プーチン大統領の行動は決して予想できないものではなかったかもしれない。しかも投資家たちは、なおも「都合のいい解釈」をしている可能性がある(写真:代表撮影/AP/アフロ)

個人的見解だが、結論から言うと、日経平均株価は2万円割れの可能性まであるだろう。


この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら

これを今言うのは、とても危険だ。
原稿執筆時点(3月10日)では、9日のアメリカ株式市場は大幅上昇、10日の日経平均株価も一時は約1000円高となったからだ。

世界は、リスクオフからの反動で、一気にリスクオンに傾いたことが背景で、この動きは広範かつ持続しそうにみえる。

「日経平均のさらなる下落」を予想するのは無謀?

原油価格の指標であるWTI先物価格は一気に15ドル前後も下落し、1バレル=105ドル前後に。金もプラチナも小麦もすべての資源、農産物先物が一時大幅下落した。

きっかけは、UAE(アラブ首長国連邦)が大幅増産を行うなどと表明したことだ。おそらく、これまで一気に買いポジションを膨らませていた投機筋が投げ売ったということだろう。

リスクオフの流れに乗った投資筋がすべての市場で手仕舞ったということが理由で、株式もその一環にすぎない。さらに株式に限っては、個人投資家がアメリカの株式市場でも下げ局面で買い続けていた流れが、ここで加速したということもあるだろう。

市場は「ウクライナの最悪期はこれからだが、株式市場の最悪期は去った。今度こそ、市場は停戦後を先取りしている」とはやしそうだ。

そんなタイミングで「まだまだ下がる」、しかも「日経平均2万円割れ」など、誰も想定していない可能性に言及するなんて、阿呆以外の何者でもない。しかし私は、下落の継続・拡大を予想する。競馬予想が外れすぎて、外れ慣れているから、外れても気にしないから、ではない。「下がる確実な理由」があるのだ。

それは、株価が下げてきたのは2つの理由があったにもかかわらず、人々も市場も1つの要因で頭がいっぱいになってしまい、もう1つの理由を忘れてしまっているからだ。

この2つの理由とは、前者はウクライナであり、後者はアメリカの利上げである。すなわち、後者のアメリカの利上げによる下落の部分は忘れられているが、実際に利上げが始まり、またそのペースが以前危惧されたように速いペースになれば、株価はもう一度暴落する。そして、実際に利上げは早いペースで行われ、なおかつ、それでもインフレは止まらない、と私は予測するからだ。

株価が一直線に下落しなかった3つの理由

みな忘れているが、株式市場はロシアのウクライナ侵攻が始まる前から下落基調が始まっていた。投資家たちは、アメリカの中央銀行であるFED(連邦準備制度)の一挙手一投足に振り回され、そして最後には利上げがついに始まることにおびえていた。そして、その利上げ時期が大幅に前倒されることが見込まれるようになり、実行が目の前に迫ってきたところだったのだ。

そこへ、ロシアがウクライナ侵攻した。もちろん、株式市場はウクライナリスクで暴落した。しかし意外なことに、直ちに切り返すなど乱高下が続いた。一直線の下落にならなかったのだ。なぜか?

その理由は3つあった。

第1の理由は、投資家たちがロシアの意思を理解できていなかったからだ。つまり、その結果、侵攻は脅しにすぎないと思っていたし、侵攻が始まってからも、すぐにロシアが落としどころへ向けて動くと思っていた。

投資家たちは「ロシアが戦争を始めても得などない。だから侵攻は合理的でない。したがって脅しにすぎない」――。そう考えたからだ。

この誤りの背後にあるのは、投資家たちの思考の限界だ。自分の枠組み、思考回路でしか、物事を見ることができない。したがって、つねに起こる誤りのパターンといえる。

むしろ、素人には普通のこと(私をはじめ多くの素人の見方は、ロシアは帝国、プーチンは皇帝だから、何が何でもウクライナに侵攻するというもの)が彼らには見えないわけだ。

実際の投資家の反応を振り返ってみると、以下のようであった。

「ロシアがウクライナに侵攻する」とアメリカの当局が警告したにもかかわらず、多くの専門家、評論家たちは「合理的でない」として脅しにすぎない、あるいはアメリカが不安をあおっている、と斜に構え、侵攻リスクを株価にほとんど織り込まなかった。しかし現実には、侵攻は起きた。

次に、侵攻が始まると「侵攻はすぐに終わる」「キエフはすぐ陥落する」、あるいは「ロシアも長期化を望まないから、すぐに引いて交渉に入る」などと市場関係者は解説した。株価が大きく下がっても、連続して下がり続けず、ある程度、戻した。市場はすでに収束後を織り込んでいると解説して、この反発上昇を自慢した。

「自分たちの願望」を正当化した投資家たち

しかし実際には、侵攻は長期化し、戦闘は泥沼化した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はとことん攻め続ける意思ははっきりしているのは、誰の目にも明らかだった。

