これは一刻の猶予もない課題だと思います。強い覚悟を持って取り組みを続けていきたいと考えています。

衆院選の日程は眞子さまに配慮?

記者:衆院選の日程のことで確認させていただきます。衆院選の日程を19日公示、31日投開票と10月中に収まる形で考えられました。これは新型コロナウイルスの感染状況が今落ち着いているという時期に実施したいというお考えもあったのでしょうか。また、秋篠宮さまの長女眞子さまがご結婚される26日に公示日が重ならないようにという配慮もあったのか。

岸田:まず先ほど選挙日程を決定させていただきましたのは、何よりも衆議院議員の任期は10月21日です。衆議院議員の空白をできるだけ短くしなければいけない、これは当然のことだと思います。そして先ほど申し上げたようにこれから本格的にコロナ対策、あるいは経済対策を進めていかなければいけない、その際にまずは国民の皆さんに岸田に任せていいのかどうか、しっかりとご確認いただき、国民の皆さん意思、思いを背景に思い切ってコロナ対策、そして経済対策を行うことができないか、そういった思いから日程を決めさせていただいた。

コロナが広がっていないうちに選挙をやることを考えたかどうかという質問でありますが、国民の皆さんに貴重なご判断をいただくわけですから、コロナの状況も当然念頭において、より国民の皆さんに選挙に向けてしっかりとした思いを表明していただける環境は大事だと思います。ただ、先ほど申し上げましたことが、最大の目的であるということは申し上げさせていただきます。

記者:総理の政策は多方面にバランスのとれた政策であるとの評価の一方で総花的であるという指摘もある。総理としてもっとも重要視する政策、これは必ずやるぞという政策は何なのかということを教えていただきたいのと、岸田政権の安倍、菅政権との違いについてお考えをお聞かせてください。

岸田:まず再三申し上げているんですが、私として重要視する政策は3つあります。1つ目はいうまでもなく新型コロナ対策であります。2つ目は先ほども紹介させていただきました新しい資本主義、これからの日本の経済、成長と循環の好循環を作ることによって経済の持続可能性をしっかり追求していきたい、こういったことであります。3つ目が3つの覚悟に基づく外交安全保障政策。

この3点が重要な課題であると思っています。新しい資本主義については、先ほど申し上げさせていただきましたが、例えばコロナ対策を考えましても、ぜひ国民の皆さんに対する、納得感のある説明をこれをしっかり行っていく。そして様々な対策を考える際に、絶えず最悪の事態を想定する、これが危機管理の要諦であると思いますので、そういった発想でしっかり対策を行っていきたいと思っています。

そしてコロナ対策においては、何よりも国民の皆さんの協力なくして結果を出すことはできません。よって国民の皆さんに協力していただくために、まずしっかりとした納得感を感じていただかなければいけない。そのためにも丁寧な対話が重要であると考えています。ぜひ多様な国民の皆さんの声をしっかりと伺いながら、それを形にする、政策に反映していく。こうした信頼と共感を得られる政治を実行していきたいと思います。この違いということですが、私自身はしっかりとした政治を進めることによって特色を出していきたいと思っています。

閣僚人事 復興を軽んじているのでは

記者:東日本大震災からの復興について。これまで復興大臣は兼務しておらず、福島県など被災地からは「震災から10年が過ぎ復興が軽んじられているのか」と懸念が出ている。今回の人事の狙い、東京電力福島第一原発から出るアルプス処理水、帰還困難区域の再生など残された課題にどう取り組むか。

岸田:まず、「復興を軽んじているのではないか」という指摘をいただきましたが、全く当たらないと考えています。新内閣における基本方針においても確認していますし、再三、新内閣における様々な取り組みの文書において、強調させていただいていますが、「東北の復興なくして日本の再生なし」。この原点は再三強調しておりますし、これからも変わらないと確信をしています。

そして、兼務をさせているとの指摘がありましたが、確かに西銘大臣は沖縄の出身ということで兼務をしていただきましたが、西銘大臣はこれまでも国土交通委員長、国土交通大臣政務官という復興に関わる政策課題において豊富な経験、あるいは実績を積んでこられた人物です。

間違いなく復興においても、その手腕をしっかり発揮してくれると確信をしているし、ご指摘のような地元の皆さんの不安や指摘については、西銘大臣自身が自らの活動において「そういったことは当たらない」ということをしっかりと証明をしてくれる、そういった人物だと確信をして任命させていただきました。ぜひ、「東北の復興なくして日本の再生なし」。この政府にとって、内閣において重要な課題を掲げながら、西銘大臣にもしっかりと成果をあげていただきたいと思います。

