プロに教わる“実家の片づけ”のコツ「はじめは玄関」「思い出の品は後回し」

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いつかはやらなくちゃと思いつつ、毎回失敗を繰り返したり、先送りにしている人が多い「実家の片づけ」。うまくいかない原因は、“考え方”と“進め方”の両方にあるのだというーー。

「『久しぶりに実家に帰ってみたら、物が増えすぎていて、その散らかり具合に驚きました』という相談が最近とても多いです」

そう語るのは、フリーアナウンサーで整理収納アドバイザーの阿部静子さん。これまで6,000人以上に片づけの指南をしてきた阿部さんのもとには、コロナ禍以降、“実家の片づけ”に関する悩みが寄せられることが多くなったという。

「在宅時間が増えたことで、家の片づけを見直した人はたくさんいます。自宅が片づくと、次に実家に気持ちが向く人が多いようです」(阿部さん・以下同)

読者世代にとって、“実家の片づけ”は、いつかは向き合わなくてはならない問題。大型連休での帰省をきっかけに、少しでも早く着手しなくちゃ! と感じた人もいるだろう。しかし、焦りは禁物だ。

「いざ子どもが親のためにと片づけようとしても、なかなか進まなかったり、結局対立を生むだけだったりと、失敗するケースは少なくありません。物を捨てるかどうかの判断に時間がかかる親にイライラしたり、娘が父の趣味の本を処分しようとして、『勝手に片づけるな!』と、怒られたという話も聞きます」

阿部さんいわく、シニア世代と、その子どもの世代とでは、片づけ方も心構えもまるで異なるものなのだという。

「物の少ない時代を過ごした経験のある親世代は“捨てる”ことへの抵抗が強く、家に物があふれているという状況を招いてしまうのでしょう」

そんな“親の気持ち”に寄り添うことなく、子どもの世代が「とにかく物を捨ててほしい」という思いを押し付けてしまうことが、失敗につながるようだ。

実家の片づけをスムーズに進めるためにはどのような点に気をつければよいのか。ポイントを阿部さんに解説してもらった。まずは心構えを確認しよう。

「はじめに、片づけの“目的”を共有します。散らかった部屋で転倒するリスクを心配する気持ちや、自分の家が片づいたときに感じた心地よさを伝えましょう。そして『物が減ってスッキリした部屋で何をしたい?』と、“片づいた後のイメージ”を問いかけてみましょう。ゆっくりお茶を飲みながら読書をしたい、ヨガマットを敷きたい……など、親の気持ちを尊重し、そこで快適な時間を過ごす姿を思い浮かべてもらうのです」

同時に、はじめは「思い出の物は捨てなくてもいい」と、きちんと伝えてあげることも欠かせない。

「そう伝えることで、安心して片づけを始められるようになります。どうしても親の思い出の品=不要な物、に映ることが多いのですが、それ以外にも処分すべき物は山ほどあるので(笑)。物がどんどん減って、片づけのスイッチが入ると、最終的に思い出の物にも着手できます。“捨てる”という言葉に抵抗がある人も多いため、私はできるだけ“手放す”と表現するようにしています」

■小さいスペースで成功体験を積み重ねる

気持ちの準備が整ったら、実際の片づけの手順を見ていこう。シニア世代の片づけは、どのスペースからやるかの順番がとても重要だという。

はじめは入口である玄関から。次にクローゼット→キッチン→リビング→洗面室と進めて、多くの人が最初に手をつけがちな押入れは“最後のとりで”に位置づける。 「小さいスペースで、処分しやすいものが多い玄関は、『スッキリして気持ちがいい♪』という成功体験を得やすく、それが片づけるモチベーションになってくれます」

■まずは玄関を片付けよう!

