2022年5月23日(月)からの1週間は西日本などで真夏日が続出すると予報されており、「まだ5月なのにもう暑い」と感じている人も少なくないはず。日中のみならず夜間の気温上昇にもつながる気候変動により、世界各地の睡眠時間が減少し健康被害が危ぶまれていることが、最近の研究により判明しました。

Rising temperatures erode human sleep globally: One Earth

https://www.cell.com/one-earth/fulltext/S2590-3322(22)00209-3

Hotter nights are already making us lose sleep - Scimex

https://www.scimex.org/newsfeed/hotter-nights-are-already-making-us-lose-sleep

Climate Change Is Depriving The Whole World of Sleep. Here's How Much We Stand to Lose

https://www.sciencealert.com/global-seep-tracking-data-reveals-we-re-all-losing-sleep-thanks-to-global-warming

これまでの研究により、地球温暖化によって死亡事故が増えることや、気温上昇に伴って自殺率が増えることなどが判明しているものの、その根本的なメカニズムは確かめられていませんでした。気温の上昇により、健康に不可欠な睡眠の時間や質が悪影響を受けていることを示唆する研究結果があるものの、それらの多くは被験者の自己申告に頼っていたり、地域に偏りがあったりします。

「気温が上昇すると自殺が増える」という研究結果が発表される - GIGAZINE



by Anthony Easton

暑さが人間の睡眠にもたらす影響を正確に特定するため、デンマーク・コペンハーゲン大学のケルトン・マイナー氏らの研究チームは、加速度計を搭載した睡眠追跡リストバンドから収集された匿名データを使った研究を行いました。分析にかけられたデータには、世界68カ国に住む4万7628人から提供された700万件以上の睡眠記録が含まれていました。

研究チームが、総睡眠時間と入眠時間などの睡眠データと、そのデータが収集された地域における気温データの関係を調べたところ、夜間の気温が25度を超えると睡眠時間が7時間未満になる確率が上昇することが判明しました。7時間という睡眠時間は、人が健康を保つ上で必要な睡眠時間の下限だと言われています。分析ではさらに、30度を超える非常に暑い夜には、睡眠時間が平均14分減少することも分かりました。

たった14分なら大したことではないと感じる人もいるかもしれませんが、過去の研究では「たった一晩の睡眠不足でも心身に重大な影響が出る」ことが分かっています。また、一度睡眠不足になると何日も十分な睡眠をとらないと回復できないため、連日の熱帯夜による慢性的な睡眠不足がもたらす長期的な影響は非常に大きくなります。

実際に、研究チームが21種類もの気候モデルで睡眠不足になる日数を予測したところ、将来的には年間13〜15日の睡眠不足が発生するようになるとの結果が出ました。



こうした研究結果について、マイナー氏は「本研究は、平均気温より高い気温が人間の睡眠を損なうことを、惑星規模で証明した初めての研究となりました。これにより、暑い気候は人が眠りにつく時間を遅らせ、起きる時間を早くすることが示されました」と述べました。

今回の研究ではまた、気候変動が睡眠時間にもたらす影響は低所得国の住民や高齢者ほど大きく、男性よりも女性の方が影響を受けやすいことが確かめられました。これには、エアコンが使えるかどうかが関わっていると考えられますが、収集されたデータにはエアコンの有無は含まれていません。そのため、研究チームは今後エアコンが使えないケースにおける気温の上昇に焦点を当てた研究を実施したいと考えているとのことです。