中高年男性が健康や人間関係より懸念を抱いていることとは(写真:ABC/PIXTA)

近年、中高年男性の働き方について「働かないおじさん問題」などとメディアで取り上げられることは少なくありません。しかし、高学歴の中高年男性を対象としたアンケートから浮かび上がってきたのは、働くことに意欲的な男性たちの姿でした(45歳以上「高学歴男性」が持っていない3つのモノ)。

一方で、中高年男性のセカンドキャリアの門戸はあまり広くありません。本稿では高学歴中高年男性の働き方の実態や課題について、日本総合研究所・小島明子氏の新著『中高年男性の働き方の未来』から一部抜粋、再構成しお届けします。

シニアコーナーの求人で多いのは?

人生100年といわれるようになり、定年前後で再就職活動について考える中高年男性も多いだろう。実際、再就職を行おうとするとき、1つの選択肢となるのが公的機関の利用である。

一般的にハローワークやシニアコーナーで求人が多いのは、警備、マンションの管理人、ビル清掃、学校の用務員などである。中小企業の事務職の採用ニーズ自体は少なく、倍率は高い。中には、事務職にこだわり100社応募する人や、逆に、1つの事務職の求人に100人近くが応募するケースもある

東京しごとセンターでは、マネープランについての情報提供も行っており、シニア生涯ワーキングセミナーを年60回、各市区町村で実施している。どの時点で家計の収支がマイナスになるか、働いていればどの時点まで黒字になるかということを知ることによって、働く意欲を高め、子どもの世話にもならず、働きながら豊かな老後を過ごすことにつながる。

しごとセンター課高齢就業支援係長平野氏によると、「45歳ぐらいからマネープランを立てることも大事である。大企業出身の方々は、再就職活動をされると、たとえば1000万円年収をもらっている方の場合、最低600万円ぐらいほしいという場合がある。

ただ、実際そのような仕事は少ないので、再就職の現状を伝えると、住宅ローンや養育費が払えない、といわれる方が少なくない。働きながら楽しむことが可能な生活が実現できるように、マネープランを早めに立てておくことが必要だ」。

マネープランを早く立てておくことは、将来の仕事を柔軟に選択していくうえで重要であるといえる。

再雇用時の給料が半減した人は4割

定年後の生活を考え始めるミドル・シニアにとっては、お金の問題は、今後の生活そのものに大きな影響を与える重要な問題である。キャリアチェンジをしていくにしても、住宅ローンの返済状況など、経済的な余力によっては選択肢が狭まる可能性がある。

日本総合研究所の調査では、高学歴中高年男性に年収を尋ねているが、1000万円以上と回答している高学歴中高年男性は約3割にのぼり、「600万〜800万円未満」(22.1%)、「800万〜1000万円未満」(18.0%)と続く数値をふまえると、約7割が600万円以上の収入を稼いでいる。一般的には、経済的に豊かな生活を送っている人が多いことが想像できる。

マイスター60が実施した調査によれば、定年到達時の賃金と比べて再雇用後の賃金が半分以下になった人は約4割に上る。再雇用後の仕事内容には満足しているものの、約7割が給与について不満を持っていることが明らかになっている。

マイスター60が定年退職後に再雇用で働いている全国の男性に対して実施した調査では、これからの人生、「健康」「お金」「生きがい」「人間関係」の中で、最も自信がないものとして、「お金」をあげている人の比率が最も多く、約46%に上る。健康や生きがい、人間関係に比べて、お金の問題は、年をとってから努力をしても、挽回がむずかしいということだろう

定年や役職定年の後、自身のキャリアをどのようにしていくかということ以上に、家族の事情も中高年男性の生活に大きな影響を与える。実際、少しでも親の介護負担を減らそうと、地方に住む親を自分が住む都市部の住まいに呼び寄せているケースも増えている。

親を近くに呼び寄せれば、仕事を辞める必要はなくなるかもしれないが、月々8万円の負担が増えるかもしれない。少しでも経済的負担を減らそうと自宅で介護を行った結果、舅姑の世話に疲れ果てた妻から「介護離婚」を切り出されるリスクもある。

