県産米を使った泡盛を熟成しているタンク。「新たな可能性が詰まっている」と大城社長は言う(いずれも沖縄県豊見城市で)

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 本土復帰50年、次の50年も泡盛を造り続けていきたい──。沖縄県では、県産米を使って泡盛を製造・熟成する官民連携のプロジェクトが進む。2019年産の県産米で20年に仕込んだ3年熟成の古酒が、早ければ来春にも商品化する。参画する忠孝酒造(豊見城市)の大城勤社長は「泡盛は沖縄の誇り。原料から蒸留までオール沖縄産を飲んでほしい」と話す。(岩下響)

 若者の泡盛離れに加えて新型コロナウイルス禍で、泡盛の販売環境は苦境が続く。県酒造組合によると、泡盛の出荷量は17年連続で前年割れ。県内44カ所ある酒造のうち、31カ所が赤字経営という。

 泡盛の原料は、米と黒こうじだ。市場に出回る泡盛の9割超が、タイ産の米を使う。同組合によると、タイ産の米は硬質で黒こうじ菌が菌糸を伸ばしやすく、泡盛の製造に適している。

 県産米を使うことで600年近い歴史がある泡盛のブランド価値向上と輸出拡大、そして苦境からの脱却へ──。19年に内閣府、県、県酒造組合、JAおきなわなどが連携して「琉球泡盛テロワールプロジェクト」を始めた。

 これまでもタイ産から国産へと原料米の切り替えに挑戦した酒造はあったが、安定確保が課題だった。沖縄の米生産量は、47都道府県のうち、東京に次いで2番目に少ない。

 同社も07年、県産米を原料とした泡盛の製造に挑戦。風味豊かな県産米が生み出す酒質に手応えを感じた直後、契約農家が米生産をやめて製造できなくなった。大城社長は「米農家がいないと、農地も地域の文化も守れなくなると痛感した」と振り返る。地域内で経済を回して生産者に還元するため参画を決めた。

 プロジェクトによってJAなどが栽培技術を支援したことで、県産米の安定確保が実現した。内閣府沖縄総合事務局によると、伊平屋島と伊是名島の農家20戸が30ヘクタールで長粒種の「YTH183」「北陸193号」を栽培する。収量は増えていて、21年度は2期作で100トンを生産した。うち10トンをJAを通じ同社が買い取り、9000リットルの泡盛を造る。

 泡盛は、3年以上熟成させた古酒が基本。年数を重ねるほど価値が高まるという。県産米の価格はタイ産と比べて2倍近く高いが、プロジェクトでは、熟成を付加価値として海外で高価格帯で売ることも視野に入れる。

 大城社長は今年、県産米を使った泡盛を、沖縄復帰半世紀の節目となる15日に仕込み、新たな勝負をかける。

<ことば> テロワール

 農産物が栽培された土地や気候、土壌の個性、地形の特徴などを意味する。ワイン業界では、味と品質の重要な要素の一つ。地域の農産物を使うことで商品の付加価値になる。フランス語で「大地」を意味する「テール」が語源とされる。