ジョニー・デップが元妻で女優のアンバー・ハードを名誉毀損で訴え、賠償金5000万ドル(約64億6000万円)を求めている裁判で、現地時間17日にハードの反対尋問が行われ、デップの弁護士との一騎打ちが見られた。

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デップの弁護を務めるカミーユ・ヴァスケス弁護士は序盤から主導権を握り、結婚生活で身体的暴力をふるったのはハードのほうだとアピールしようと数々の音声を再生した。その中でハードはデップの年齢とキャリアを馬鹿にし、彼を「お払い箱」と呼んだ。別の音声では、私の息子ジャックから男らしさを教えてもらったらどう、あんたにはできないでしょうから、と言っていた。

また別の音声では「とんだ笑い者ね」と言い、笑いながら小ばかにしたように「私もあんたみたいになれたらさぞ良かったでしょうね」と付け加えた。

映画『アクアマン』に出演できたのはデップのおかげだとヴァスケス弁護士がほのめかすと、ハードは明らかに気を悪くして「いいえ、私自身がオーディションで役を手にしたのです」と述べた。

ヴァスケス弁護士は、口論の途中でデップに出ていくなとハードが「執拗に」要求する携帯メッセージと音声を法廷で提示した。これに対してハードは、夫――メッセージの中では「怪物」と呼んでいる――が出ていくのを止めようとしたのは、ドラッグをやりにいくのではないかと恐れたからだと答えた。

「ジョニーが次の段階に移る時はたいていこうでした――クスリをやると決まっていたのです。それで私たちの生活はさらに悪化しました」と彼女は言った。「彼がクスリに走るのを止めようとしました……悪循環を止めるためなら何でもしました。私にとってはそのぐらい重要だったんです」

だがヴァスケス弁護士は反撃し、ハードがデップを「怪物」と呼んだのは麻薬の使用が理由ではなく、彼が距離を置きたがったからだと述べた。「距離を置きたい……イライラしてきた……俺も君もそれぞれ距離を置こう」と、音声の中でデップは言っている。「数時間もすればお互い話ができるだろう」

音声の中でハードは涙ながらにこう答えている。「今出て行ったら、私にものすごいストレスを負わせることになる……お願いだからやめてちょうだい」

ハードはデップを数回殴ったことも認めたが、いずれの暴力行為も正当防衛だったと主張した。「身体を張って自分の身を守らなくてはならないことが何度もありました。手あたり次第平手打ちをしたのもそのひとつです」と彼女は言った。「それで逃げられるなら当然です、顔を腫れあがらせるか鼻を折るかの差だとしても……可能な時は自分の身を守ろうとしました。ただ、それ以前は何年も自分を守れませんでした」

例えば、法廷で再生された音声には浴室のドアがデップの頭に当たったとして2人が口論しているが、ハードはその中でデップに「わざと」当てたと語っている。これについてハードは、デップからドアを爪先にぶつけられて痛かったので、直感的に反応したのだと述べた。

その後ヴァスケス弁護士は、ハードの元交際相手タシア・ヴァン・リーと過去の家庭内暴力容疑を話題にした(ハードは2009年、ヴァン・リーを殴ったとしてシアトル空港で逮捕されている。ただし起訴はのちに取り下げられた)。

「私はデップ氏にも、むかし交際した誰に対しても、暴行したことは一度もありません」と彼女は答えた。

ハードがデップに書いた「手紙」の内容

この日の証言の大半は、ハードとデップ側の弁護士の激しいバトルがメインだった。女優が質問にことごとく反論しようとするのを、弁護士はしばしば遮った。2人とも午後中ずっと平静を保っていたが、引き下がるつもりがないのは明らかだった。

途中でヴァスケス弁護士は、交際が始まったばかりの2012年にハードがデップに贈ったナイフを法廷に提示した。ハードは以前、この時期から暴行が始まっていたと主張していた。ヴァスケス弁護士は、暴行されていたとみられる時期にデップに武器をプレゼントした理由を尋ねた。

「あげた時、彼がそれで刺してくるという心配はありませんでした」とハードは答えた。「それは確かです」

だがヴァスケス弁護士による反対尋問の序盤は、オーストラリアで数日にわたって行われたとされる暴行に集中した。ハードのこれまでの主張では、喧嘩が最高潮に達した時デップはキッチンカウンターに彼女を押し付け、酒瓶をヴァギナに挿入した。ハードの証言の信ぴょう性と喧嘩の記憶力を切り崩そうとしたヴァスケス弁護士は、彼女がデップの指先を切り落とした後も暴行が続いた、という女優の主張に異を唱えた。

ハードはすべて実際の出来事だったと一貫して主張したが、喧嘩の具体的な時間軸は覚えていないことを認めた。

「これらが起きた順番を正確に覚えていると主張したことは一度もありません」と女優。「恐怖の3日間にわたって、連日行われた暴行でした」

ヴァスケス弁護士は、この時の喧嘩で負ったとハードが主張する「重傷」にも反論した。割れたガラスで前腕と脚に負った切り傷と、あご全体にわたるあざだ。

「あの当時、あごに傷を負ったりあざができたりするのはそこまで深刻ではありませんでした」とハードは言い、傷の写真を撮らなかったこと、治療を受けようともしなかったことを認めた。代わりに彼女は、けがやもっと重要な証拠には目もくれず、現場の特定のアイテム(叩き壊されたと彼女が主張する携帯電話や、血まみれだったという枕など)を撮影した――デップ側の弁護士はこれを「都合のいい」行為と呼び、他の暴行容疑が話題の時にも指摘し続けた。

