辛酸なめ子の覗き見♡ OL妄想劇場

『steady.』で連載中の「辛酸なめ子の覗き見♡ OL妄想劇場」。ある日、なめ子さんが訪れた天然石の展示イベント。そこで目撃したさまざまな人間模様とは……？

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大人女子のホームパーティでのスピトーク

女性同士の気の置けない集まりでは、健康とスピリチュアルの話題になることが多いです。先日少人数ホームパーティに行ったら、植物と話せる、という美女がいました。菜園をやっていたときに、ニラで餃子でも作ろうと思って引き抜いたら、ニラが「おひたしにして」と言ってきたそうです。植物はだいたい話しかけると答えてくれるそうですが、観葉植物は外国人っぽくて何を言っているかよくわからないというエピソードに信憑性がありました。

その彼女が私がつけていた石のネックレスに目をとめて「その石、お疲れ気味ですね。水に中性洗剤を混ぜて、しばらくつけた方がよいですよ。エクトプラズムみたいに邪気が出てくると思います」とアドバイスしてくれました。石の調子がわかるのはスピリチュアル上級者です。

彼女は過去世で陰陽師をやっていて、京都に行くと、辻ごとに自分がかつて封印した怨霊が潜んでいるとのことで、パワーストーンのアクセサリーがはじけ飛ぶことも多々あるとか。今は天変地異をおさめるため、時々各地の聖地に行って、土地の神様を鎮める儀式を行っているそうです。人知れず平和を維持してくれているありがたい存在です。「私の地球転生はしばらくないから」と、今世で人間は卒業だとほのめかされました。スピ上級者の要素をすべて満たしているような存在の方でした。アドバイス通り石を洗剤入りの水につけました。影響されやすいので、少し輝きが強まったように見えました。パワーストーンといえば、3度目離婚、しかも妻を寝取られたといういしだ壱成がインスタでブレスレットなどを販売していますが、ちゃんと浄化した方がよいような気がします。

石が集まる天然石展示イベントでディープな会話が……

昨今は石に救いを求めたい人が多いのでしょうか。コロナ禍でも、天然石や鉱物や宝石の展示即売会は脈々と開催されています。先日も都内のミネラルショーを見てきました。色とりどりの石が並ぶブースに引き寄せられたら「あなたの光の本質を活性化します」「覚醒の芽生えの波動」「高次の自分自身とコネクト」といったミラクルな効能が書かれていました。そのブース前で立ち話していた石業界人男子が、「スピリチュアル系の有名人に、石に名前を付けてもらってバーンといったら、撤収するのが一番儲かる。でもそれはやりたくない」と言うのが聞こえてきて、どこの業界にもエグい商売人がいるようです。検温の画面が録画されていないかやたら気にしてスタッフを問い詰めている怪しい男性も出入りしていました。光があるところには闇が存在しているのでしょうか。

そんななか、ひときわディープな空気を醸し出しているブースが。キャンドル・ジュン似の男性が店主の売り場には、パワーストーンだけでなく化石や動物の骨などを使ったアクセサリーが並んでいます。そこで店主と話し込んでいるひとりの女性客が。以前も彼からパワーストーンのアクセサリーを買ったようで、「レムリアン水晶を持っていたらお通じがよくなりました」と喜びの報告をしていました。なんと石に、便秘解消の効果があるとは……。今まで「天国の光を細胞にもたらす」とか「禅のエナジーを放つ」とかふわっとした石の効能ばかりチェックしていましたが、実用的な健康効果があるというのが興味深いです。「レムリアン水晶」は古代レムリア大陸の波動を持つと言われる水晶。たしかに古代レムリア人は便秘とは無縁な、健康的で意識の高い生活を送っていそうです。彼女はまた2万円位のアイテムを買っていました。

よいお客さんを前に店主もうれしくなったのか、「これ、さっき下に生えてたんだけど」と謎のキノコを見せていました。人生経験値が高そうなおじさんですが、さらに彼は、ある種のサボテンを煮詰めて飲むと幻覚が見える、などの脱法トークを展開。

「飲んでみたいです」と、女性客。こんなところに禁断の扉があったとは。店主は、サボテンなのか別の葉っぱなのかわかりませんが、植物片が入ったパケを女性に渡していました。健康が満たされると、さらなる高みや宇宙との一体感を目指したくなってしまうのでしょうか。便秘薬呼ばわりされたパワーストーンは、そんな彼女をただ静観しているようでした。


PROFILE／辛酸なめ子（しんさん・なめこ）

辛酸なめ子（しんさん・なめこ）

漫画家、コラムニスト。皇室、セレブリティ、スピリチュアルなどの分野に精通。著書は『女子校育ち』（筑摩書房）、『セレブマニア』（ぶんか社）、『辛酸なめ子のつぶやきデトックス』（宝島社）など。『辛酸なめ子の現代社会学』（幻冬舎文庫）は、日本のカルチャー要素をキーワードに、漫画タッチで構成されています。ツイッターのシュールボイスもお見逃しなく。

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