多くの中高年男性にとっては、家族が皆元気で介護状態に直面することなく、子どもも経済的に自立し、自身も仕事が続けられることが理想だと考えるが、賃金の低下と起こりうる家族の事情を想定しながら、マネープランを練っておくことは重要である。

自分の課題感や、社会的な役割を理解する

先の記事(45歳以上「高学歴男性」が持っていない3つのモノ)では、高学歴中高年男性の労働価値観の特徴や変化として、出世や昇進への欲求といった外的報酬への欲求は、年齢の経過とともにやや低下していくものの、仕事へのやりがいや自己成長への欲求といった内的報酬への欲求の高さは変化しないことを取り上げた。

役職定年などで役職や権限がなくなり、いままでのスキルや経験を活かしたいという気持ちは強いのに、どのように気持ちの整理をつけて、今後の仕事に取り組んでいけばよいのか、悩みを抱える中高年男性は多いのではないだろうか。

現場で多くの大企業の中高年男性に向けた研修事業を行ってきた社会人材コミュニケーションズの宮島忠文社長兼CEOは、「キャリアがうまくいっている、すなわち人生の満足度や仕事の獲得ができていると感じている人の特長は、キャリア観がしっかりとしている人。そのキャリア観を持つためには、自分の活躍の視野を特定の企業から社会に広げ、かつ評論家になるのではなく、自分が手を動かしてどのような課題を解決できるのか、どのような社会的役割を担えるのか、を理解することが大切だ。これが、プレ中高年が準備しておくこと」と指摘する。

今の職場環境と自分の意欲との間でギャップがあったとしても、社会的課題やそれに向けた自分の役割を改めて認識すれば、仕事に対する取組み姿勢や、見方は大きく変わってくる。また、そのことによって、自分の価値をより高め、社内外含めて新たな挑戦に挑む意欲も生まれてくるのではないだろうか。

これまでの仕事を続けられず、どうしても職を得ることが必要な場合、希望していた職での就職が決まらなければ、職種転換の道も考えなければならない。東京しごとセンターが行っている55歳以上の就職支援講習では、求人が多い業界の業界団体と連携して再就職支援を行っている。

介護、マンション管理員、警備員、ビル清掃、調理等、年間で20コースが提供されている。レジ操作を中心に、コンビニエンスストアの仕事を学ぶコースも設けられている。

特に人気が高いのは、マンション管理系の仕事で、平均月収(月給制の場合)は約17万円程度である。講習を受けた後、最終日に合同面接会を行い、直近の就職率は85%にのぼる。マンション管理の大手企業に入社できるチャンスであることも、人気の理由となっている。

介護職を希望する人も増えているが…

また最近では、社会へ貢献しながら報酬を得たいという理由から、定年退職後の男性が介護関連のコースを受講するケースも増えている。

介護職への再就職ルートとして、介護事業者は中小・零細が多く、採用にコストがかけられないこともあり、採用募集している事業者への直接申込みのほか、ハローワークでの応募が多くなっている。訪問介護の場合には、訪問ヘルパーの資格が必要とされているが、それ以外は不要である。

ただし、介護業界の介護職員初任者研修を最低限必要としている事業者が多く、前述した東京しごとセンターが実施している55歳からの再就職支援講習のような公的機関による講習や、事業者などで研修機会が多く設けられている。業務はOJTで身につけられるため、多くの会社では新規で採用をされるとすぐに現場で業務を学び、即戦力になることが求められている。


大企業を早期退職し、実際介護職へ転職をした人のなかには、収入の低下や体力的な疲労はあるものの、モチベーション高く仕事を続ける人もいる。

法人向けに仕事をしてきた人で、目の前にいる顧客に「ありがとう」といわれることにやりがいを感じられ、その日1日の仕事が終わった後には解放感を感じ、また次の日には新しい1日が始まるという日々の生活が本人の適性に合っているというケースである。

介護業界は勤め先によって再雇用や非常勤で雇用の延長ができるため、高齢になっても活躍し続けられる。「人が好き」な人のなかには、55歳くらいからのチャレンジで、天職にできる人もいるのではないだろうか。

(小島 明子 : 日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト)