日本人は所得で4グループに分けられる。あなたはどこに入る?(写真:タカス/PIXTA)

世帯所得が年1000万円を超える世帯は、全体の12%強ある。他方、全体の半分の世帯の年収が427万円以下だ。

50歳代だけをとると、世帯年収1000万円超が2割程度。他方、同年齢層の約半分が年収500万円以下だ。

昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第67回。

自分の年収の位置、平均値ではつかみにくい

賃金・給与や所得に関する統計データの多くは、平均値で示されている。


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しかし、自分の給与が日本全体の中でどのような位置にあるかを知るために、平均値は必ずしも適切な指標ではない。

この点を修正して見るために中央値が公表されているときもある。全体の半分が中央値以上であり、半分がそれ以下だ。だから、平均値よりもイメージがつかみやすい。

しかし、すべての統計で中央値が示されているわけではない。また、中央値がわかっても、なおかつ自分の正確な位置はわからない。

本来であれば、分布データと比べるのがいい。

賃金や所得に関する分布データは、いくつか公表されている。

「民間給与実態統計調査」(国税庁)によれば、給与総額(給料、手当、賞与)平均値は、532万円。年間1000万円以上は、7.1%だ(男性の場合)。

厚生労働省「国民生活基礎調査」で世帯所得の分布が示されている。2019年の調査では、1世帯当たり平均所得金額は、547.5万円だ。中央値は427万円。つまり、世帯の半分は、年間所得が427万円以下だ。

1000万円以上の世帯の比率が12.4%になる。

この調査は、自営業者なども含む。

所得とは、雇用者所得、事業所得などのほか、年金、財産所得、仕送りなどを含む広い概念だ。

ただし、これらのデータでも十分とは言えない。

日本の給与体系は年功序列的性格が強く、年齢があがるほど所得が増える場合が多いからだ。そこで、年齢別の所得分布データがほしい。

このようなデータは、これまであまりなかったのだが、内閣府「日本経済2021-22」(ミニ経済白書、2022年2月)でその分析が行われている。

これは、総務省「全国家計構造調査」「全国消費実態調査」および「全国単身世帯収支実態調査」の個票により分析したものだ。ここでは再分配前所得の分布が分析されている。

25〜34歳層でも年所得1000万円以上の世帯は3%

25〜34歳における再分配前の世帯所得の状況(第3−3−3図)を見ると、2019年で、中央値が475万円。また、1000万円以上が3%程度いる。


(出所)内閣府「日本経済2021-22」(ミニ経済白書、2022年2月)

(外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

「夫婦と子どもからなる世帯」では、中央値が550万円であり、1000万円以上が3%程度になっている。

以上の状況は、国民生活基礎調査の数字に比べると、かなり高めだ。

世帯主の勤務先所得だけでは、この年齢層で、これだけの所得を得るのは、難しいだろう。

これは、「世帯所得」なので、共働きの影響ではないかと考えられる。

事実、この年齢層での単身世帯を見ると、中央値が360万円であり、1000万円以上の世帯は、ほとんどゼロになる。

多くの人にとって所得が最大になる50歳代を見よう。これは、付図3−3「世帯主の年齢階級別に見た再分配前所得の分布」に示されている。

45〜54歳、55〜64歳のいずれにおいても、1000万円以上の世帯の比率が20%程度だ。

企業で年収1000万円以上となるのは、支店長、部長クラスであるが、この段階に達するのは、ほかの統計等から推測すると、同年齢の12%程度と考えられる。

これと比較すると、上記の20%は、かなり高い。

では、なぜ高い数字になるのだろうか?

世帯の所得がどのような構成になっているのかは示されていないので、推測するしかない。

共働きや資産所得か?

この原因としては、原理的には、共働き、資産所得などが考えられる。

まず、上記25〜34歳層と同じように、同居する世帯主以外の所得による可能性もある。世帯主が50代後半の世帯では、子どもの所得もあるかもしれない。

つぎに、資産所得の可能性がある。

ただし、資産所得が世帯所得に占める比率は、全世帯で2.9%、高齢者世帯でも6.5%にすぎない。

また、仮に資産所得が大きいのであれば、70歳になっても高所得世帯が高いはずだが、そうはなっていない。65歳以上になると、世帯所得が1000万円を超える世帯数の比率は、ほぼゼロになってしまうのである。

それに対して、稼働所得(給与など)が世帯所得に占める比率は、全世帯で74.3%(高齢者世帯以外では85.1%)、高齢者世帯でも23.0%ある。

以上を考えると、50代で世帯所得1000万円以上の世帯とは、世帯主の勤務先所得がかなり多く、それに配偶者の勤務先所得が加算されている場合が多いのではないかと推測される。

50歳代の所得(再分配前)によって、世帯を次のようにグループ化することが可能だ(学歴との関連は、筆者の想定。実際にはこうならない場合もあるだろう)。

4つのグループに分けられる

第1グループ:世帯主の所得だけで年間1000万円を超える。これは管理職になった場合に相当する。同年齢層の総人口に占める比率は1割程度と考えられる。大学卒業者が同年齢層の5割とすれば、その2割程度になる。

第2グループ:配偶者の所得と合わせて、年間1000万円を超える。これは、同年齢総人口の1割程度。大学卒業者の2割程度になる。

第3グループ:50歳代の年収の中央値は、ほぼ500万円である。したがって、世帯所得で年間500万円から1000万円が同年齢総人口の3割(=5割-2割)程度いることになる。これは、大学卒業者の6割程度にあたる。

第4グループ:世帯所得が500万円未満。これは同年齢総人口の5割程度。高卒程度に相当する。

以上をまとめると、図表のようになる。


そして、60歳代後半になると、ほとんどの人の再配分前所得がゼロになる(つまり、所得は年金だけになる)。

なお、以上では世帯主を男性と考えたが、そうでない場合ももちろんある。

また、ここでの分析は、所得という指標のみに着目したものである。人間の価値が所得だけで評価できないことは、言うまでもない。

(野口 悠紀雄 : 一橋大学名誉教授)