先ごろ羽田へ飛来したA220は、別メーカーからエアバスのラインアップに加わったことで売上を伸ばしました。こうした“移籍”後に売れた航空機は少なくありません。要因は何だったのでしょうか。

絶好調「エアバスA220」は“移籍組”

 2022年5月8日、エアバスの旅客機「A220-300」が、アジア太平洋地域の主要都市を訪問するデモフライトツアーの一環として、羽田空港に飛来しました。世界で売れる同機ですが、実はもともと、「エアバス」ではありません。

 今回飛来したA220-300と標準仕様のA220-100からなるA220ファミリーは、カナダのボンバルディア・エアロスペースが開発し、紆余曲折を経てエアバスのラインナップに加わった異色の存在です。


エアバスA220-300(乗りものニュース編集部撮影)。

 ボンバルディア・エアロスペース時代には「Cシリーズ」と呼ばれていたA220は、単通路機でありながらワイドボディ機並みの快適性を備えるほか、従来の同クラスの旅客機に比べて騒音が小さく、また離着陸時の滑走距離も短いことが特徴。騒音規制の厳しい都市部の空港や、滑走路が短い地方空港でも運航できるといった長所を持つ旅客機です。

 Cシリーズのコンセプトは、開発が正式発表された2008年当時から高く評価されていましたが、その後11か年で受注数は402機と、やや伸び悩んでいました。エアバスが事業に参画して名称がA220に改められたのは2018年のことです。

 しかしA220となってからの受注は好調で、2022年までの4年間で300機以上の新規受注を獲得しています。

 A220の好調な受注獲得の最大の要因が、ボンバルディア・エアロスペースに比べて強力なエアバスのセールス力とサポート体制であることは確かですが、エアバスがアラバマ州のモービルにも工場を設置し、アメリカの関税を回避したことで、デルタ航空をはじめとするアメリカのエアラインから受注を得やすくなったことも、好調な受注獲得の要因の一つとなっています。

海軍ルートから空軍への切符をつかんだ移籍組

 アメリカ海軍などで運用されているF/A-18「ホーネット」戦闘機も、A220と同様、メーカーの移籍によって開花した航空機です。

 F/A-18はマクドネル・ダグラス(現・ボーイング)によって開発された戦闘機ですが、その原型であるYF-17は、ノースロップによって開発されています。アメリカ空軍の軽量戦闘機計画に提案するためでした。

 YF-17は軽量戦闘機計画のコンペで、ジェネラル・ダイナミクス(航空部門は現在ロッキード・マーチン)の提案したF-16に敗れたものの、F-4ファントムII戦闘機の後継を探していたアメリカ海軍によって、F/A-18として採用されることになりました。


オーストラリア空軍のF/A-18A(2020年に全機退役)。F/A-18は空軍用戦闘機としてもセールスで成功をおさめている(画像:アメリカ空軍)。

 ただノースロップは第二次世界大戦後、アメリカ海軍の空母艦載機を開発した実績がありませんでした。これが懸念されたことから、YF-17の艦上戦闘機化は、F-4などを手がけたマクドネル・ダグラス(後にボーイングへ吸収合併)の手に委ねられます。

 F/A-18はその後、空軍機としても多くの国に採用されるに至りました。この空軍機としての成功には、F-4ファントムII、F-15「イーグル」という高性能かつ頑丈な戦闘機を世に送り出した、マクドネル・ダグラスのブランド力も少なからず寄与したものと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

三菱離れて開花した移籍組

 日本人としてはやや複雑な気持ちになりますが、三菱重工業と同社のアメリカ法人三菱アメリカ・インダストリーが1970年代に開発したビジネスジェット「MU-300」も、メーカー移籍によって開花した航空機の一つです。

 MU-300は同クラスのビジネスジェットに比べて燃費性能が良好で、巡航速度も速く、キャビン容積も大きい優れたビジネスジェットでした。しかし型式証明の取得に難航し、顧客への引き渡しが遅れたことからキャンセルが続出しました。この点は、後に三菱重工業の子会社である三菱航空機が開発したスペースジェットと共通しています。

 さらにアメリカが不況に見舞われ、ビジネスジェット需要が低迷したこともあって、三菱重工業はMU-300の事業継続を断念。1988年に、現在はテキストロン・グループの一員となっているビーチエアクラフトへMU-300の事業を完全に売却しました。

 ビーチエアクラフトが買収したことで、名称をビーチジェット400A(1994年にホーカー400に再改称)へと改めたMU-300は、1990年にアメリカ空軍の練習機T-1A「ジェイホーク」として採用されたほか、アメリカの景気回復に伴い民間機型も順調に受注を獲得。2009年の生産終了までにMU-300時代(92機)の10倍近い859機が製造され、航空自衛隊にもT-400練習機として13機を導入しています。


アメリカ空軍のT-1A「ジェイホーク」練習機。ビーチジェット400Aがベースで、空自T-400とほぼ同型(画像:アメリカ空軍)。

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 プロスポーツの世界では、最初に入団したチームではパッとしなかったものの、移籍によって開花した選手が少なからず存在します。今回紹介した3つの航空機も、元々の能力が高く、それを引き出してくれるチーム(メーカー)への移籍で開花したという点が共通しているでしょう。