1-1で引き分けた清水エスパルス対ガンバ大阪の一戦は、タイムアップ寸前まで清水が1-0でリードする展開だった。G大阪の同点ゴールは、清水がそれまで4-4-1-1的だった布陣を5バック同然の布陣に切り替え、守り倒そうとしたその数分後に生まれた。平岡監督のこの古典的な采配ミスにより、清水は勝ち点2を失った格好だ。

 後ろの守りを固めることを守備固めと解釈するこの概念。サッカーの本質そこに非ず、と言いたくなる、あるレベルに達したサッカーでは最近見かけなくなった古典的と言うべき思考法である。

 後ろの守りを固めれば、ゲームの主導権は相手に渡る。敢えて主導権を放棄する作戦ながら、絶対に負けられない戦いというフレーズに代表される、野球的思考、甲子園的志向が蔓延る日本では、根絶されていないスポーツ文化であることも確かだ。苦境に陥るとつい頭をもたげる人間臭い、本能的な衝動と言ってもいい。

 注目すべきは失敗した場合のリスクだ。そのネガティブな感情は、成功した際に湧き起こるポジティブな感情を大きく上回る。簡単には水に流せない悔やまれるミスとして、後々まで尾を引くことになる。清水の今後が心配になるが、来るW杯で、森保ジャパンが絶対に犯してはいけないミスであることも確かだ。

 森保監督が目標に掲げるベスト8は、5試合目の戦いになる。6試合目に当たる準決勝に進めば、悪くても3位決定戦に出場する資格を得ることができるので、試合数は7になる。現実問題として今回は、グループリーグ突破なるかが焦点になるので、3試合プラスアルファをどう戦うかという考え方になるが、そこで清水の平岡監督のようなミスを犯せば、その瞬間ほぼ終わりだ。

 初戦のドイツ戦で、1-0でリードしながら終盤を迎えた時、森保監督が、守りを固めようと5バックで逃げ切ろうとすれば危ない。その結果、勝ち点を失えば、チームワーク、団結力は失われる。勝てる確率が高そうな次戦、コスタリカorニュージーランド戦に、悪影響が出ること請け合いだ。

 後ろを固めるサッカーがなぜ古典的になったかは、プレッシングサッカーの興隆と深い関係があるが、後ろを固めても守り切れないケースが増えたことにある。

 選手の技量が上がったこと。相手に後ろを固められたら、サイドを崩せという攻略のセオリーが浸透したこと。そして、選手交代枠が増えたことも見逃せない要素だ。

 2人枠から3人枠に増えたのは、W杯では日本が初出場した1998年フランスW杯が最初の大会になる。

 チャンピオンズリーグ(CL)決勝で、レアル・マドリーがユベントスを下し、32シーズンぶりの優勝を飾ったのは、フランスW杯が開幕するその半月前の出来事だった。

 欧州のクラブシーンでは、イタリア、ドイツを中心に流行していた5バック同然の守備的サッカーが全盛を迎えていた。これにスペインを中心に流行り始めていた攻撃的サッカーが、待ったを掛けようと立ちはだかる。こうした背景の中で行われたCL決勝だった。

 下馬評が高かった守備的サッカーのユベントスを、攻撃的サッカーのレアル・マドリーが予想を覆して倒した一戦。欧州史にはそのように刻まれている。その流れはフランスW杯にも引き継がれた。交代枠3人制がそれを後押しした。従来の2人制から1人増えた分は、そのままアタッカー陣の補強に回されることが大勢を占めた。試合終盤には3FWの顔ぶれが、すべて入れ替わることが当たり前の光景になった。

 攻撃力は終盤になっても維持された。守備的サッカーには痛手となった。5バックで守りを固めても守り切れなくなったのだ。

 この1998年を機に攻撃的サッカーは興隆し、守備的サッカーは衰退の道を辿ることになった。