就活に焦った学生が陥りがちな就活塾の落とし穴
2022年3月に開催された合同企業説明会に訪れる学生の様子(記者撮影)
大学生の就職活動が本格化している。そんな中、就活ビジネス関連のトラブルを抱えてしまう学生も少なくない。
東京ビッグサイトのような合同企業説明会の会場周辺では、パンフレットを抱えて就活生に執拗に声をかけている若い男女をよく見かける。彼らは就活ビジネスのセールスパーソンたちだ。就活生に「就職に役立つ」と言って、高額商品や就活塾への入会を勧誘している。その雰囲気はとてもフレンドリーで、思わず足を止めてしまう学生が少なくない。
そんなセールスパーソンが声をかけるのは単独行動の学生ばかりだ。数人の学生グループに声をかけたほうが効率が良いはずだが、そうはしない。なぜなのか、セールスパーソンから話を聞こうとしたものの、「学生以外とは話をしない」と断られた。こうしたセールスパーソンは主要大学の周辺にも出没する。彼らは各大学のことを熟知しており、キャリアセンターのある建物から出てくる学生に片っ端から声をかけていることもある。
彼らが入会を勧誘する「就活塾」は学生に面接の受け方やエントリーシートの書き方を有料で指導するところだ。とはいえ、就活塾は玉石混淆なのが実態だ。就活塾のおかげで内定が出たという学生もいるが、問題のある就活塾が多く、トラブルに巻き込まれる学生が少なくない。2020年には学生への執拗な勧誘を行っていた就活塾に対して、東京都が特定商取引法に基づき業務停止命令を出すということもあった。
軽い気持ちで参加すると執拗な勧誘に
就活塾のセールスパーソンは勧誘の際にアンケートなどと称して、学生にいろいろと質問をする。そこで学生が氏名や電話番号、メールアドレスなどを書いてしまうと、その後すぐに「無料の就活セミナーがあるので参加しませんか」という連絡がくる。
無料ならばいいと思って出かけたものの、セミナーが終了すると個室に案内され、長時間にわたって執拗な勧誘を受ける。「今決めなければ、就職に失敗する」「君の大学では簡単に就職できない」などと脅された結果、早く帰りたい一心でやむなく契約してしまうケースが多い。
最近はコロナ禍で合同企業説明会が減少しているため、SNSで出会った人から就活塾を紹介されるケースや、サークルの先輩から勧められて入会するケースも増えている。この場合も就活塾の事務所やカフェなどで就活塾の社員と会ってしまうと、執拗な勧誘を受けることになる。
「お金がない」と言えば断ることができそうだがそうではない。「学費と称して学生ローンから借金すればいい」「留学費用の名目でローンを組めばいい」「親のクレジットカードを使用して分割払いにすれば返済が少なくて済む」などと契約をせかされるケースがあるのだ。
無理やりに入塾させられたとしても、その講座が役に立てば入塾して良かったということになるだろう。しかし、講座内容や授業の進め方に不満を抱く学生は多い。そして、解約しようとしたときにトラブルが起きる。
北関東の大学に通う男子学生Aさんは講義を受けたところ、知っていることばかりで、有料の価値がないと思った。解約有効期間中だったので解約しようとしたところ、「今やめたら就職できない」などと言われ、解約に応じてもらえなかった。
都内中堅大学の女子学生Bさんは大学の先輩に紹介され、30万円払って都内の就活塾に入塾した。入塾してすぐにWEBセミナーへ参加しようとテキストを見たら文字化けしていた。改善するように求めたが対応してくれなかった。入塾前にはグループ学習を重視していると聞かされていたが、塾が何もサポートせず、グループを作ることすらできなかったという。何の効果も無く、解約したいが応じてくれないため国民生活センターに駆け込んだ。
いつの間にかマルチビジネスの片棒を担ぐことに
いつの間にかマルチビジネスに組みこまれてしまうこともある。
神奈川県内の大学に通う男子学生Cさんは友人に誘われて就活イベントに参加した。その後、講師とzoomで面談し「就活に役立つビジネススクール」への入会を誘われた。ビジネススクールならばいろいろな勉強もできると思って入会すると、知人を塾に勧誘するように迫られた。知人が支払った入会金の一部を手数料として渡すのでどんどん知人を集めろ、というのだ。
そして、自分を誘った友人も人数集めのノルマ達成のために自分をイベントに誘ってきたということがわかった。就活のための対策をするはずだったのに、いつの間にかマルチビジネスに組み込まれてしまったのだ。このまま自分も勧誘を続ければ手数料収入は得られるものの、人間関係が悪化してしまう。Cさんは退会したいが言い出せず悩んでいる。
また、入塾後に物品やサービスを売りつけられるケースもある。以前から高額な英語教材や化粧品を学生に販売するケースはあったが、最近目立つのはプログラミングスクールへの勧誘だ。プログラミング自体の重要性は疑いないので学生としては断りにくい。
さらに、就活の相談に来た学生に「就職しなくても収入を得る方法がある」として金融商品や投資方法を勉強する教材を売りつけることもある。就職がなかなか決まらず、就職をあきらめかけている学生は、こうした話に乗ってしまいがちだ。精神的に不安定なため「自分は就職しないで投資で生きていこう」と思ってしまう。
しかし、必ず儲かる投資法などあるはずがない。役に立たない投資教材を高額で購入し、借金だけが残ることになる。
リクルートが運営する就職みらい研究所の調査によると2023年卒の3月1日時点の内定率は22.6%(前年同月比+5.0ポイント)と過去最高だった。企業の採用意欲が高く、採用早期化が進んでいる。こうした流れに乗っている学生は良いが、思うように就活が進んでいない学生は、周囲が好調であるだけに焦りが募る。
就活塾は焦った学生をターゲットにするので注意しよう。冒頭に述べたように就活塾は玉石混淆だからだ。就活生の立場になって良心的なサービスを提供する就活塾もあれば、就活生を食い物にする悪徳業者もいる。
専門学校ならば設立するための基準があるが、就活塾には設置基準がない。誰でも設立できる。就活塾の教員になるのに資格は必要ない。誰でも就活塾の教員になれる。こうした状況では残念ながら悪徳就活塾が存在するのはやむをえない。各自が注意するしかない。
「お金が無い」という断り方は避けたほうがよい。そう言うと就活塾からクレジットカード払いや借金を勧められるケースがある。断るときは「契約はしない」とはっきり伝えるしかない。
どうすれば契約の取り消しができるのか
断り切れずに契約したとしても、クーリング・オフや契約の取り消しができる場合があることを知っておいてほしい。
電話やメール、SNS 等で販売目的を明示されずに営業所等に呼び出されて契約した場合や、路上等で呼び止められ営業所等に同行させられて契約した場合は、特定商取引法に基づいてクーリング・オフができる可能性がある。
また、「一度帰って考えたい」などと退去する意思を示したにもかかわらず、退去できない状況に追い込まれて契約した場合や、「就活に失敗する」などと不安をあおられて契約した場合には、消費者契約法により契約を取り消せることもある。
ただでさえ忙しくてストレスの多い就活時期に、就活ビジネス関連のトラブルを抱えてしまっては就活に集中できない。もし、トラブルに巻き込まれてしまったら1人で悩むのではなく、独立行政法人国民生活センターや各地にある消費者センター、または大学のキャリアセンターなどに相談しよう。
(田宮 寛之 : 東洋経済 記者)