ビジネスホテルに泊まる時は、近所の雑草を摘んできて飾るのが最近のマイブーム。冷たい閉鎖空間が一気に親しみやすいお部屋に変わります(写真:筆者提供)

疫病、災害、老後……。これほど便利で豊かな時代なのに、なぜだか未来は不安でいっぱい。そんな中、50歳で早期退職し、コロナ禍で講演収入がほぼゼロとなっても、楽しく我慢なしの「買わない生活」をしているという稲垣えみ子氏。不安の時代の最強のライフスタイルを実践する筆者の徒然日記、連載第57回をお届けします。

マイレージカードを卒業したら

ポイント経済、という言葉を最近知った。


稲垣えみ子氏による連載57回目です。

ま、多くの方はとっくにご承知かとは思いますが、一応ニワカ知識を披露させていただきますと、このところすっかりアタリマエになった「何かを買うとポイントがもらえる」サービスの爆発的広がりのことである。

その発行額は今や年間2兆円とも言われるそうで、これほど広がってくると単なるオマケの域を超え、企業側・顧客側双方にとって、ポイントをどう使いこなすかが生き残りをかけた重要事項――つまりはポイントが経済動向を左右する大きな要素となってきたということらしい。

具体的には、企業はポイントで多くの顧客を引き付けることに成功すれば将来にわたってモノを買い続けてくれる人を「囲い込み」できるし、顧客はそのポイント競争にうまく乗っかることで、割安に買い物ができて節約につながる。

なのでネットでは、「どのポイント経済圏に入るのが一番得か」、すなわち楽天がいいのかPayPayがいいのか……みたいな比較情報が盛んに出回っている。

……ってことを、最近になって知ったわけです。

どんだけ世間に疎いんだと思われること確実だが、本当のことなんだから仕方がない。なぜこんなことになっているかといえば、私、世間に蔓延するありとあらゆるポイントとほぼ無縁に生きているからである。

「カードを作ればお得なポイントがつきます」と言われてもいつも速攻で断っているし、この度のコロナ禍でついに、最後までうじうじ縁を切れなかったマイレージカードも卒業した。

だってコロナと戦争でしばらくは海外にウキウキとは行けそうにもないし、いつこの状況が変わるのかとんと見通せないとなれば、不確実な将来のためにせっせとマイルを貯めていた自分が何か根本的にズレているように思えてきたのだ。

そうだよ後先考えず今この時を単純に生きるほうがわかりやすくないか? そう思ったら、なんかめちゃくちゃスッキリしたのである。

……などと書くと、ってことはよほどお金に余裕があるんですネと言いたくなる方が少なくないかもしれない。

私が「ポイ活」をしない理由

確かに多くの人がポイントをせっせと貯めているのは(「ポイ活」というそうな)、なかなか収入が増えず、しかも長い老後にも自己責任で備えなきゃいけないという切羽詰まった状況の中で、少しでもお金を節約せねばという切実な動機からであろう。お気持ちはもちろんよくわかる。

そう私もある時期、ポイント獲得に真剣に取り組もうとしたのだ。それは会社を辞めた時のこと。いきなりの無給生活に加え、会社員として享受してきた各種補助だの年金だの健康保険だのさまざまな特典も一気に失い、心細さ全開でお金を少しでも節約しなければと危機感いっぱいであった。なので当然、ポイントの有効利用も視野に入れていた。

でも結果的に、その道には入り込まなかったのである。

理由は2つ。

1つは、こういうポイントにつきものな「アプリを導入」というものにまったくついていけなかったのです。致命的な機械音痴ゆえ、詳細省くが、幾つか導入を試み実際に使おうとしてあれこれ格闘した挙句あえなく挫折ということが数回続き、その莫大な時間と労力の浪費、さらにそこまでして得られたのは圧倒的敗北感のみという悲しすぎる現実にホトホト疲れはてた。

で、ええいこんなもん二度とやるか!……と、まあ昭和の頑固親父が新しい技術についていけず逆ギレみたいな状態になったわけです。

でもそれだけじゃない。もう1つはもうちょっとまともな理由である。私は当時メジャーになりつつあった「ポイント経済圏」ってものに、どうにも見過ごせない違和感を抱いたのだ。

例えば、このポイントカードを作れば、大手チェーンのカフェとかコンビニとかスーパーとか家電量販店とかいろんなお店の買い物でどんどんポイントが貯まる! みたいな宣伝があるじゃないですか。そうポイント経済圏へのお誘いである。

無論、最初は「それは確かにどんどんポイントが貯まるよ!」「なんて朗報♡」と、自分がよく行く店で使えるのはどのカードだろうかと真面目に比較検討したわけです。でもフト、いやいやいやちょっと待てと。

「大きなモノ」からの脱却

よく見れば、それらのお店を経営しているのは誰もが知ってる大企業ばかり。ま、確かに全国展開している大企業だからこそ、カードを作る客の側から見れば「使い勝手がいい」ってことになるんだろうが、私、つい先日大企業を自分なりに最大限の勇気を出して辞めたところなのである。

これからは大きなものにぶら下がって生きるのはやめて、その不安と引き換えに、身一つで良きことも悪きことも引き受けて自由に生きようと、ちっぽけな一個人なりに健気に決意したところなのである。

それが何かい? その精一杯の決意の舌の根も乾かぬうちに、そこまでして手を切った「大きなもの」にさっそく自ら巻き込まれに行くって、どう考えてもおかしいだろう。私は大手コンビニチェーンではなく、私と同様に名もなき近所の小さな酒屋や米屋や豆腐屋とともに生きていくのだ。そこにこそきっと突破口があるはずと一生懸命信じて会社を辞めたのだ。

