『トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル』平山 夢明,「トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル」プロジェクト 光文社

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 アメリカで実際に起きた凶悪犯罪事件を取り上げ、犯罪者の生い立ちや心理、当時の社会情勢などを深く掘り下げていく、音声サービスAuDeeの犯罪ドキュメンタリー・トーク番組『トゥルークライム‐アメリカ殺人鬼ファイル』。俳優の大谷亮平さんと声優の谷山紀章さんがナレーションを担当する同番組は、2020年8月にスタートし、現在シーズン3まで配信されています。

 そして、同番組を初めて書籍化したのが、書籍『トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル』です。同書では、2019年にザック・エフロン主演で映画にもなった殺人鬼テッド・バンディや、ジェフリー・ダーマーといった歴史に名を残すシリアルキラーの事件から、日本ではあまり知られていない最新事件まで全10件が取り上げられています。

 本書の監修を務めているのは、番組で解説をおこなっている作家の平山夢明さん。これまでホラー小説も多く手がけてきた平山さんは、同書で数々の犯罪者を紹介するにあたり、長年心に溜まっていた「なぜ、これほどまでに陰惨で容赦のない記録に強く心惹かれるのか?」という疑問に改めて直面することになったといいます。

 現実のものとは思えないようなモンスター級の犯罪者が登場する同書を読んでいると、彼らの人格形成には生育環境が大きく関係していることがわかります。たとえば、IQ145の連続殺人鬼エドモンド・ケンパーの母親は、情緒不安定で感情の制御ができず、ケンパーは幼い頃から心休まることのない鬱屈した日常を送っていました。33人もの犠牲者を出したキラー・クラウンことジョン・ウェイン・ゲイシーも、幼いころ病弱だったことで父親から軟弱だと罵詈雑言を浴び、肉体的な暴力を受けていたそうです。

「親に刷り込まれた理想像からかけ離れている自分に嫌気がさし、その感情が間違った方向へ育まれることで怪物が生まれる。逆に言えば、家庭環境や親の教えに対して何ひとつ満たされないものがない人間が、シリアルキラーに仕上がったケースなど、まず聞かない」(同書より)

 しかし同じように劣悪な環境で育った人物でも、ヘレン・ケラーの家庭教師を務めたアン・サリバンのような偉人もいます。極端な例ではありますが、両者の間にはいったいどのような違いがあるのでしょうか。その境目について、「酷い目に遭った自分を、いつまでも"犠牲者"として認識しているかどうか」だと平山さんは言います。いつまでも現実から目をそらし自身の不幸をアピールするだけでは、ポジティブな成長を遂げることは難しい――。同書の凶悪犯罪者たちから、私たちはそうしたことも学べるのかもしれません。

 「『トゥルークライム』というジャンルを伝えていく意味も、まさにそこにあるのではないだろうか」と、平山さんもこの分野への興味が尽きない理由について述べています。

 恐ろしいと感じながらも、その深層をのぞいてみたくなる凶悪犯罪者たちの心理。同書では、耳で聴く『トゥルークライム』とはまた異なる感情を味わえることでしょう。大谷さんや谷山さんへのインタビュー、平山さんによる各事件の解説や特別対談とともに、みなさんも彼らの心の闇に迫ってみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]