だが、投資家たちは違った。アリバイ作りのような停戦交渉が行われるたびに、収束を期待し、株価は戻した。

しかし、毎回、交渉は成果がないどころか、そもそも「交渉する意味があるのか」と誰もが思うような、ウクライナには到底受け入れられない無理な主張をロシアは続けるだけだった。交渉が失敗に終わるたびに、株価は下落した。

このプロセスを振り返ってわかることは、投資家たちは自分たちの願望でしかロシアのウクライナ侵攻を見ていなかった、ということだ。事実ではなく、願望を正当化して、他人にも押し付けようとする。これが投資家たちが誤った理由の第2であり、これもまた、投資家たちの悪いクセ、お決まりのパターンの1つだ。

彼らの願望を市場価格に実現させようとする、その厚かましさは今回とくにひどかった。ウクライナ侵攻で原油価格が暴騰したこと、および世界的な景気減速懸念により、FEDの利上げが遠のく、あるいはペースが緩やかになると期待して、むしろ株式市場にはプラスの面もある、とまで言ってのけたのだ。

プーチン大統領よりも狂っているのは彼らだ。ありえない。願望を押し通すにもほどがあるだろう。

ウクライナ侵攻は金融引き締めが遠のき、株式市場にプラスという解釈は自分勝手なだけではなく、根本的に間違っていることが問題だ。これが、株式市場が反発した第3の理由だが、投資家の致命的な「構造的誤ちパターン」でもある。

つまり、願望を強引に市場に押し付け続けたあまり、それが願望だか事実だか、自分たちでもわからなくなってしまったのだ。確信犯的に相場に願望を吹聴して、素人にそれが事実と信じ込ませていたのが、最後にはその確信犯的なウソに自分たちがだまされるようになってしまったのだ。

ウクライナ危機があっても、中央銀行は金融引き締めを止めない。それどころか、利上げは加速する。なぜなら、誰でもわかるように、というか現実に起きているように、インフレが加速しているからだ。

オイルショック時よりもインフレは複雑で手ごわい

原油、天然ガスだけでなく、ありとあらゆる資源は高騰し、世界的な物流チェーンが止まるから、ロシア資源とは直接は無関係でも、すべての原材料の入手コストが上がる。物流効率も悪くなるからコストも上がる。

インフレは、資源価格の高騰分は当然反映されて加速するだけでなく、資源と無関係に、すべてのコストが上昇し、コストプッシュインフレは加速するのだ。買いだめも企業ベースでも消費者ベースでも起きるだろう。オイルショックの再来だ。

これは素人の目には明らかである。しかし、それでも専門家たちは抵抗を続ける。「スタグフレーションは起きない」「オイルショックのときは違う」などと言い張る。

その最後の根拠は「あのときはもともと不況で、失業率も高かった。今回は景気がよく、失業率も歴史的最低水準だ。だから、まったく違う。不況にならないから、スタグフレーションにはならない」と素人たちを説得しようとする。

ありえない。不況の深刻さはもちろん、オイルショック時よりは軽いだろう。しかし、根本はインフレーションである。もともと好景気、コロナで人材不足、賃金上昇が加速しているところに、インフレ要因がさらに重なったのだから、オイルショック時よりもインフレはより複雑で手ごわいということだ。

だから、利上げをしてもインフレは収まらない。そして、利上げをすれば景気は悪化する。だから、不況の程度はオイルショック時よりも軽いが、より手ごわい複雑なインフレである、種類の異なるスタグフレーションが起きるだけだ。

さらに大きな問題は、これまで世界中の中央銀行が、歴史的にはありえない大規模な金融緩和を行ってきたことであり、それに世界が慣れてしまっているということだ。だから、金融引き締めに慣れていた1980年とは異なる。

スタグフレーション、ロシアによるウクライナ侵攻は株式市場に大きなダメージを与えるが、それに加え、何よりも金融引き締めショックが異常な金融緩和による壮大なバブル崩壊に与える影響は、金融緩和が史上最大なのだから、崩壊も史上最大級の可能性がある。

そして、この金融引き締めとインフレの長期継続による株価暴落リスクを、市場は忘れている。忘れたふりをしているうちに、本当に忘れてしまっている。

3月のFOMCが0.25%の利上げになっても結局は暴落へ

まず、3月16日のFOMC(連邦公開市場委員会)の声明文公表で、利上げがウクライナ前の懸念どおり、0.5%の利上げになれば、株価は利上げショックで大暴落となるだろう。

一方、利上げ幅が0.25%にとどまれば、やはり利上げペースは弱まったと願望が実現した(ようにみえる)ことに安堵し、株価は大幅上昇するだろう。しかしそれは、その先の利上げによる暴落を準備する上昇にすぎない。ロシアが侵攻を止めたのちに、利上げペースが加速し、そこで暴落することになるだろう。

