「サーティワン」コロナ禍で売上を伸長できたワケ
コロナのテイクアウト需要にいち早く対応し、大きく売り上げを伸ばしたサーティワンアイスクリーム。写真奥は4月15日に発売された「ハッピーフレンズ」(参考価格420円)。手前は期間限定の「アマーロ アフォガート」(4月1日発売)と「キャラメル抹茶オレ」(4月28日発売)参考価格各390円(撮影:尾形文繁)
最近のスイーツ市場の傾向として見られるのが、特別感や、いつもより少し贅沢といった、「ハレ感」だ。それらはスイーツに元から備わっている特性だが、コロナにより自宅で過ごす時間が多くなり、豊かな時間を演出する側面が強調されるようになった。またスイーツの写真をSNSにアップすれば、会えない仲間とも経験を共有できる。そのため、スイーツの外見もより重要視されるようになったと言えるだろう。
そんな風潮を捉えて今、躍進しているのが、アイスクリームのトップチェーン、B-R サーティワン アイスクリーム(以下サーティワン)だ。
待たずに早く買えることがコンセプト
象徴的なのが、3月1日に三鷹駅にオープンした新店舗「サーティワン アイスクリーム To Goアトレヴィ三鷹店」だ。待たずに早く買えることにポイントを置いたテイクアウト専門店で、16種類のフレーバーの中から、「バラエティボックス」を中心にシングルカップやポーションカップを販売する。
テイクアウトに特化した「サーティワン アイスクリーム To Goアトレヴィ三鷹店」。オープン後1カ月の売り上げは全国トップを記録したという(写真:サーティワン)
バラエティボックスとは2021年4月に発売された、異なるフレーバーのアイスクリームカップを組み合わせて購入できる箱入りタイプの商品。それまであったバラエティパックとの大きな違いが、カップ入りのアイスの詰め合わせとしたことだ。ばらして冷凍庫に入れられるのでかさばらず、皿に入れずそのまま食べられる使い勝手のよさがある。4個入りから12個入りまで4サイズが展開されており、8個入りは4個入りより1個分、12個入りは2個分お得など、数が多くなるごとにお得になるのもポイントだ。
自宅でアイスを楽しむ経験を付加価値として商品化した直径14センチのデコケーキ(写真は「31デコケーキ カラフル☆ポップ」参考価格4000円)。4月20日に発売され、やはりコロナ禍での売り上げ推進要素となった(写真:サーティワン)
実はこのバラエティボックスをはじめ、自分でデコレーションできるアイスクリームケーキやハンドパックなどのテイクアウト商品により、同社はコロナ禍を乗り切っただけでなく、大きく売り上げを伸ばした。
代表取締役会長兼社長のジョン・キム氏によると、2020年はコロナ禍当初の休業や時短の影響により一時的に低下したものの、2021年には193億8800万円と、コロナ前の2019年の業績を上回っただけでなく、2013年以来の最高益を達成することができたという。
なぜこのように状況にスピーディに反応し、新たな戦略を展開できたのかについて、キム氏は次のように説明する。
「実は私が会長に就任して3週間後、緊急事態宣言が発出されたのです。そのため、就任したばかりなのに最後の年になるのかと思ってしまいました(笑)。しかし日本の野球の『ピンチをチャンスに変える』というマインドに基づいて、コロナ禍の10年後を見据えた長期的な戦略を立て、推進しました」(キム氏)
次のターゲットは「スイーツ専門店」
キム氏は2019年10月に同社専務執行役員に、2020年3月に会長兼CEOに就任している。キム氏の言う10年間の長期経営計画とは2031年に向けてのロングレンジプランを指し、「ブランドパワー強化」「デジタル化」「スマート31」「販売拠点拡大」の4つを柱に、2031年に税引き前利益31億円達成を目標としている。
B-R サーティワン アイスクリーム代表取締役会長兼社長CEOのジョン・キム氏。会長に就任3週間後に緊急事態宣言発出という難局を勝機とし、舵取りを行ってきた。本社のデジタル化など、業務効率化にも積極的だ(撮影:尾形文繁)
注目されるのが、アイスクリーム専門店の市場をほぼ独占した同社が、スイーツ専門店の市場を次のターゲットに定めている点だ。
アイスクリームとスイーツに需要などにおいて共通点があることや、スイーツ専門店の市場がスイーツとアイスクリームの小売りを合わせた全体市場の約3割にあたる、2662億円(自社調べ)の規模を持つことに着目した。
長期計画においてとくに重視したのが、消費者の「デマンド=欲求」に基づいたマーケティングだという。コロナ前ならば店頭でさまざまなフレーバーの中から商品を選び、イートインで楽しむことにサーティワンの商品価値が置かれていた。しかしコロナを経験し、家庭での幸せを気軽に味わいたいというニーズを発見し、素早く対応したことが売り上げの伸長につながったという。
つまり最初の疑問に戻ると、もともと長期計画に含まれていた、デマンド戦略が功を奏し、コロナに際してもスムーズに対応できたのだ。
なおキム氏によると、2019年以前の同社売り上げは横ばい状態だったところ、10年計画を立案し、コロナに直面してピンチをチャンスに変えたことが、飛躍の転換点となったという。
テイクアウト店が全国売り上げ1位を記録
前述のテイクアウト店については、1日の平均客数260人と好調。シングルカップ4個入りのバラエティボックスが売れ筋で、客単価は想定より若干低いものの、午前中は年配の女性、昼頃は若い主婦層、夕方はターゲットのビジネスパーソン、夜はさまざまな客層と、狙い通り広い客層に訴求できているそうだ。