【STEP1・玄関】

・“3年履いていない靴”を最初に手放す
・たたきに置く靴は“家族の分+1(サンダルなど)”に
・“おしゃれなゴミ箱”を置いて、不要なチラシを入れる

玄関のたたきに靴がたくさんあると、それを避けようとよろけて転倒する原因にも。最初に“家の顔”である玄関をスッキリさせよう。傷んだ靴は処分の判断がしやすく、片づけのウオームアップにもってこい。残すことにした履き物は、使う人別・頻度別に分けて収納。サクサク進めて片づけの自信をつけて。

【STEP2・クローゼット】

・洋服の“賞味期限”は「3年」「5年」「10年」
・「やせたら着よう」という洋服は潔く手放す
・要クリーニングの服は5着までに絞る

「着る」「着ない」の判断の中間にある服が毎回減らないという人が多数。「この服も5年も着ていないよね? 大事な服を選んで残そう」と親に服の賞味期限を決めてもらう提案をしよう。自宅で洗える服が増えた今、クリーニングに出す必要がある服も絞り込みを。迷ったら、親に着てもらって判断をゆだねて。

【STEP3・キッチン】

・賞味期限切れの物を迷わず手放す
・60代からの調味料は「小サイズ」にシフト
・調理道具を残す基準は、値段ではなく使用頻度

まず賞味期限切れの食品・調味料を処分。スプーンやお皿などの食器類は「家族の人数+一度に来るお客様の数」に限定しよう。浅い引出しなど小さなスペースから始めるとスムーズに進む。三角コーナー、キッチンマットなど、洗うのが面倒だと思いつつも「あって当然」で置いているものや使っていない調理道具を手放してみるのも○。

【STEP4・リビング】

・テーブル、ソファ、床、棚の4ゾーンに分けて作業する
・「ソファには物を置かない」を家族の原則に
・本棚やラックは“1段ずつ”片づける

4つのゾーンに分けて作業を。テーブル上の不要な紙類は捨てて、頻繁に使うもの以外は片づけて。テーブルの近くにマガジンラックを置いたり、リビングに家族の私物を入れる「家族ごとボックス」を1人に1つ作って、ソファの上や床に雑誌や私物を置かないルールを。紙袋や菓子箱は定位置を決め、そこに入るだけの量をキープするように。

【STEP5・洗面室】

・試供品やアメニティ、いまいちな化粧品はすぐ手放す
・化粧品は「いつも」「たまに」「ストック」で分類
・タオルは消耗品と考え、くたびれたものは処分

洗面台の上と、引出し、棚から手をつけよう。いつもらったかわからない試供品やアメニティは処分。洗面台の上には極力物を置かないように。化粧品は使う頻度別に収納していき、とりあえずとってある物も処分を検討して。タオルは長く使ってゴワゴワした物を手放し、フワフワの物を使って気分もスッキリ。

【STEP6・押入れ】

・客用布団は思い切って“貸布団”に
・趣味アイテムは「今後やる?」と親に問いかけを
・「何かに使えるかも」の空き箱・空き缶は迷わず処分

押入れは家族の思い出が詰まった最難関。実家にありがちな客用布団は、使用頻度がほぼゼロなら手放して、貸布団のレンタルに切り替えれば、一気にスッキリ。健康器具や親の昔の趣味の物も「いつ使う?」と確認を。ただし、思い入れのある物を極端に手放すのはハードルが高いので、多少時間がかかってもよい気持ちで臨んで。

どのエリアでも、片づけの流れは〈1〉物を全部出す、〈2〉要・不要を決める、〈3〉「種類別」「使う人別」「頻度別」などに分けて収納する、の3段階。そのことを踏まえて、親と子の役割分担をしよう。

「娘の役割は、〈1〉の物を出してあげること。〈2〉の選別は、親に決めてもらいましょう。『もうこれいらないよね?』はタブー。親世代は選別に時間がかかるものと心得て。思い出話にも『懐かしいね』と相づちを打ちます。片づけが進んだら、『よく決断できたね』と、親に声をかけてあげることも忘れずに」

〈3〉の収納は、親子で一緒に取り組む。リモコンや筆記具などの定位置を、親にとって使い勝手がよくなるように考えよう。

「一気にやろうとすると、長続きしないものです。1日5分ずつとか、シューズボックスの1段だけ、などのように、少しずつでもOKというスタンスが片づけを成功させるコツですよ。片づいたことで生活が快適になった、という気持ちを積み重ねてください」

心地よい気候の5月は、片づけに取り組むには絶好のタイミングだという。親の気持ちに寄り添った片づけで、心も空間も風通しをよくしよう。