そして、ロシアが侵攻を止めても、ロシアが行き詰まって、停戦が実現したとしても、すぐに制裁を解くわけにはいかず、プーチン大統領が消えるまでは続けることになる。実際にはプーチンは簡単には消えないから、制裁は市場の願望からかけ離れて長期化するだろう。

したがって、その先の株価反発の材料もないという事実に、最後は、投資家たちも屈服せざるをえず、株価は低迷を続けることになるだろう。この流れの中で、日経平均は2万円を割ることがあってもまったく不思議ではないのである。

(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)

競馬である。

先月の2月26日は「サウジカップデー」で、サウジアラビアで世界最高賞金(1着1000万ドル)のサウジカップをはじめ、多くの重賞レースが行われ、日本馬が4勝(すべてクリストフ・ルメール騎手)と大活躍した。

日本馬が最も重要なサウジカップで勝てなかったワケ

しかし、最も期待されたサウジカップのテーオーケインズはまったくいいところがなく8着に大敗した。これは日本競馬の大問題を表している。

4勝したからいいのではないか? テーオーケインズだけ弱かった、サウジのダートが合わなかった、というだけではないか?

いや、違う。

4勝のうち1勝はダート戦だから、ダート自体の問題ではない。そして、テーオーケインズは、状態は最高だった。ではなぜ負けた? ほかのメディアなどを見ると、騎乗した松山公平騎手は以下のようなコメントをしていた。

「スタートは速かったのでいいポジションが取れたんですけど、いつもだったら息を入れるところが、こちらのペースはそうじゃなかったので、馬の経験がなくて、戸惑ったような感じになりました」

映像を見てもわかる。最初から馬が苦しがり、松山騎手も最初から促しっぱなしである。

こういう厳しいレースに勝てない。馬が厳しいレースをまったく経験したことがない。経験の浅い2歳馬ならともかく、日本のチャンピオンのテーオーケインズがそうなのだ。これは、日本競馬がぬるい、ということを表している。

馬が悪いのではない。いつも批判する、馬場のせいでもない。あえて直接の第一義的な犯人を挙げれば騎手である。騎手がぬるい。

実は、今年のサウジカップは、昨年の覇者、欧州のチャンピオン、ミシュリフも最下位に大敗した。それだけタフなレースだったということだが、この理由はアメリカ調教馬と同国の騎手がレースを主導したからだ。

日本のマルシュロレーヌが昨年アメリカのブリーダーズカップを勝ったから、レースをご覧になった方も多いと思うが、同国のダート戦はすさまじいサバイバルレースである。

最初から、逃げ馬というのではなく、ほぼすべての馬がガンガン飛ばす。そして、それについていけない馬が1頭ずつ脱落していく。そして、直線もパワーとスピードを持続した馬が大差をつけて勝つ。これがアメリカ競馬だ。

そして、マルシュロレーヌのレースは、すべての馬がバテてしまい、前半ついていけなかったマルシュロレーヌが力を残していて、最後に差し切った、ということなのだ。

1989年のプリークネスステークスのサンデーサイレンス(ディープインパクトの父)とイージーゴアの直線での伝説のマッチレース。これは例外中の例外で、伝説になった。次走のベルモントステークスでは、イージーゴーアが雪辱を果たしたが、このときはサンデーサイレンスに大差をつけていて、ほかの馬はまったく見えないほどのゴールである。

つまり、アメリカダートは短距離だろうがなんだろうが、すべてのレースですべての馬が全力を振り絞るのである。だから、展開による紛れもなく、能力検定レースとしての質が高いのである。その結果、長距離レースがなく、クラシックディスタンスの2400メートルのレースがほとんどなくても、スタミナの検定ができ、かつ、スピードの持続力というスタミナ、パワーも検定できるのである。

日本に欠けているのは、これだ。テーオーケインズが悪いのではもちろんなく、騎手が悪いといっても、彼らは現状に最適対応をしているだけなので、競馬界全体の問題である。短距離化、馬場の高速化、直線の切れが極端に重要になるレース展開、これらを総合的なヴィジョンと構造改革によって解決しないと、真の世界一の競馬市場になることはできない。

金鯱賞はアメリカ並みのタフなレースを期待

さて、最後に13日に中京競馬場で行われる金鯱賞(第11レース、距離2000メートル、G2)の予想だが、これは3強の争い。どこまで強いのか、上がり馬のジャックドール。復活なるか、レイパパレ。休み明けを叩き、得意の左回りに戻って狙い目のサンレイポケット。この3頭に注目だ。

楽しみなレースだが、ジャックドールはガンガン逃げ、レイパパレも2番手に構えてハイペースで先行すると思われ、最初から全力を振り絞るレースになるのを期待したい。

これで勝った馬は本当に強い。馬券は一応、離れた3番人気と思われるサンレイポケットに妙味だが、馬券などという欲望を超えて、すばらしいレースを期待したい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(小幡 績 : 慶應義塾大学大学院准教授)