好きなフレーバーを選べるバラエティボックスはスモール4個1120円、レギュラー4個1560円(写真:サーティワン)
「店舗のサイズは通常の7割程度ですが、3月1日にオープンして1カ月で全国売り上げ1位を記録しています。実は三鷹の店舗は、賃料の高さや売り上げ低迷が理由で34年前に撤退していました。今回、テイクアウト需要に対応し、駅の改札外と、人通りのある場所に視認性の高い店舗を出すことができたことが勝因と考えています。『戻ってきてくれてうれしい』と言ってくださるお客様もおり、当社にとっても喜ばしいことです」(キム氏)
テイクアウト専門店は2022年中に5〜10店、直営店として出店し、さまざまな特性の地域でテスト的に展開。成功モデルをFC店舗に展開していく予定だ。
またテイクアウト専門店のほかにも、同社ではそれぞれコンセプトの異なる2タイプを軸に店舗リニューアルを進めていくという。Flavor 1stと名付けられたタイプはサーティワンの特徴である、種類の豊富さを伝える店舗。アイスクリームをスクープしている様子が見られるよう、鏡やカメラを設置し、視覚的な効果を高めるとともに、新しさを感じさせる店舗としている。一方、アメリカ発祥のスタイルMOMENTSはファミリー層を意識して日常のちょっとしたぜいたくをコンセプトとし、上質で現代的なデザインを採用。プレミアム商品や店舗体験を楽しむ店舗にしている。
いずれのタイプも、改装前に比べ売り上げが2倍近くになった店舗も複数あるそうで、キム氏も「素晴らしい結果」と評価している。2022年中に239店舗を改装予定だ。
なお、売り上げの伸長要因となったバラエティボックスだが、開発を担当するマーケティング本部長の若林翌(あきら)氏によると、ある意味挑戦的な商品だったそうだ。
「バラエティパックは40年以上前から存在し、それなりのシェアをとっていた商品です。ですから、リニューアルするには勇気が必要でした。しかし、お客様のデマンド、どういうときに商品を買いたいかを突き詰めて検討し、このような形になりました」(若林氏)
商品については、サーティワンの最大の特徴である種類の豊富さを訴求していく。サーティワンファンの人なら、「1カ月毎日違う種類を食べても最後の1日なお選べるように、店舗では32種類扱っている」というエピソードをご存じだろう。同社によると、実際には「ショーケースに並べられる数は偶数のため」という現実的な理由からだそう。ただ、ファンの間で伝説が流布するほど、種類の多さが魅力の一つになっていることは間違いない。
こうした「選べる楽しみ」を提供するために、同社では毎月新作を発表しており、これまでに日米合わせ1300以上のフレーバーを発売してきた。
「世の中のトレンドを意識しながら新作を開発しています。実はフレーバーに関しては、年に1回、国際的なサミットを開催し、グローバルに意見交換をしているんですよ。また、多くの種類を扱う中で、尖った商品、変わった商品も展開していくのがサーティワンらしさと考えています」(若林氏)
例としては2021年4月に発売した「小倉トースト」や、お酒の雰囲気が楽しめる「ダイキュリーアイス」などが挙げられるそうだ。また今年4月に発売された「アマーロ アフォガート」も、コーヒーの苦みが利いた大人味のアイスだ。
執行役員 マーケティング本部長の若林翌氏。テイクアウト商品への注力や他社とのコラボレーション企画など、意欲的な施策を進めてきた(撮影:尾形文繁)
そのほか、2021年7月には同社として初めて他社とのコラボレーションを行い、「亀田の柿の種」「ハッピーターン」とのコラボ商品を期間限定発売。柿の種については専用の機器を用いてふりかけにし、アイスにトッピングするというユニークな試みを取り入れた。コラボの意図について若林氏は次のように説明する。
「アメリカ発祥のチェーンと日本の米菓メーカーのコラボとして話題性を狙いました。一つには、フレーバーのマッチングを伝えたかった。また、ふりかけを作りトッピングしたり、ベストな組み合わせを考えるなど、サーティワン アイスクリームのことを考えていただける時間が増えることを期待しました」(若林氏)
コストは年間4億円を超える
他社とのコラボレーションは、裾野を広げるためにも今後も積極的に検討していきたいという。
最後に、商品の魅力の一つを成す価格について、キム氏は次のように考えているという。
「コストが年間4億円をはるかに超えるほど上昇しています。しかし商品の価値とは価格とのバランスで成り立っているもの。仮に価格が上がれば、価値が下がりお客様が減少してしまいます。ですから、コストを価格に転換させないよう経営努力によって吸収していきたいと考えています」(キム氏)
本社オフィスはフリーアドレス、ペーパーレスへと刷新。カウンターも打ち合わせしやすいと社員から人気だそうだ(撮影:尾形文繁)
具体的には、本部のデジタル化や工場の効率的な運営などが挙げられる。本社についてはキム氏のもと、フリーアドレス、デジタル化、会議のオンライン化など大幅な刷新が行われたそうだ。オンライン化については、意思決定の迅速化のほか、現場のメンバーを含む会議が可能になったことで、若手のアイデアが運営に活用されるなど、業務の効率化やリフレッシュにもつながっているようだ。
全国に1250店舗を展開し、身近なイメージのあるサーティワンアイスクリーム。その親しみやすさはそのままに、大きな変身を遂げていきそうだ。
(圓岡 志麻 : フリーライター)