なのにいきなり、その大きなものが支配する序列に組み込まれてどーする。そうだよこういうポイント連合って、よく考えたら結局「小さなもの潰し」なんじゃないの? ただでさえ有利な大企業が、徒党を組んで割安にものを売る。そんなことにみんなが乗っかっちゃったら豆腐屋とかどう考えても潰れますよ。豆腐屋が潰れるのなら私も潰れる。そんなところにノコノコ加担してどうするよ?……と思ったわけです。

ってことで、そうと気付いた瞬間から、例の逆ギレ体験も相まって、私はポイントと名のつくものすべてときっぱりと決別することにしたのだ。新たなポイントカードを作るのをやめたのはもちろん、すでに財布にゴテゴテと詰め込んでいた、あの店この店で使えるポイントの貯まるカード類の一切合切もごっそり捨てた。そして今に至る。

で、どうだったのか。

私は損をしているのだろうか。お得なポイントがもらえないおかげで、出費の多い生活を送らざるをえなくなっているのだろうか?

はっきり言おう。

そんなことはまったくない。それどころか、今も「ああポイントと縁を切ってよかった!」と心から思わぬ日はない。だって私は一切の「損」などしていないし、むしろ縁切りのおかげで「お得」になることばかりの日々を過ごしている。

いったいどういうことなのか?

順を追って説明しよう。まずはこれだ。

お得ポイントその1 行動の自由が手に入る

 ポイントと縁を切って最初に実感したのは、何よりもカニよりも「いやーなんて自由なんだ!」ということである。いやほんと、これは体験してみればわかる。っていうか、体験する前はこんなことになろうとは想像もつかなかった。

だってポイントをやめたら「お得」と縁が切れるわけで、いくら突っ張っていても心の奥底は不安でいっぱいってことになりそうじゃないですか。

ところがポイントをやめたその日から、不安どころか心にさやさやと自由の風が吹き抜けて頭痛も肩こりも治りそうな勢いである。大げさでもなんでもなく、こんな爽やかな人生ってものがあったのかと、マジで思いましたよ。

いやね、何がそんなに自由かって、どこで何を買っても買わなくても自由。ただそれだけのことなんです。

それだけなのに、これほどまでに爽快。ってことはすなわち、それまでいかに無意識のうちにポイントという鎖で頭も心もガチガチに固められてたかってことなんですよね。

ま、これは私が特にケチだったからかもしれんが、それまではなんだかんだと、どうせ買うならポイントのつくあの店で買おうとか、どこで買ったらより有利なポイントがつくかとか、何を買うのにもポイントのことが頭をよぎらぬ日はなかった。

そのせいで、同じものを買うのにもわざわざポイントが貯まる店へ買いに行ったり、あるいはポイントのことを忘れて不用意に買ってしまって、後から「しまった、損したよ!」と延々考えて暗い1日を過ごしたり……。つまりは案外ポイントに身も心も支配されていたのだ。

いや、よく考えたらそれだけじゃない。マイルを貯めたいがあまりに、旅行先もマイルを貯めている航空会社が就航しているところをチョイスしたりもしていたのである。ってことは、よく考えたらポイントに人生を制限されていたのだ。自由なはずの人生がポイントで不自由に……ここまでくるとポイントの奴隷である。

時間とエネルギーの大いなる節約に

で、ポイントやめたらその一切合切が、一切必要なし!

たったそれだけのことかと思われるかもしれないが、まさにたったそれだけのことが本当に素晴らしかった。何かを買いたければ、好きな店で好きなタイミングで好きなものをシンプルに買うだけ。以上! 

その前後に迷う時間も後悔する時間も一切なし。それは時間とエネルギーの大幅な節約でもあった。若いうちならともかく、この歳になれば時間とエネルギーほど貴重なものはない。つまりは私はポイントと縁を切ったというただそれだけで、非常に大きなものを手にしたのである。

さらにこれに付随するものとして、当然のことながら「どのポイント経済圏に入るのがお得か」みたいな情報とも一切無縁となった。これもまことに大きな時間とエネルギーの節約である。何しろ企業というのはなかなかのもので、こういうのっていくら詳細に比較検討したところで、結局はどっちもどっちなんですよね。

となると、どう決断したところで「やっぱりあっちのほうがお得だったのでは……」と延々悩むことになりがちで、さらには先方がポイントの中身をいきなり変更したりもしてくるので、結局、生涯にわたって少なからぬ時間を、どうにも判断のつきかねる比較検討とモヤモヤとした後悔に占拠されることになる。

で、そんな迷える人々を横目に見つつ「私、関係ないもんね!」と心から言い切れる自由といったら! ああこの罠と縁を切って本当に助かったと思わぬ日はないのである。

ポイ活は本当にお金を節約することにつながるのか

と、ここまで熱く語っても、「いやいやそうは言っても……」と納得できない方がいることは百も承知です。

そうですよね。ポイントと縁を切って時間とエネルギーが節約できても、それじゃあ肝心の「お金」が節約できないじゃん、意味ないじゃん――そう思われる方が圧倒的に多いのではないでしょうか。

確かに多くの人が少なからぬ時間とエネルギーを使ってでもポイントを取りに行くのは、お金の節約のためである。

ある意味、ポイントを稼ぐのは「労働」と同じなのかもしれないですね。時間とエネルギーを提供して、お金の代わりにポイントを稼ぐ。何事につけ努力する者は報われるというのが人生の法則で、それを思えば多少の犠牲を覚悟するのは当然のことでは?

そう、そこなんです。

努力してポイントを貯めることが、ちゃんとお金を節約することにつながるのなら、確かにそれはそれで一つの合理的な生き方であろう。

でも本当にそうなのだろうか。ポイントを貯めることが、本当にお金を節約することにつながるのだろうか? 

(つづく)

(稲垣 えみ子 : フリーランサー)