アメリカ大統領の専用機は「エアフォースワン」のほかにもあります。それがヘリコプターの「マリーンワン」。その名のとおりアメリカ海兵隊が運用していますが、もうすぐ新型に交代する予定だそうです。

横田基地と赤坂を往復していた“老兵”

 2022年5月24日に東京で開かれた日米豪印4か国(クアッド)首脳会議に合わせ、羽田空港や在日米空軍横田基地には要人を乗せた特別機が続々と飛来しました。なかでもアメリカのバイデン大統領を乗せ、「日米友好祭」真っ最中の横田基地に着陸した大統領専用機VC-25A「エアフォースワン」は話題を呼び、SNSやメディアで大きく取り上げられました。


2022年5月22日、横田基地で確認された大統領専用ヘリのVH-3D。大統領が乗っているときのコールサインは「マリーンワン」(深水千翔撮影)。

 実はこの時、もう1つの大統領専用機が横田基地でバイデン大統領の到着を待っていました。コールサインは「マリーンワン」。機体は、アメリカ海兵隊の第1海兵ヘリコプター飛行隊に所属するヘリコプター、VH-3D「シーキング」です。

 このVH-3Dは近いうちに新型の「SH-92A」に置き換わることが決まっており、「マリーンワン」として日本で飛行するのはこれが最後となった可能性があります。

「マリーンワン」とは、アメリカの大統領を乗せた海兵隊機のコールサインです。アメリカ大統領はホワイトハウスから、最も近い空軍飛行場であるアンドルーズ空軍基地へ向かうときなど、短い距離を移動する際は専用のヘリコプターを使用します。外遊時には事前にアメリカ本国から現地へと輸送され、大統領専用車「ビースト」などと共に大統領の移動を助けます。

VH-3Dだけじゃない、もう1つの大統領専用ヘリ

 バイデン大統領は今回、横田基地と港区六本木にある在日米陸軍施設「赤坂プレスセンター」との間を「マリーンワン」で往復しました。

 要人輸送を担う第1海兵ヘリコプター飛行隊では、大統領や副大統領、閣僚などの移動で使用する機体として、SH-3哨戒ヘリをベースにしたVH-3D(14人乗り)と、汎用ヘリUH-60「ブラックホーク」をベースにしたVH-60N「ホワイトホーク」(11人乗り)の2機種を運用しています。


VH-3Dとともに「マリーンワン」として用いられることの多い大統領専用ヘリVH-60N「ホワイトホーク」(画像:ホワイトハウス)。

 これらを「マリーンワン」として運用する際は、常に同一機種で編隊を組んで飛行します。2022年5月22日のバイデン大統領の来日では、横田基地で大勢の来場者が見守るなか、2機の「マリーンワン」が同時に飛び立ちました。

 ちなみに2機セットというイメージが強いですが、多い時には5機編隊で運用されることもあるそうです。離陸後は大統領がどの機体に乗っているかわからなくするため、定期的に隊列を変えて目的地へと飛行します。

新型「マリーンワン」の導入が遅れたワケ

 バイデン大統領が来日時に使用したヘリコプター「VH-3D」は、1978(昭和53)年にデビューした40年選手の大ベテランです。カーター大統領の時代から幾度も改修を重ねて使用してきたものの、老朽化が進んでいたことから、後継機種の導入が大きな課題となっていました。

 新しい「マリーンワン」の選定については2000年代から検討されていましたが、2001(平成13)年に発生したアメリカ同時多発テロ事件や、アグスタウエストランド製AW101をベースにしたVIP機の開発遅延とコスト超過による採用中止など、さまざまな要因が重なり、機種更新は2020年代にまでずれ込んでいます。


VH-3Dに代わり運用が始まる予定の新大統領専用ヘリSH-92A(画像:アメリカ海兵隊)。

 新型の大統領専用ヘリコプターは、シコルスキー「S-92」をベースにした「VH-92A」。アメリカ国防総省は既存のVH-3DとVH-60Nを置き換えるため、2023年までにVIP仕様のVH-92Aを21機、このほかに訓練用や各種支援用として通常の輸送型CH-92Aを2機、計23機調達する計画を立てています。

 2023年には広島市でG7サミットが開かれることが決まっており、その時には新機種のVH-92Aが日本に持ち込まれるかもしれません。

 ちなみに「エアフォースワン」も、ボーイング747-200Bをベースにした現行の機体(VC-25A)から、2025年までにボーイング747-8をベースにした新型機(VC-25B)へ置き換えられることが決まっているため、そのうち最新鋭機で揃えられた大統領専用機のペアの活躍を見ることができるようになると思われます。