NYダウはついに8週連続で下落。しかも毎日の振れ幅も大きい。「真の理由」は何だろうか(写真:ブルームバーグ)

アメリカの主要株価指数がなお軟調だ。ザラ場(日中値)ベースでは、NY(ニューヨーク)ダウ、S&P500、ナスダック総合の主要3指数とも5月20日に年初来安値を更新した。

NYダウの週間ベースでの下落は8週連続で、「1932年以来90年ぶり」と報じられている。筆者の母(1933年生まれ)ですら見たことがない下落基調だ、ということになる(まあ、母は株式市場にはもともと関心が薄いのだが)。

上昇時でも下落時でも、その理由付けは「?」

このところのアメリカ株式市況についての、マスコミの場況解説記事については、「インフレ懸念」「金利上昇懸念」「景気・業績懸念」といった「懸念のオンパレード」になっている。

しかし、筆者は「そうした記事を読んでも、日々の市況が本当にその材料で動いているとは納得しがたい」という点を当コラムなどで頻繁に指摘してきた。

そのためか、先日は、あるマスコミの方から「馬渕さんは、われわれのように日々の材料を取り上げて市場解説している者を、批判しているのですね」などと言われた。

だが、別にマスコミの方を非難しているわけではない。ただ最近の市況が、材料とは無関係にでたらめに上下しており、それに無理やり何かの材料を結び付けようとしても、あまり意味がなく、かえって情報の受け取り側が混乱しているのではないか、と言っているだけだ。

「馬渕さんは、株価が上がるという見通しだから、自分の予想に反して株価が下落すると、『これは材料とは関係ない、でたらめな下落だ』と、悔しまぎれに難癖をつけているだけだ」とのご批判もいただいた。しかし筆者は、最近のアメリカの市況は、株価が下落するときだけでなく、上昇する局面でも、しばしばでたらめに動いていると考えている。

ここであらためて先週のアメリカの株式市況を振り返ってよう。17日にはNYダウが前日比431ドル上昇して3日続伸となったものの、とりわけ好材料が出ていたわけではなかった。また、逆に翌18日はNYダウが同1164ドルもの急落を演じ、肝を冷やした。

その下落の背景としては、前日のウォルマートと当日のターゲットの決算内容の不振が売り材料とされている。確かにその2銘柄について、個別に株価が下落するのはもっともだと考える。だからといって「幅広い企業について業績に疑義が生じ、全面的な株安が生じた」と言われても、納得はしがたい。

では、何が真の相場変動要因であるかといえば、やはり市場心理や需給だろう。このところの市場波乱で、投資家の多くは方向感を失っている。多くの懸念材料が挙げられることで、「株価が大きく上がるだろう」と言われても疑問を覚える。一方では、足元の企業決算全般の堅調さもあって、「株価は大きく下がる」と主張されても、同意しがたい。

すると、投資家が買いも売りも出しづらくなる。結局、売買が薄くなり、少しの売りや買いで値動きが増幅される。そうした市場波乱がさらに投資家の動きを鈍くして……、といった悪循環が生じていると考える。

加えて、株価の方向性が不透明なため、投資家は現物や先物の売買よりも、オプションの買いに走りがちとなる。それがコールとプットの価格を下支えして、それらの価格から算出されるVIX指数(いわゆる恐怖指数)を高止まりさせる。VIXの水準の高さを不安視する向きも、一段と売買を手控える、という面もあるだろう。

全体ではなく「〇〇さえ投資」が破綻か

こうして、アメリカ株式市場において、株価下落時の飛びつき買いや、逆に投げ売りがかさみ、それが市況のでたらめな乱高下を増幅している、と解釈する。残念ながら当面は、そうした不可解な市況の急変が上にも下にも続きそうだ。

とはいっても、株式市場全体としては、狼狽するような大暴落ではない。長期投資としての観点では、S&P500は確かに年初来安値ではあっても、例えば昨年初(2021年初)の水準をまだ5.4%ほど上回っている。

筆者は、アメリカ株式市場全体としては、それほど投げ売りによって崩れてきているとは考えていない。しかし、ある特定の投資手法が崩壊し、そうした手法に依存してきた投資家が泣く泣く投げ売りしていることが、市場全体にも影を落としている。そうした手法とは「〇〇さえ買っていれば大丈夫だ」といった、有望そうな金融商品の一点買いだ。

諸報道によれば、はやりのテーマに沿ったETF(上場投資信託)の価格が、今年に入って大きく下落しているとのことだ。日本でも「テーマ型投信に資金を投じたら、基準価格が大きく下がってしまった」という声をしばしば聞く。