記者:外交について。主にTPP参加問題など中国に対してどう臨むか。

岸田:中国に関しては、我が国の隣国であり、最大の貿易相手国であり、様々民間の交流などを考えますと、日本にとって重要な国であり対話は続けていかなければならないと思います。一方で、東シナ海を始め、南シナ海、様々な地域で力による現状変更と言えるような動きがある。

また私たちが大切にしている自由や民主主義、法の支配、人権、こういった価値観に対して、いかがかと思うような対応も感じる次第です。こういったことについては言うべきことはしっかり言っていかなければならない。そして、我が国のみならず、普遍的な価値を共有する同盟国や同志国とも連携しながら、中国に対して言うべきことは言っていく。これが、重要なスタンスであると思っています。

TPPの参加についてご質問をいただきました。中国がTPPが求める高い水準をしっかり満たすことができるかどうか、これを見ていかなければなりません。国有企業のあり方や、知的財産権に対する対応、こう言ったことを考えますと、TPPの高いレベルを中国がクリアできるかどうか。これは私は、なかなか不透明ではないか、このようには感じています。

現在の分科会を解散して一から作るのか

記者:コロナ感染対策分科会を解散し、一から作る可能性はあるのか。

岸田:結論から言いますと、今の分科会を解散して新たな分科会を作るというようなことは全く総裁選挙の最中から申し上げておりません。今の分科会の皆様方、医療を中心に様々な専門的な見地からご意見をいただいている、政府に対して様々な貢献をいただいていると認識をしています。

私が申し上げている観光ほか、他の分野の専門家の会議も必要だというのは新型コロナの闘いを進め、そしてウィズコロナ、コロナとの共存状態、できるだけ通常に近い社会経済活動を実現するという段階までいった際に、今度は社会経済活動をコロナとの共存の中で動かしていかなければいけないわけですから。

例えば、旅行についてもどんな注意が必要なのか、物流ということを考えても我々はコロナと共存する際にどんな観点に注意しなければいけないのか。人流、外食、様々な分野において、新しい日常を考える際に専門家の皆さんの知識をいただく、こうした有識者会議を別途作っていく必要があるのではないか。こういったことを総裁選挙の最中から申し上げたわけです。ですから、今の分科会を解散するとか、閉鎖するとかそうしたことは1度も申し上げたことはありません。あくまでも別途、そうした新しい日常、コロナとの共存を考える際に私たちの生活、社会経済活動を回す際に必要な色々なアイデア、ヒントをいただくための会議を別途作るべきだと、こうしたことを申し上げてきた次第です。

記者:総理は「新時代をともにつくる共創内閣」を掲げられましたが、抽象的で国民に伝わりにくい。国民が納得する形で具体的にどのようなことに取り組む内閣なのか。

岸田:新しい時代を国民の皆さんと共につくる。この新しい時代というのは、まずコロナとの闘い、これをしっかりと闘い抜いて、先ほど申し上げましたできるだけ通常に近い社会経済活動を取り戻す闘いを進めていき、その先に新しい経済を始め、新しい日常、新しい時代を作っていかなければならない。その新しい時代に向けて共に努力をしてきましょう。こういった思いを「新時代共創内閣」に込めたということであります。

いまコロナとの闘いにおいて、国民の皆さんからの協力なくして乗り越えることはできません。ワクチン接種、あるいは治療薬の開発等を進めながらも、まだ期間がかかるわけですから、その間協力をいただくために、経済政策をしっかり用意しなければいけない。こういったことを申し上げていますし、新しい日常、コロナとの共存を実現する際にもどのような注意をしながら経済活動を進めていくのか、こういったことについて国民の皆さんの協力をいただかなければなりません。

そして、新しい経済によって、私たちは格差に目を向けて、より一体感を感じられる経済を作っていかなければなりません。このようにいまコロナ禍においてバラバラになりかけている国民の心をしっかりと一つにして、様々な課題を乗り越えていく。そういった思いを「新時代共創内閣」。共につくるといった言葉に込めさせていただいた次第です。わかりにくいというご指摘については、ぜひこれからもしっかりと説明を加えながら、ご理解いただけるよう努力していきたいと思っています。

