ヘルメットをかぶりルールを守って使えば便利な乗り物のはず(写真と本文は関係ありません)

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電動キックボードについてのニュースが目立つようになっている。規制緩和の法案が2022年4月19日の衆議院で成立したことが大きい。これまでも一部で迷惑走行が指摘されていた電動キックボードが、規制緩和でさらに野放し状態になるのではないかと懸念する声が少なくない。

「飲酒運転」目立つ

「無免許で電動キックボード摘発 "改正道路交通法"きょう成立へ」――FNNプライムオンラインは2022年4月19日、無免許で電動キックボードを運転した疑いで、神奈川県横浜市磯子区に住む32歳の男が書類送検されことを報じた。無免許運転による摘発は同県内で初めてだという。

テレビ朝日「グッド!モーニング」は21日、電動キックボードの飲酒運転が横行している東京・渋谷の実態をリポートした。暖かくなって街では路上飲みをする人が急増。電動キックボードを利用し、「飲酒運転」する人が目立つようになっているという。

繁華街にある電動キックボードのレンタルスペースを見てみると、複数のアルコールの空き缶が転がっている。番組は、飲酒が疑われる状態で、電動キックボードを利用しようとした男性を直撃した。

終電を逃した後に、帰宅するための手段として、電動キックボードを利用しているという。

飲酒運転の男性:「(Q.飲酒運転では?)自転車と変わらないじゃないですか。ぶっちゃけ、終電後の足としてあるけど、そこまで悪いことではないんじゃないかなと思っていて」「タクシーだと3000円、4000円くらいかかるので。全然安いですね」

現在は様々な規制

警察庁のウェブサイトによると、電動キックボードとは、キックボード(車輪付きの板)に取り付けられた電動式のモーター(定格出力0.60キロワット以下)で走行する乗り物。道路交通法と道路運送車両法上の原動機付自転車に該当する。

したがって、電動キックボードの運転には現在、以下のような規制がある。

・原動機付自転車免許が必要。車道通行、ヘルメットの着用義務等がある(無免許運転の罰則:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
・制動装置、前照灯、後写鏡等を備えていること(整備不良車両運転の罰則:3月以下の懲役又は5万円以下の罰金)
・自賠責保険(共済)の契約をしていること(無保険運行の罰則:1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
・区市町村税条例で定める標識(ナンバープレート)を取り付けていること

同庁はさらに「販売する方へ」と題し、電動キックボードを販売する際には、「上記の点について丁寧にユーザーに対して説明してください。『運転免許がなくても公道で乗れる』などの虚偽の宣伝や説明をすると、刑事責任を問われる場合があります」と警告している。

気楽に乗れるようになる

このように規制があっても、上述のFNNやテレビ朝日の報道のように、無免許運転や飲酒運転が後を絶たない。ところが、19日に国会で成立した改正道路交通法では、扱いが様変わりし、今後は規制が大幅に緩和されることになった。

「くるまのニュース」によると、改正法では、最高速度が20km/h以下など一定の基準に該当する電動キックボードは、「特定小型原動機付自転車」という新しい車両区分とされ、16歳未満の運転を禁じる一方、16歳以上であれば免許不要で運転できる。ヘルメットの着用は任意になった。走る場所は原則として車道だが、最高速度6km/h以下の走行モードであれば自転車通行可能な歩道なども通行できるという。

免許やヘルメット、ナンバープレート、自賠責保険の加入などの規制が緩和され、「自転車のようにさらに気軽に乗れるものになる」のだという。24年5月までに施行される見込みだ。

交通被害者を増やしかねない

こうした急激な規制緩和については、もともと疑問を指摘する声が多数あった。

NEWSポストセブンはすでに3月22日、「電動キックボード、無免許ノーヘルで公道走行可は見直すべきではないか」という記事を公開。「バイクだってすり抜けされるとヒヤッとするけど、あれ(電動キックボード)は本当に見えないんだよ。とくに夜はびっくりする」というトラック運転手の声などを紹介。

筆者の日本ペンクラブ会員、日野百草氏は、「時速20kmの無免ノーヘル保険なし、そんな電動キックボードが街中に増え続ければ仕事で走る多くの職業ドライバーはもちろん、多くの道交法を守り、モラルも守る運転者、歩行者までもが迷惑を被る可能性は限りなく高い。むしろ、電動キックボードが公道で市民権を得るためにも、受け入れられるためにも現状の改正案は見直すべきである。このままではさらに多くの不幸な交通被害者を増やすだけだ」と主張していた。

改正案が成立後の4月22日には、ITmedia NEWSが、「電動キックボード開発者が"免許不要"のリスクを指摘 『後で大きなしっぺ返しが来る』」という記事を公開。開発者の中にも規制緩和が「危うい試み」だという声があることを紹介している。