元夫婦の会話を収めた音声が再生されると、オーストラリアの喧嘩で俺が浴室に籠った後も君は付きまとい続けたじゃないか、というデップの声が流れた。その後弁護士はこう尋ねた。「彼をまったく恐れていなかったようですね?」

「ジョニーとは複雑な関係なんです。恐れていると同時に、心から愛してもいます」とハードは言った。「私を殺そうとした男です。恐ろしいのは当然でしょう」

するとヴァスケス弁護士は、交際中に2人がやり取りした交換日記の中に書かれたハードからデップ宛ての一連の手紙に焦点を移した。これはオーストラリアの喧嘩から2カ月後、妹がデップに階段から突き落とされそうになったとハードが主張する時期の直後に書かれた「ラブレター」で、ハードはこう書いている。「これまで私はあなたの中に友情と敬意が染みついているのを見てきた。だけどやっぱり、多分これまで以上に、あなたの身体を切り裂いてむさぼりつき、じっくり味わいたい気分だわ」

この手紙を書いたのは、デップが素面になった後の「新婚モード」の時期だったとハードは証言した。また自らの言動を謝罪する別の手紙に関しても弁明した。手紙のひとつには「私はおかしくなることがある。ごめんなさい。あなたを傷つけた……私のほうこそ本当にごめんなさい。こんなことを言ってもあなたを傷つけた言い訳にはならない。だって、あなたを傷つけるのに十分な理由なんてひとつもないというのが真実だもの」

「私はいつも(状況を)改善しようとしていました。どんな人間関係でも、喧嘩を水に流すには謝罪が重要だと思っています」とハードは手紙について説明した。「あらゆる手を試みました……でも関係を変えることはできませんでした」

米ワシントンポスト紙に意見記事を出した理由

デップの弁護士は、俳優のジェームズ・フランコが彼女のペントハウスを訪問するエレベーターの映像も提出した。法廷で陪審員に提示された監視カメラの映像には、2018年5月22日の午後11時直前にエレベーターに乗り込む2人の姿が映っていた。フランコを招いた時、デップが街を離れることを知っていたのかと尋ねられると、ハードはデップのスケジュールは知らなかったと否定した。

「ジェームズは友だちで、近所に住んでいました。正直あの時は、いつもの友達のサポートネットワークを使い果たして、友達ならいくらでも大歓迎という状態でした」とハートはのちに説明した。

ヴァスケス弁護士は今回の裁判の争点となっている2018年に掲載されたワシントンポスト紙の寄稿記事(名指しこそしないものの加害者がジョニーであると示唆したために仕事や評判を失ったとし、ジョニーが彼女を相手取り名誉棄損で訴えを起こした)に話題を移し、デップについて書いた記事だとハードに認めさせようとした。代わりにハードは、記事ではデップに特化したわけではなく――権力を持つ男性や性的暴行、当時もち切りだった#MeToo運動に関連する問題を書いたのだと述べた。

「彼のことではありません」と彼女は言った。「ジョニーのことではありません。(関係が終わった)後日、私の身に起きたことを書いたものです。当時私が書きたかったのもこういうことです」

さらに彼女はこう続けた。「あの当時、著名人や名前を知られている多くの男性が同じように非難されていたという背景をふまえてあの記事を書きました。ジョニーだけでなく、もっと全般的な現象を総体的に指していたのです」

ヴァスケス弁護士は、ハードの反論の根拠となっているデップの元弁護士アダム・ウォルドマン氏による3つの発言に話題を移し、これらの発言とキャリアに対する悪影響を関連付けることはできないと述べた。ハードはこれに異を唱え、LOrealとの契約打ち切りやドラマ『ザ・スタンド』宣伝活動の中止、『アクアマン』続編の役柄変更など、進行中だった複数のプロジェクトから降ろされたと述べた。

「記事がインターネットで注目されたせいで、誰からも起用されなくなりました」と彼女は言った。「(私に対する)中傷運動がが一斉に起きています。まるで白い目で見るように」

仕事を失ったのはウォルドマン氏の発言のせいかという質問には、「オファーされなかった仕事や、ゲットできなかった仕事を特定するのはちょっと難しいですね」と答えた。最新作『アクアマン2』で役を確保するために「戦った」ものの、「完成した作品で実際に」自分の出番がどのぐらいあるかはわからない、と言った。

この日はほとんどハードの反対尋問に費やされたが、その後ハードの弁護団が再尋問を終えた――もっとも、デップの弁護士はことごとく質問に異議を唱えた。ハードの弁護を務めるエレイン・ブレデホフト弁護士は最初の質問で、デップが裁判の間ずっと目を合わせない理由は何だと思うか、と尋ねた。

「有罪だからです」と彼女は答えた。「自分が嘘つきだとわかっているからです。なぜ彼は私の目を見ないのか? 私があの男の手から逃げ延びて、今ここにいるからです。私は彼と目を合わせられます」

デップはハードの証言中、笑みを漏らした。

最終陳述は5月27日の予定。評決が言い渡されるのは戦没将兵記念日の週末後になるとみられる。

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