抽選会の結果、ドイツ、スペイン、コスタリカorニュージーランド(大陸間プレーオフの勝者)と同じ組(E組)に振り分けられた日本。ブックメーカー各社は、この組の1位はスペインで、それを僅差でドイツが追うとの予想で一致する。日本は3位ながら、あらゆる組の中で1位との差、2位との差が最も開いた関係にある。E組はすなわち、8組中で最も事件が発生しにくい無風区と見なされている。日本にとって最も苦しいという意味では死の組だが、激戦区では全くない。

 もっとも、スペインのチーム力は、南アW杯で優勝した2010年当時に比べると若干落ちる。ドイツも同様。優勝した2014年当時より落ちる。ブックメーカー各社の予想では、スペインは32チーム中4番手、ドイツは5、6番手となる。優勝候補の筆頭はブラジル。2番手、3番手はフランスとイングランドが競った関係にある。

 前回ロシアW杯3位、ユーロ2020準優勝と、2大会続けて結果を残し、上昇傾向にあるイングランドだが、スペイン、ドイツを確実に上回るほどではない。ブックメーカーは、クラブでも代表でも、お膝元である英国人の購買意欲をそそろうと、地元チームに対しては毎度、甘めの予想になりがちだ。今回もイングランドに対してやや盛っていると見る。

 フランスも、ロシア大会を制した4年前、ユーロ2016を制した8年前に比べて特段、上がり目はない。前回準々決勝でベルギーに敗れたブラジルも、そこから大きな上積みがあったようには見えない。本命に推されるほどのチームだろうか、疑問が残る。

 何が言いたいかと言えば、上位は実力伯仲。今大会は本命不在の混戦と見る。ブラジル、フランス、イングランド、スペイン、ドイツ。それ以下も僅差だ。アルゼンチン、ベルギー、ポルトガル、オランダ。ブックメーカーの優勝予想を見ると、この9チームが競った関係にある。倍率的にはそこから少し水が開き、デンマーク、クロアチア、ポーランド、ウルグアイと続く。

 前にも述べたことがあるが、ブックメーカーの予想ほど中立的なものはない。例によってネットには現在、誰々はこう予想する的なニュースで溢れているが、もっとも引き合いに出されるべき予想は、ブックメーカーなのである。英国勢に若干甘めに出るのはご愛敬としても、そこさえ気をつけておけば、これほど参考になる予想はない。

 ブックメーカーとて損をするわけにはいかない。何事に対しても客観を尽くそうとする。ライターとして、これはまさに見習いたい姿勢になる。

 さすがに今回は、ナショナリズム、愛国心を煽ろうと、ドイツ、スペイン恐れるに足りずと楽観ムードを垂れ流すメディアは減った。ゼロではない可能性を持ちだし、可能性はあると都合よく言い換え、イケイケムードを煽ろうとするメディアは。

 それは成熟したファンが増えたことと深い関係がある。日本がW杯出場を重ねるたびに、世界情勢に詳しい人の数もそれに比例するように増加した。チャンピオンズリーグ(CL)やユーロなどの報道も輪をかける。日本のサッカーファンの世界観は年々、確実に広がっている。東京五輪での目標を問われた森保監督が、金メダルだと言っても、多くの人が一緒になってはしゃごうとしなかった。W杯本大会の目標はベスト8と宣言しても、一歩引いた視点で考えようとする。可能性はゼロではないが、30%、40%には届かない難題であると認識するファンの割合は、半分近くに及ぶはず。メディアはへたには煽れない状況に置かれている。

 しかし、世界からニュースが、自由に入ってこなくなったとしたらどうだろうか。今回のブックメーカーの予想のように、日本にとって少しでも都合が悪いニュースが遮断されたとしたら客観性は保たれるだろうか。NHKをはじめとする日本のメディアだけで中立性は保たれるだろうか。