朝鮮人民軍の兵士(デイリーNK)

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北朝鮮は、先月25日の朝鮮人民革命軍の創建90周年に合わせて、首都・平壌で軍事パレードを行った。その裏で、前代未聞の事件が起こり、全軍に緊張と動揺が起きている。平壌のデイリーNK軍内部情報筋が伝えた。

軍事パレードの当日の明け方、軍事境界線沿いに駐屯している朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の第1軍団の指揮部直属の警備中隊の衛兵長室で、衛兵長として勤務していた第2小隊のチェ小隊長が、政治指導員と歩哨長を拳銃で射殺する事件が発生した。20代後半の彼は、同じ階級である政治指導員が、部下の兵士の前で自らを平気でバカにして、勤務中に呼び出して、性的に辱める行為を行ってきたとのことだ。

チェ小隊長はずっと耐えてきたものの、事件当日に政治指導員から同様の行為をされて、カッとなって射殺。銃声を聞きつけてやってきた歩哨長も射殺してしまった。

朝鮮人民軍では、男性の上官が女性の部下に、朝鮮労働党への入党、大学への進学で便宜を図るなどを甘言で誘いだし、性暴力を働く事例が後を絶たないが、同性間とて、状況は変わらないようだ。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

4月は、人民革命軍創建日に加え、「民族最大の名節」とされる太陽節(15日、金日成主席の生誕記念日)のある「聖なる月」。そんな時期に、よりによって最前線の部隊で起きた今回の事件は、軍団に派遣されていた軍政治局の人員を通じて、最高司令部に報告され、最高司令官である金正恩総書記から「心配のお言葉」が下される事態となった。

最高司令部はまた、今回の事件を重大事件と定義し、一切の事件・事故が許されない名節の期間中に犯罪を犯した者たちや、責任者の指揮官を容赦なく処罰し、軍紀を確立せよと強調した。

これを受けて、軍の総政治局、保衛局は、第1軍団の警備中隊の人員に対する特別個別談話(面談)を行い、幹部事業(将校の異動)と隊列整理(兵士の異動)に入った。警備中隊が行っていた指揮部の警備は、今後1ヶ月間、別の区分隊が行うこととなった。

軍は、原因と背景までを含めた事件の具体的な内容を徹底的に秘密にした上で、全軍の各軍団、司令部級直属区分隊を対象に、合同検閲(監査)に入るなどの対応を行っている。

具体的には、総参謀部作戦局の一般行政処が、命令指示執行記録綴と規律問題を、国防省兵器局が、昨年12月から今に至るまでの武器、戦闘技術機材の管理台帳と弾薬使用についての検閲を行っている。

事件のことは伏せておいた上で、冬季訓練が終了し、兵営の建設事業、副業(食糧調達など)、外部での作業が増える5月のうちに、乱れきった軍紀を粛正するとの名目で、検閲に入ったと情報筋は説明した。

さて、事件のことだが、徹底して秘密にするはずが、5月としては異例の検閲が行われた理由を勘繰られ、軍の隅々まで知れ渡ってしまったようだ。軍官(将校)や兵士たちの間では「誰にも言えないことをされて、どれほど憤ったら、あんなことをしでかしたのだろうか」、「男性同士でも、上官が部下にセクハラした事件がどれだけ起きているかを調査すると、ひどい結果となるだろう」などと噂されているとのことだ。

なお、性暴力被害者であり、殺人事件の加害者でもあるチェ小隊長に対する処分について、情報筋は言及していない。