福島レッドホープス監督で野球解説者の岩村明憲氏【写真:本人提供】

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岩村氏は1年目の2007年にデビューから9戦連続安打&12戦連続出塁

 カブスの鈴木誠也外野手は21日(日本時間22日)のパイレーツ戦で、内野ゴロと3つの三振で精彩を欠き、4月7日(同8日)の開幕戦から続けていた日本選手最長の連続試合出塁記録「12」を塗り替えることはできなかった。

 今季初の「2番・指名打者」で出場し、3三振を喫した鈴木。連続試合出塁の記録はならなかったが、かつての好打者が、温かい眼差しを向けている。07年にヤクルトからデビルレイズ(現レイズ)に移籍し、その年に記録を刻んだ岩村明憲氏だ。プロ野球独立リーグの福島レッドホープスを指揮し、NHKの大リーグ中継の解説も務めることから、鈴木が出場するほぼ全試合をチェック。「これからも生き生きとした姿を見せて欲しい」とエールを送る。その岩村氏曰く、「鈴木君と当時の自分の歩みとが重なります」。

「春のキャンプでなかなか結果が出なくてね。打率が2割いくかどうかでしたから。マドン監督(現エンゼルス監督)やコーチをやきもきさせてしまってね。なので、よし、これでもういつ開幕が来てもいいぞ! とは正直、思えなかったですね」

 鈴木は、長引いた労使交渉の影響でキャンプの合流が遅れ、オープン戦は7試合の出場にとどまった。成績は、打率.235、2本塁打、5打点。終盤戦で長打力を発揮したが、「打てようが打てなかろうがいい」と、日本で築き上げた打撃フォームをしっかりと固めることに専念。岩村氏が貫いたのもそこだった。

「相手ピッチャーを研究するのも大事ですけど、まずは自分でした。自分の中で日々の失敗を突き詰めながら対応していく。それを繰り返す中で開幕を迎えたんです。聖地ヤンキー・スタジアムで強者ぞろいのピンストライプ軍団が相手。緊張もしましたが、第3打席で松井秀喜さんが守るレフトへ打ち返したんですよ。あの試合で1本出せたことが本当に大きかった。あれですごく気持ちが楽になりました」

「イメージしていても打席に立つと違うことはたくさんあります」

 鈴木も開幕戦でヒットを放ち、18日(同19日)のレイズ戦まで9試合連続安打を記録して岩村氏と並んでいる。「キャンプを教科書として晴れ舞台ですぐに1本が出て気持ちが楽になり、そこからリズムを作り出せたのはないでしょうか」と岩村氏。

 鈴木の優れた選球眼にも重ね合わせる部分があると言う。

「ここ数年でカブスはリゾやブライアントといった主力を放出してチーム再建中です。僕が入った頃のレイズは低予算で、同地区のヤンキースやレッドソックス、ブルージェイズとは格が違いました。なので、野手は勝利のためになんとか塁に出ようと考えていました。勝つためにはフォアボールが生きてくるし、それが必要だと僕も思っていました。今の鈴木君のフォアボールの多さはチーム事情ともつながっているのではないかなと僕は思います」

 揺らぐことのない打撃の形と出塁へのこだわり。そして共通点がもう一つある。鈴木が「本能」と呼ぶ、打席での皮膚感覚を大切にしたことだった。岩村氏は、手元で動くボールと外角に広いストライクゾーンに意識を置き過ぎていたことに気づいた――。

 ある日のオープン戦で自信を持って見逃した外角のツーシームを審判が大きな声で「ボール!」とコールしたことで、「過剰な意識から解放された」と振り返る岩村氏は「いくらイメージしていてもそこは未知の世界。打席に立つと違うことはたくさんあります」と語気を強めた。鈴木はどうか。好例がある。12日(同13日)のパイレーツ戦だった。映像からは順回転に見えていた左腕キンタナの直球が、打席ではナチュラルにカットし「差し込まれた」と明かす。鈴木は、凡打に倒れた1打席目のスイングイメージを変え、次打席で癖のあるその球をきっちり芯で捉え、右中間へと運ぶ2号ソロを見舞った。

 15年の時を経て「9試合連続安打と12試合連続出塁」を記録した鈴木と、過去の自分とが符節を合わせる3つの点を解いた岩村氏は、最後にこう結んだ。

「久しぶりに右バッターが躍動する姿が見られるのは嬉しいですよ。これからもっともっと信頼されるようになってくると、自分の居場所というのができてきます。球場に行くのが本当に楽しくなってくるでしょう。それにしても今の鈴木君の顔はとてもいいですよ」

 岩村明憲氏の声が弾んだ。 (木崎英夫 / Hideo Kizaki)