※この記事は2021年10月02日にBLOGOSで公開されたものです

日本のメディアは小室さんの長髪姿を「スクープ」

[ロンドン発]秋篠宮(あきしののみや)ご夫妻の長女、眞子(まこ)さま(29)と国際基督教大学時代の同級生、小室圭(こむろ・けい)さん(29)の結婚が正式に決まった。女性皇族の婚約や結婚に伴う皇居・宮殿での儀式は行われず、皇籍離脱の際、支給される1億円超の「一時金」も眞子さまのご意向を踏まえ不支給にするという。「自由」の代償ということか。

お二人は2017年に婚約内定したものの、小室さんの母親の金銭問題を指摘する報道が相次ぎ、宮内庁は18年2月、諸行事を延期。小室さんは半年後、米フォーダム大学ロースクールに留学。今年7月に米ニューヨーク州の弁護士試験を受け、結果は12月に発表されるが、それより先に現地の法律事務所に就職した。9月27日に約3年ぶりに日本に一時帰国したが、日本の民放がニューヨークでポニーテールにした小室さんの姿をスクープした。

「【独自】小室圭さんをニューヨークで直撃 一時帰国直前に“長髪姿” 婚姻届提出へ」(9月24日、FNN国際報道部
「【独自】帰国直前の小室圭さん 内定先の法律事務所関係者と会食か」(9月25日、TBS NEWS)
「あの時とは別人 小室さん ロン毛、ちょんまげ、ポケットに手入れ無視 宮内庁関係者『もう少し考えて…』」(9月25日、スポニチ・アネックス)
「ロン毛の小室圭氏で本当にいいのでしょうか」(月刊『WiLL』11月号)

スポニチは宮内庁関係者の話として「髪型は自由だし、コロナ禍で美容院に行きにくいなどの理由があったのかもしれない」「ただ帰国後、秋篠宮と面会したり記者会見に臨んだりする時には、しかるべき対応を取るべき」と伝え、問いかけを無視する態度に「取材が執拗(しつよう)だった面もあるが、眞子さまと結婚する立場なのだから、ポケットに手を入れて無視するのは良くない。会釈を一つするだけでも違うでしょう」と疑問を呈した。

ネット上では「もうわれわれの知っている小室圭ではない」「小室圭のロン毛気持ち悪っ」「小室圭の態度の変化に驚くべきものがある。2017年のマスコミに対する態度と今回の態度はあまりにも差がある。人は困難な時ほどにその本性がわかるものだ。ひと言昔のように馬鹿丁寧にコメントをお断りすれば良いものを」「小室圭さんイケメンすぎて惚れ直したわ」「ロン毛ってだけで批判される小室圭さん。可哀想」と賛否が分かれた。

アメリカで男性のポニーテールはマナー違反?

世間の目はさまざまだ。「人は外見」と考える人もいれば「人は中身」とポニーテールを気にしない人もいる。皇位継承順位1位の秋篠宮さまを父に、同2位の悠仁さま(15)を弟に持つ眞子さまの結婚相手だけに、それ相応のマナーやプロトコルが求められるという意見もある。その一方で自由の国アメリカでは男性のポニーテールぐらい当たり前だし、凄まじいバッシングの中、個別取材に応じるメリットがないという声も少なくない。

小室さんの母親の金銭問題が明るみに出てからというもの、大衆メディアの“小室さん母子たたき”はエスカレートする一方だった。日本国民が総小姑(こじゅうと)化し、箸の上げ下ろしにまで難癖を付けた。小室さんの一時帰国とお二人の結婚が間近に迫ったとはいえ、小室さんを“避難先”のニューヨークまで追いかけ回すメディアはいかがなものかという批判もある。

人には「私生活をみだりに公開されない権利」「放っておいてもらう権利」、いわゆるプライバシー権が認められている。(1)公表された事実が私生活上の事実、または事実らしく受け取られる恐れのある(2)一般人の感受性を基準にして、公開を欲しないであろうと認められる(3)一般の人にいまだ知られていない――事柄であることが認められる場合、プライバシー侵害が成立する。(朝日新聞社の「事件の取材と報道2012」)

