神奈川県川崎市にある県立大師高校に「ドクターK」こと、澤田寛太(右投右打/186センチ、83キロ)がいる。最速147キロを誇り、打者としても可能性を秘めるプロ注目の選手だ。

 ひと冬越えてどこまで成長しているのか楽しみにしていた人も多かったが、春季大会は3回戦敗退。右ヒジの張りの影響もあって、本来のピッチングとはほど遠い内容だった。それでも公立校では頭ひとつ抜けた存在であり、依然プロスカウトからも高い注目を集めている。


最速147キロを誇る大師高校の澤田寛太

驚異の奪三振率で一躍注目

 澤田の名が一躍知られるようになったのは昨年秋。ブロック大会で敗れ、県大会には出場できなかったが、その後の練習試合で圧巻のピッチングを披露していった。

 昨年10月から11月のおもな練習試合でのピッチングは以下になる。

川崎総合戦/9回18奪三振/143キロをマーク
川崎北戦/2回6者連続三振
港北戦/7回14奪三振/147キロをマーク
横浜清陵戦/9回1安打19奪三振

 相手は強豪校ではないものの、県内ではそこそこの力を持ったチームである。練習試合といえども、これだけの結果を出すというのは簡単なことではない。小山内一平監督も澤田のピッチングに驚きを隠さない。

「なにか持っていますよね。入学してきた時からスケール感があり、可能性を秘めた選手でした。私も転任時期が近づいていたのですが、校長に澤田が卒業するまでは監督を続けさせてくださいと懇願しました。球速も、年明けに140キロ出ればいいなと思っていたのですが、予定より早く到達した。もともと手先が器用で、変化球はよかったのですが、コントロールが課題でした。それも徐々に改善されてきました。秋の県大会後の練習試合ではほとんど打たれていません」

 覚醒した理由は何だったのか? 小山内監督に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「特別なことはさせていません。押しつけて練習させるのが私自身好きではないので、冬はウエイト、有酸素系のトレーニングと走り込みの要点だけを伝え、あとは自由にやらせました。強いて覚醒した理由として挙げるなら、昨年夏の大会後に肩甲骨と脇腹を痛め、同時にコロナ禍で授業がリモートになり、グラウンドも使えなくなりました。1カ月近くノースロー状態になったことが、結果的によかったのだと思っています。体も休めましたし、野球についてじっくり考える時間が持てたことも大きかったと思います」

 さらに小山内監督は、澤田の内面も高く評価する。

「性格的に有頂天にならないし、澤田自身、自分のことをすごい投手だとは思っていない。謙虚で、常に前向きで、うまくなろうとする貪欲さが見てとれます。それに人の話をよく聞く。そうしたところは、今後の成長において大きな武器になってくると思います」

スカウトは投打で注目

 澤田が野球を始めたのは小学2年の時。横浜市立鶴見中時代は軟式野球部に所属し、捕手として活躍した。高校進学時に横浜高校など強豪私立の練習見学に行ったが、4人兄妹ということもあり、親に負担はかけたくないと県立の大師高校を選んだ。

 投手を本格的に始めたのは、高校に入ってから。本人の強い希望だったが、入学当初は打撃を高く評価されていたため、マウンドに上がったのは2年春から。力強いストレートを中心にフォーク、シンカー、カーブ、スライダーと多彩。とくに横滑りするスライダーは絶品で、全国レベルと評判だ。

 昨年秋の奪三振数の報道に、年末から今春にかけてすでに9球団のスカウトが複数回グラウンドを訪れているという。

 そのうちのひとり、日本ハムの坂本晃一スカウトは澤田について、次のように語る。

「春季大会は、彼本来のピッチングとはほど遠かった。昨年秋は、即ドラフトされてもおなしくないぐらいの出来だったが、その頃に比べると今は4割ぐらい。原因はコンディショニングでしょう。野球人生には、天王山となる試合がいくつかあります。そこに向けての調整はとても大事なことです。澤田くんは細かいこともできるし、技術的な完成度も高いので、今後どこまで戻してくるか楽しみです」

 ソフトバンクの松本輝スカウトにも印象を聞いてみた。

「昨年の秋に、面白い子がいるとの情報が入ってきました。まだ仕上がっていませんが、ポテンシャルだけでやっているにしてはすごいなと、目を奪われました。器用にいろんな変化球を投げられるし、たまに力を入れて投げるボールが魅力です。それに打撃もいい。打球も速いし、飛距離も出る。とにかく体が大きいし、パワーがあるのは魅力。まだまだ未完成な部分は多いですが、持っているエンジンが大きく、今後の成長が楽しみでなりません」

 松本スカウトが言うように、バッティングでも高い評価を受ける澤田。練習では5球に1球は左翼ネットを超えて、約120メートル先にある校舎の屋上まで飛ばす。窓ガラスも何度か割っているため、練習では金属バットの使用を禁止され、木製を使っている。

 あと数カ月もすれば最後の夏が始まる。澤田が意気込みを語る。

「春は投手として任されていたのに、力を発揮できなかった。そこが一番悔しい。夏までには、どんな投手にも負けない強い球を自分の武器にしたい。野球は今後も続けていきたいです。プロ、社会人、大学と、どこに行くとしても野球で有名になりたい。目標はソフトバンクの千賀滉大投手です」

 夏を前に、スカウトたちの"澤田詣で"があとを絶たない。