初入閣の若手3閣僚は野党時代を未経験

記者:今回の内閣は老壮青のバランスを掲げている。その中には、当選3回生で初入閣の人が3人いるが、若手の化学変化が期待される一方で、このお3方は自民党の野党時代を経験していない方々です。そういう視点で見ると不安がないのかというのを知りたいところです。そして3人の接点の1つがデジタルだと思いますが、発足したばかりのデジタル庁を今後どう育てていくのか。

岸田:まず若手の皆さんに活躍していただく、今回内閣の人事を考える際に、老壮青のバランスが大事だと申し上げました。従来のバランスを考えると、より中堅、若手の皆様に多く参加いただかないとバランスがとれないと思いまして、より多くの中堅、若手の皆さんに参加していただいた。こういったことです。

加えて、それぞれの個性や能力ももちろん大事ですが、内閣全体としてチームとして機能していく、連携していくという点で、しっかりと協力してもらえる人材を選んだと思っています。そして、若い方々、野党時代を知らないということはその通りかもしれませんが、時代はどんどん変化しています。この新しい時代のなかでその感覚をしっかりと身につけた若い人には臆することなく、未来に向けて努力していただきたいと心から願っております。

発足したデジタル庁、これはようやく発足した、しっかりとこれから花開かせていかなければならないと思います。そしてデジタル庁の課題様々にありますが、日本全体をこれから大きく変化させる大きな芽を持っていると思っています。私が総裁選中にも訴えさせていただいたデジタル田園都市国家構想、これはまさにデジタルの力を持って、長年なかなか進まなかった地方創生を進めていく、という発想に立っています。こう考えるとデジタル庁、あるいはデジタルをめぐる課題はいつまでどうこうというのではなく、未来に向けてしっかりと継続して努力をしていく課題だと認識しています。

投票率の低迷 政治不信のせいもある

記者:新型コロナウイルス感染症が存在する中でも、有権者が安心して投票できる権利について伺えればと思います。選挙は民主主義の根幹ということで、不要不急の外出にはあたらないと、コロナ禍においても選挙は通常通り行われています。一方で、投票率が低下傾向にあって、前回の衆議院選挙では53.68%、2019年の参議院選挙では48.8%ということで約半数の方が投票に行かれていません。

まずは低投票率はどこに原因があるとお考えか政治不信に原因はないとお考えかということがひとつと、今年6月から新型コロナウイルス感染症の陽性者には郵便投票の特例が認められるようになりました。ただ、不特定多数が出入りする投票所へいくことを敬遠される方、DVの被害者など住民票のある自治体に近寄れずに投票を諦めてしまう方もいらっしゃいます。

もちろん投票所ではアルコール消毒とか体温を測ったりビニールシートを貼ったり距離を確保したりと感染症の対策が取られていますけれども、そろそろ全ての方が安心して投票できる制度、投票率を上げるための制度、それからデジタルを活用して公正な選挙が行われるようにする制度、例えばポスター掲示板のデジタルサイネージ化、インターネット投票、投票ポイント制度とか、政治側が整備すべき制度があるのではないかと思いますが岸田さんのご意見をお聞かせください。

岸田:低投票率の要因についてと言うことですが、政治不信もあるとのご指摘ですが、私もそうした政治不信もあると思っています。多くの方々がこのコロナ禍で苦しんでおられる。私も今回の総裁選挙に至るまでの1年間、多くの国民の皆さんの切実な声を小さなノートに書き留めながら、色々と話を聞いてきました。その中で、「自分たちの声が政治に届かない」とか「政治の説明が国民に響かない」といった声もたくさんあったと振り返っています。

こうした状況に対して、やはり民主主義の根幹であります国民の信頼をしっかりと取り戻していかなくてはいけない、こういった危機感を私も持ち今回の総裁選にも挑戦した。こういったことであります。ぜひ、納得感のある説明、対話、そして丁寧で寛容な政治を進めることによって、国民の信頼感を取り戻し、選挙の投票率にも影響してくるこうした流れを作っていきたいと思っています。

そしてコロナ禍の中で選挙の投票がなかなか難しい等ご指摘がありました。それに向けて、様々な提案も今いただきました。すぐにできることできないこと様々だと思いますが、絶えず最新の技術もしっかりと念頭におきながら、何ができるのかを不断に考えていく。こうした姿勢は大事なのではないかと思います。まずは国民の皆さんの声を聴きながら、現実、この選挙、投票に行ってもらえるような体制を作っていきたい、そういった大きな方向性は大事にしていきたいと思います。