「プライバシー侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する」という最高裁判例がある。対象者が公人・公的存在の場合、社会的地位や活動状況から公開されてもやむをえないと判断される範囲が広くなる。小室さんの場合、眞子さまが皇籍を離脱されて「一時金」を辞退されたとしても公費で身辺警護が付けば「私人」とは言い切れない部分が残る。

しかしメディアの取材や報道がニューヨークでの新婚生活を脅かしたり妨げたりするような事態になれば現地の裁判所に訴えるしかない。海外メディアは日本メディアと違って眞子さまと小室さんに同情的だ。

「このカップルの運命は陰謀と悪意を異常なまでに引き寄せている」

米紙ワシントン・ポストは「ヘンリー公爵とメーガン夫人についてはご存知だろう。いま日本を騒がせている眞子さまと圭さんをご紹介しよう」と報じている。「一見すると古典的な王室(皇室)の物語である。プリンセスが平民の男性と恋に落ちる。王室の伝統に反して王族としての地位を捨て大学時代の恋人と結婚することを決意する」

「小室さんはポニーテールという新しい髪型でさえ、皇族と関わるには相応しくないという象徴になるほど悪者扱いされている。日本は世界で最も長い歴史を持つ世襲の天皇制に支配されている。皇室は政治的な権力を持たず、儀礼的な行為に従事するため、ほとんど世間の目に触れることはない。しかしこのカップルの運命は陰謀と悪意を異常なまでに引き寄せている。ヘンリー王子とメーガン妃のセンセーショナルな王室離脱に匹敵する」

「世間の厳しい目にさらされている眞子さまは皇族としての地位を離れる際に支給される一時金を放棄する戦後で最初の人物になろうとしている。小室さんの髪は日本を離れてから随分伸びた。同じ髪型にすることが社会的規範の尊重とみなされる日本では多くの人がそれを快く思っていない。何百万人もの人々がSNS上にアップされた彼の写真や動画を見てヘアスタイルを批判した」

英大衆紙デーリー・メールは「天皇に反逆した姪は来月にも結婚を発表する。アメリカの法学部生の婚約者を巡る論争が原因で一時金を断り、前例のない皇室離脱を図る」と見出しを付け、デーリー・ミラー紙も「プリンセスは大学の同級生と結婚するため皇室の称号と一時金を放棄する。日本の皇室典範では女性皇族は一般人と結婚するとその地位を失う」と報じている。

イギリスでもヘンリー公爵=王位継承順位6位=とメーガン夫人が王室を離脱してアメリカに移住し、大騒ぎになった。ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイのアナ・ホワイトロック教授(君主制の歴史)は両カップルの類似点と相違点について「どちらも皇室や王室の支配と責任から自由になり、より“普通”の独立した生活を求めて“金の檻(おり)”から脱出しようとしている」と筆者に解説する。

「両カップルとも皇位や王位を継承する予定はないので、皇室や王室の義務を超え、より意義のあるキャリアを築くことを望んでいる。しかし、どちらのケースも前例が少ないため、経済的にも、仕事の種類や世間的な関心の面でも不確実な未来が待ち受けている。もっと身近に、もっと普通にという圧力があるが、これは日本社会における皇室の歴史や立場に反するものだ」とホワイトロック教授は指摘する。

「子宮の中にいる時にしかプライバシーは認められない」英王室

「子宮の中にいる時にしかプライバシーは認められない」ともいわれる英王室。世界の注目度も高く、「タブロイド」と呼ばれる英大衆紙はあの手この手を使って王室のスキャンダルを嗅ぎ回っている。小室さんの母親の金銭問題を巡る騒動で初めて日本の皇室報道も英メディアの王室報道と同じぐらいのレベルに達したといえるのかもしれない。