「テーマ」は長期有望でも、関連銘柄はすでに上昇

だが、それはテーマに沿った投資そのものが悪いわけではない。「テーマ」とは、ある特定の産業や製品・サービス群が長期的に花開き、それに関わっている企業の株価が大きく上昇するという考えに基づくもので、そこに理はある。

しかし、あるテーマに沿ったETFや投信が組成され販売される頃には、すでにそうしたテーマが広く知れ渡り、関連銘柄の株価が上がったあとであることが多い。

あるテーマにほとんど誰も気づいていないうちに、先回りして関連銘柄を買いだめ、人気化したところで売却するならよいだろうが、話題になってからでは遅すぎる、ということなのだろう。

IPO(新規株式公開)銘柄、SPAC(特別買収目的会社)への投資も、一時アメリカで華やかに人気化した。そうした投資対象に資金を投じるETFもあるが、それらのETFのうち主要なもので価格を見ると、前述のS&P500と同期間(2021年初来、繰り返しになるがS&P500はその間5.4%上昇)においては、半値ほどになっている。

また、いわゆるミーム株(SNS、例えばツイッターやレディットなどで、話題になっている人気株)についても、価格が大崩れしているとの報道が最近目に付く(ブルームバーグ、日本経済新聞など)。

こうした「〇〇さえ買っていれば有望」というやり方が行き詰っているのは、アメリカの投資家だけではないだろう。日本でもいわゆるレバナス、ナスダック100指数の変動の2倍や3倍の値動きをするファンド(レバレッジをかけたナスダック連動ファンド)が一時人気化したようだが、残念ながら大きく損失を被って撤退する向きもいるように側聞している。

自分自身でじっくり投資対象を分析するのではなく、ネット情報、とくにSNSなどで他人が「この投資先が有望だ」というものに飛びつき、一点集中買いで短期的に手っ取り早く大儲けしよう、という安易な目論見が、アメリカで破綻しているのではないだろうか。

そうした「〇〇さえ投資」していれば大丈夫だとの手法が崩壊して投げ売りとなり、それが前述のような特定の銘柄群の株価を大きく押し下げて、アメリカ株全体にも重しになっているのだろう。

日米とも企業収益の予想値はなお堅調

こうした「特定の銘柄群の投げ売りが足元のアメリカ株不振の本質だ」という見立てが正しければ、まだ短期的には需給面での売り優勢は続きうるが、投げが一巡すれば、企業収益の実態に投資家の目が次第に向かうだろう。

アメリカでは、S&P500指数の予想PER(株価収益率)は、2014年以降はおおむね15〜17倍で推移し、そこから上下にはみ出す場合は市場の行きすぎを示してきた。

コロナ禍から脱却する局面では、収益の回復期待が市場で先行しすぎて株価が先に上振れし、2020年9月にPERは23.5倍にまで高まった。しかし、その後は総じてPERの低下が続き、直近の5月20日には16.9倍にまで低下した。過去の長期推移と比べると、決して割安とはいえないが、割高でもない水準となっている。

一方、S&P500採用企業のEPS(1株当たり利益)の先行き12カ月間の予想増益率(アナリスト予想の平均値)では、20日時点においても20.7%増益が見込まれている。世界的に不透明要因は多く、こうした収益見通しは今後下方修正の余地があるだろうが、増益はしっかりと維持しそうだ。

足元では株価が下落していることから「何か深刻なことが企業業績についても起こっているはずだ」との声を聞く。アナリスト予想の平均値で大幅増益が見込まれていると解説しても「アナリストが楽観的すぎる、間違っている」と頭から決めつける向きが多い。

ただ、そうした決めつけは、市場の悲観に飲み込まれ、冷静にデータを見つめることができていないのではないかと、自問する必要があるように思う。

今回のコラムではアメリカについて長く述べ、日本株について多くを割くことができなくなったが、TOPIX(東証株価指数)ベースで同様に見ると、20日での予想PERは12.2倍にとどまる。TOPIXのPERは2014年以降おおむね13〜16倍で推移してきたので割安だ。

12倍に近い現在のPERは、2016年の世界同時株安(チャイナショック)時の11.9倍、2018年末にかけての株価下落時(米中貿易戦争懸念)の11.0倍、2020年3月のコロナショック時(10.7倍)に次ぐものだ。また、TOPIXベースのEPS前年比の予想値は、20日時点でも28.8%増益だ。

株価=PER×EPSという算式を踏まえれば、株価の長期的な基調は上方向だ、といえるだろう。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

(馬渕 治好 : ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト)