増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

写真拡大

1.吉野家ドンブリ事件
吉野家が1回300円以上買ったお客が「1マイル」をもらえ、最高位のマイルを集めればオリジナルの名前入りドンブリがもらえるキャンペーンを、昨年7月から実施しました。

丼は毎日8ヶ月以上食べ続けないともらえないという苦行(マイル2倍デーなど細かいルールあり)を求める以上、特に気合いの入った応募者が集まります。中には自分の店など本名以外でオリジナル丼を作ろうと挑戦した人もいたようです。

吉野家は当初問合せにおいて、それらも可能と応えていたにも関わらず、やっぱり本名しかダメという方針転換が行われたことで、大きな反発を呼びました。さらにその問合せやり取りが不誠実であり、客が悪いとも取れる回答文面がネットでさらされ、批判は止むことなく燃え上がっています。

2.高級ブランド店炎上
スイス時計オメガとスウォッチがコラボしたモデルが発売されましたが、発売日の発売時間には渋谷や大阪の店舗に購買者が殺到し警察沙汰となり発売は中止されました。およそ高級時計と似つかわしくない騒然とした光景がニュースでも流れました。

確かに結果としてスウォッチ/オメガが話題となりましたが、こんな話題を狙ったものだったのでしょうか?マーケティングの一環で、目立つキャンペーンは昔からあります。

私マーケティング担当者時代、どうすれば少ない費用で効果が極大化できるか日々考えました。しかし究極に目立つのからといって、犯罪など非合法な手段は論外。警察ザタなど迷惑かける選択などはあり得ません。

スウォッチはわざわざ警察を巻き込んでニュースになるようなプロモーションを狙ったとは到底思えず、単に今の市場環境を全く理解せず、昔からのプロモをそのままやってしまったのではないかと想像します。

3.炎上商法とブランド毀損
限定モデル発売やオリジナルグッズプロモーションなど、昭和のころからある古典的マーケティング手法です。「特別感」という購買意欲を煽る、原始的な手法だけに効果は間違いなくあります。

しかし一方で社会環境は昭和とは激変していることをどこまで認識しているのでしょうか。マーケティングプロモは担当に任せっきりの経営者は、経営者としての組織運営責任を放棄しているとしかいえません。

炎上商法はマーケティングではないのです。

マーケティングであるなら、ただ爆売れするだけでなく、そのブランドが傷つくことがあってはならないのです。高級ブランドに限らず、店舗・企業ブランドが毀損されるようなものはプロモーションではありません。

だから経営責任なのです。

4.限定発売などの転売ヤー・ホイホイ
牛丼など安価な商品は、元来ネットユーザーとの親和性は高く、気取ったブランド品などと違って、支持を集めやすい環境にあります。それがこれだけ反発を招いたのは正にミスとしか言いようがなく、企業として組織としての危機管理が出来ていない証明だといえます。

スイス時計という高級ブランド品が特別モデルで安く買える。しかも初回販売数が限定ともなれば、今や「転売ヤー」を全員集合させるほどのの撒き餌となることを想像できないことが間違いです。限定発売などは正に転売ヤーホイホイとも呼べる、真のカスタマーではなく、もはや転売ヤーのためのプロモーションとなっています。

個人売買サイトやオークションによって、転売は一般人が気軽に出来るアルバイト、プロがガッポリ利ざやを稼げるせどり商売として確立されました。インターネットによって生み出された新商売です。

渋谷の店頭にあふれ返った購買者が、すべてスウォッチ/オメガユーザーには見えませんでした。相当数が転売ヤーではないかと容易に想像できます。転売ヤーのためのプロモーションなど、全くマーケティングの意味も、価値もありません。

当然この後、ネットで法外な値段で売買されるからです。このすべてに関与する人たちは、本来のブランドユーザーではないといえるでしょう。

5.吉野家の判断ミス
「自由」の概念がかつてとは全く違っています。「自由な名入れ」が何を意味するのか、侮辱的な言葉や猥褻な単語は良いのでしょうか?文字数は何文字でも無限に載せられるのでしょうか?著作権関係の対応は??

アイデアとしてオリジナル丼は悪くないと思いますが、このようなリスクがあることまで想定できずに、現在の社会環境でキャンペーンは無理です。加えて客相の対応でさらなる燃料投下も、証拠の残るメールでの対応は、常時ネット公開されるリスクがあることすら想定していないことになります。

ITリテラシーはリスク管理において絶対に欠かせません。

昔とは違うのです。単なるオペレーションミスは、組織全体、ブランドを毀損するダメージとなります。これは経営責任です。いちいちい経営者がチェックする必要はありません。単に社内にリスク管理、リスクチェックする機能があれば良いだけです。

経営者の危機管理意識とITリテラシーは絶対に問われる時代です。