伝統的に「決して反論せず、説明もしない」という不文律があったバッキンガム宮殿(英王室)も行き過ぎた報道に対しては法的措置を取るようになってきた。

エリザベス女王も2度、英最大の部数を誇る大衆紙サンを訴えている。1988年、王室がその年のクリスマスカードに使おうとしていたものの盗まれてしまった写真を掲載したため提訴し、法廷外で和解した。2度目は93年に女王のクリスマス演説の内容を事前にスッパ抜き、20万ポンド(約3千万円)を慈善団体に寄付することで裁判外で和解している。

同じ年、故ダイアナ元皇太子妃がジムでエクササイズをしている様子を隠し撮りした写真を掲載したデーリー・ミラー紙を提訴した。同紙は謝罪し、元妃の訴訟費用100万ポンド(約1億5千万円)を支払い、20万ポンド(約3千万円)を慈善団体に寄付したとされる。ジムのオーナーは裁判が始まる1週間前にようやく和解に応じて謝罪、写真を売って得た30万ポンド(約4500万円)を諦めた。

95年、チャールズ皇太子は元使用人が回想録を英国内で出版することを差し止めたものの、アメリカでは10万部が売れた。2003年にはデーリー・ミラー紙の記者がバッキンガム宮殿の使用人として働き、潜入ルポを掲載。エリザベス女王は守秘義務違反を理由に雇用契約中の記事をさらに掲載することを差し止めている。

ダイアナ元妃の死後、英王室とタブロイドの関係は極度に悪化

英王室とタブロイドの関係はダイアナ元妃が「パパラッチ」と呼ばれるカメラマンに追いかけられて悲劇の交通事故死を遂げた後、極度に悪化した。一時的な休戦協定が結ばれ、編集者はパパラッチの写真を使用しないことに同意した。しかしウィリアム王子とキャサリン妃の結婚を巡って報道は再び過熱。当時は民間人だったキャサリン妃が07年にコーヒーを飲みながら路上を歩く写真を掲載したデーリー・ミラー紙は謝罪に追い込まれた。

12年にはキャサリン妃のトップレス写真が盗撮され、仏雑誌に掲載された際にはフランスの厳格なプライバシー法に基づいて訴え、雑誌の編集者とオーナーは4万5千ユーロ(約584万円)の罰金を科せられ、10万ユーロ(約1300万円)の賠償が命じられた。15年にはパパラッチがジョージ王子の写真を撮影するため乳母につきまとい、幼児を使って王子をおびき寄せようとしたため、ウィリアム王子は編集者に苦情を申し入れている。

16年にはヘンリー公爵がキャサリン妃の妹のピッパ・ミドルトンさんと不倫関係にあったとのデタラメ報道をデーリー・スター紙に撤回させている。ヘンリー公爵がアフリカ系の母を持つメーガン夫人と交際を始めた時もメーガン夫人の周辺取材が過熱し、英王室は「報道は一線を越えた。これはゲームではなく彼女と彼の人生だ」と異例の警告を発している。

英日曜紙メール・オン・サンデーが19年、メーガン夫人が父に宛てた私的な手紙を掲載したことから、メーガン夫人はプライバシーの侵害だと発行元の新聞社を提訴、自身の著作権が認められて勝訴している。ヘンリー公爵とメーガン夫人は王室を離脱してアメリカに移住した大きな理由の一つに「タブロイドの報道が耐えられなかった」ことを挙げている。

取材や報道の行き過ぎは許されない。しかし、ヘンリー公爵とメーガン夫人だけでなく、王位継承順位2位のウィリアム王子も既存メディアをすっ飛ばしてソーシャルメディアで直接、情報発信する場面が目立つようになった。王族がプライバシーを盾に報道を規制しようとする動きが強まることに対して、メディア関係者の一部からは「王室は自分たちのイメージをコントロールしようとしている」と危惧する声も上がっている。