USLPGAツアー「DIOインプラントオープン」で畑岡奈紗が通算6勝目を飾った。初日が2位タイで、2日目が首位タイ。3日目を終了した段階では2位に4打差をつけ、単独トップに立っていた。初日から快調にプレーしていたわけだ。ところが途中まで、ネットのニュースでは渋野日向子ネタが大半を占めていた。初日から30位タイ、59位タイ、57位タイ、63位タイと低空飛行を続けたにもかかわらず、である。畑岡が優勝を遂げた段になって、報道量はようやく正常に戻った。

 こうしたアンバランスな現象が起きたのは、今回が初めてではない。渋野は人気者だ。ネットでその話題は、成績に関係なく溢れることになる。多くの人がその動向に関心を抱いているので、ネットのページビューはおのずと上がる。渋野より成績の良い日本人選手がいても、その状態が維持されがちだ。ページビュー至上主義に支配されるネットでは、従来の概念というか、スポーツ報道の原則は、確実に蝕まれている。

 笹生優花と畑岡奈紗がプレーオフを争った昨年の全米女子オープン。昨年は大谷翔平の活躍があったので、その分だけ霞んだ感はあるが、この戦いも国民栄誉賞ものと言いたくなる日本のスポーツ史に刻まれる名場面だった。しかし、その報じられ方はどうだっただろうか。これも、予選落ちすることになった渋野を深追いし過ぎたという印象だ。

 紙の新聞はレイアウトという工程が入る。ニュースの価値、重大性に基づき見出しの大小が決まり、それに応じて掲載される記事の分量が決まる。メジャー大会で日本人選手2人が優勝争いしている最中に、渋野をトップに持ってくるわけにはいかないのだ。読者と発行する側は、そうした意味で信頼関係が成立していた。

 これに対しネットの記事は横並びだ。ビューが伸びている記事ほど目に付きやすい。受け手の関心に委ねられているので、ビューを伸ばそうとすれば、読み手に媚びる方が手っ取り早い。ニュースの価値や重大性は二の次のなりがちだ。スポーツで言うならば人気優先。ネームバリュー優先になる。ゴルフよりサッカーの方が危ういと見る。ゴルフは個人競技なので成績が分かりやすい。選手個々の優劣がハッキリ出るのに対し、サッカー選手は不透明だ。明確な物差しは得点ランキングぐらいに限られる。

 所属しているリーグも様々だ。Jリーグ、欧州各国リーグと様々な舞台に散っているので、誰が優れているのか判然としない。混沌とした状態にある。プレーしているクラブ、リーグのレベルが微妙に違うので、日本代表のメンバーについて語る際など、特に困る。

 たとえば、リバプールで国内リーグ、チャンピオンズリーグにほぼ出場していない南野拓実と、どう向き合えばいいのか。ルックスに優れた人気選手だ。ビューは上がりそうである。しかしだからといって、リーグカップに出場したことを大きく取り上げるのはどうかと思う。

 各国リーグの順列を示すUEFAクラブランキング。欧州カップ戦の戦績に基づいてランキング化されるUEFAチームランキング。チャンピオンズリーガーか否か。どれほど出場に試合しているか等々、優劣を可能な限り客観的に判断しようとするが、それを尽くしても正しい結論を見いだすことはできない。そこが面白い点でもあるが、そのあたりにこだわりなく、ページビュー優先で報じても、読み手に媚びる姿勢はバレにくい。

 さすがに最近、名前を見る機会は減ったが、本田圭佑、香川真司は一時、露出過多になっていた。プレーのレベルと報道の量に大きな差がある状態だった。訴求力が高い人気選手ながら、峠を越えた選手の報道が世の中を席巻すれば、逆に報じられるべき選手の報道量は減る。渋野と畑岡、笹生の関係になってしまう。