GBR(骨誘導再生法)を歯科医が解説「インプラントができない下顎の骨を再生する治療法」

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失った歯の代わりに埋め込む人工的な歯根であるインプラント。その治療はどんな場合にも適応されるわけではありません。歯周病が進んでいる場合などでは、インプラントの土台となる顎の骨が減少し、インプラントを埋め込めないケースがあるのです。しかし、近年顎の骨を増やす効果の期待できる治療法が確立してきました。その一つがGBR(骨誘導再生法)です。果たして、GBRとはどんな治療法なのか、注意点、デメリットについて医療法人大杉歯科医院の大杉和輝先生に話を聞きました。

監修歯科医師:
大杉 和輝(医療法人大杉歯科医院 院長)

2015年愛知学院大学歯学部卒業。卒業後は医療法人社団石川歯科に勤務し、重度の歯周病治療やインプラント、審美歯科治療などを行う。2021年12月より大杉歯科医院院長に就任。「5D-Japan」所属。インプラント治療や歯周病治療、矯正治療において経験を積む医療スタッフと連携しながらチームでの医療を提供。世界レベルの技術獲得を目指し、日々歯科医療の技術研鑽に励む。

そもそも歯科で行うインプラント治療とは

編集部

そもそも、インプラントとはどのようなものなのでしょうか?

大杉先生

インプラントは、失った歯の代わりに顎の骨に挿入する人工的な歯根のことです。むし歯や歯周病などによって歯を失った場合に、噛み合わせを改善する目的で顎の骨にチタン(体に害のない人工的な歯根)を挿入します。その上にセラミックなどの人工歯を取り付けることで、歯を再建することができるのです。

編集部

インプラント治療は、どうやって行われるのですか?

大杉先生

まずカウンセリングや検査を行い、インプラントを挿入できるかや挿入する位置、深さなどを診断します。また、このときに大体の期間や費用なども患者様に伝えます。

編集部

ここからいざ手術となるのですね。

大杉先生

まずは一次手術といって、顎の骨にドリルで穴を開け、インプラントを埋め込む手術を行います。埋め込んだインプラントと顎の骨を定着させるため、様子をみながら3~6カ月の期間を置きます。インプラントと顎の骨がしっかりと結合したのを確認して再度歯肉を開き、インプラントに歯の土台を取り付けます。土台の上に仮歯を装着し、噛み合わせや色合いなどを微調整しながら患者様にあった人工歯を作成。でき上がった人工歯を装着し、再度噛み合わせや色合いを確認してから取り付けます。

編集部

インプラント治療は、どんな人でも受けられるのですか?

大杉先生

インプラントを埋め込む場所に十分な骨がない場合には、治療ができないことがあります。また、糖尿病や骨粗しょう症などの疾患がある場合にも、治療ができないケースがあります。

編集部

十分な骨がなくなってしまうのはどうしてなのでしょうか?

大杉先生

重度のむし歯や歯周病がある場合、骨が溶けて、歯槽骨と呼ばれる顎の骨がなくなってしまうことがあるのです。歯磨きがしっかりできていなかったり、歯石が溜まっていたりすると、口腔内でむし歯や歯周病の原因となる細菌が増殖します。すると歯と歯ぐきの間にポケットと呼ばれる隙間ができ、そこに細菌が侵入してしまうのですが、このとき体内では細菌に感染した部分を取り除こうとする免疫反応が起きるため、この反応によって結果的に歯槽骨が溶けてしまうことがあるのです。

GBR(骨誘導再生法)とは、そのメリットとは

編集部

では、十分な顎の骨がない場合には、歯科での有効な治療法はないのでしょうか?

大杉先生

インプラント治療が必要で、なおかつインプラントを埋め込みたい場所に十分な骨がない場合には、足りない骨を増やす目的で行われている治療法がいくつかあります。その一つがGBR(骨誘導再生法)です。

編集部

GBRとはどのような治療法なのですか?

大杉先生

GBRは、下顎の骨を再生する治療法。GBRは、重度のむし歯や歯周病で骨が欠損した部分にインプラントを挿入して人工の膜で覆い、その中に骨補填剤と呼ばれる薬剤や患者様の自家骨を入れて骨を作る細胞の増殖を促します。その後、数カ月様子を見て骨補填剤や自家骨が再生骨に変わっていることを確認し、インプラント治療を進めていきます。ちなみに、上顎の骨を再生する治療には、サイナスリフトというものがあります。

編集部

再生骨ができていれば、インプラント治療が可能になるのですね?

大杉先生

治療中に感染症などの問題がなく、実際に再生骨ができていれば、インプラント治療ができる可能性が高いですね。

歯科医に聞く、GBRのデメリットや注意点

編集部

GBRに副作用などはあるのでしょうか?

大杉先生

GBRは外科的な手術なので、痛みや腫れなどを起こすことがあります。術中は麻酔が効いているため痛みの心配はありませんが、麻酔が切れてくると痛み出すことがあるでしょう。また、手術では歯ぐきを切開するので、術後すぐに歯ぐきが腫れてくることもあります。

編集部

GBRのデメリットはありますか?

大杉先生

GBRのデメリットは、通常のインプラント治療よりも期間が長引きやすいことです。再生骨ができるまでインプラント治療が進められないため、通常のインプラント治療よりも期間が長くなることがあります。通常、インプラントを埋め込みたい場所の抜歯後、2~6カ月の期間を空けてからインプラントを挿入し、その後も3~9カ月程空けて骨が成熟するのを待ちます。しかしこれらの期間は、患者様の状態や再生骨ができるスピードなどによっても大きく異なるため、一概にはいえません。

編集部

治療に関する注意点などはありますか?

大杉先生

GBRは、糖尿病や骨粗鬆症などの疾患がある場合にはできないことがあります。治療のために内服している薬によって副作用が現れることがあるためです。そのため、何らかの基礎疾患がある場合には、事前に医師と相談することが必要です。また、このような疾患があるほか、喫煙している方などは、手術後の傷の治りが遅れたり、切開した部分がしっかりと塞がらなかったりすることがあります。そのため、治療を受ける場合には禁煙を検討する必要があります。治療を行う際には担当の歯科医師とよく相談することが大切です。

編集部

ありがとうございました。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

大杉先生

これまで、十分な骨がないからとインプラント治療ができないといわれた方もいると思います。しかし、歯を失ったまま放置しておくと、その近くの歯が伸びてきたり、傾いてきたりして、口腔内全体に悪影響を及ぼすことも考えられます。専門性の高い治療法で実施するには高い技術が必要ですが、ご自身の歯の健康のため、一度GBRを検討してみる価値はあると思います。

編集部まとめ

重度のむし歯や歯周病で顎の骨がなくなってしまうと、インプラント治療が困難になることがあります。しかし、GBRなどの再生骨を作る治療法でインプラント治療ができる可能性もあるのです。将来的な歯の健康やコンプレックスを解消したいという場合には、治療を検討しても良いかもしれません。

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