「ストロング系」のチューハイは9%台が以前は一番人気でしたが、コロナ禍でトレンドに変化が起きています(撮影:尾形文繁)

チューハイ市場を牽引してきた、アルコール度数の高い「ストロング系」飲料。その中でも9%台のものが近年、家庭で飲むお酒としては圧倒的な人気を誇ってきた。ところがコロナ禍に入ってから、そのトレンドに変化の兆しが現れている。

拡大するチューハイの家庭用市場

家庭で飲むお酒の種類として人気が続いている「チューハイ」。ここで言うチューハイとは、カクテルやハイボールなどを含む、容器のフタを開けてそのまま飲めるアルコール飲料のことだ。

全国のスーパー、コンビニ、ドラッグストアなど、約6000店舗の販売動向を追っている「インテージSRI+」から、チューハイの家庭用市場規模(以降、市場規模とは家庭用のものとする)の推移を見てみよう。


チューハイ市場は、2021年には2017年との比較で146%の5130億円にまで成長した。これを牽引してきたのは、「ストロング系」と呼ばれるアルコール度数が7〜9%台の飲料で、金額構成比でおよそ6割を占める。

そのストロング系が2020年までは2桁増で成長していたものの、2021年には前年比104%と伸びが鈍化。アルコール度数4〜6%台のチューハイが2桁増になったのとは対照的だ。ストロング系の人気に変化が起きているのだろうか。

ストロング系の動向を確認するため、ストロング系の中で主力である、9%台と7%台の市場規模の推移に注目したい。


ストロング系の中でも、とくに人気だったのが9%台で、2018年にはチューハイ内の金額構成比38.2%と4割弱を占めていた。度数が高くてもほかの度数のチューハイと同じ販売価格帯のため、費用をかけずに手軽に酔えると支持されていたようだ。

7%台が9%台を逆転した理由

ところが2021年には、9%台のチューハイ内金額構成比は28.7%まで減少した(2020年は34.4%)。コロナ禍により家で過ごす時間が増えたことで、冷蔵庫にあるお酒につい手が伸びてしまうなど、飲酒の仕方が変わった人もいるだろう。そのときに飲むお酒の度数が高すぎてはと、健康への影響を懸念する人もいたものと推察される。

前述のとおり、比較的度数の低い4〜6%台が2021年に2桁増となっていることからも、アルコールの取りすぎを控える動きがあったと見て取れる。

そうした中、人気が高まっているのが7%台だ。2021年にはわずかながら9%台の販売金額を超えた。月別では、2021年4月以降、7%台が9%台の規模を上回っている。350ml缶のバラ売りでの平均価格をみると、7%台は2021年に126円と、9%台の117円よりも10円近く高いにもかかわらずだ。

コロナ禍では、健康意識が高まっているほか、外出や旅行が難しい中で家庭での時間を充実させたいという需要もある。そのため、多少価格が高くとも健康への影響を軽減できるうえ、果実感の訴求など味に付加価値のある7%台のチューハイが選ばれるようになったと考えられる。

「9%台離れ」は実際に起きたのか、全国15〜69歳の男女約5万人のモニターから買い物データを継続的に聴取している「インテージSCI」から、チューハイの度数別の購入動向を見てみよう。

ここでは、飲酒が認められている20歳以上に絞って、購入金額と購入率を確認する。購入金額とは、購入した人1人あたりの購入金額、購入率とは、モニターのうち、購入した人の割合だ。


すべての度数が含まれるチューハイ計は、購入金額・購入率ともに増加傾向にある。7%台も同様だが、購入率の伸びはより顕著で、2017年の15.2%から2021年の34.3%へと2倍超にまで増加した。

一方、9%台は、購入率が2020年の34.8%から2021年の30.0%へと減少に転じている。購入金額は2019年以降ほぼ横ばいで推移していることから、これまで通り9%台を飲み続ける人もいるものの、9%台を飲むのをやめる人も一定数いるようだ。

9%台から離れた消費者の中には、ある程度は度数が高く、飲みごたえのあるものがよいと、7%台を購入し始めた人もいるのではないだろうか。

ビール類やノンアルコール飲料も健康系商品が人気

コロナ禍における健康意識の高まりの影響が現れているのは、チューハイだけではない。ビール類やノンアルコール飲料でも、健康によいことを訴求する「健康系商品」が好調だ。

次のデータはビール類とノンアルコール飲料について、コロナ禍の変化を確認するために、2020年・2021年の市場規模の金額前年比を見たものだ。ビール類計の市場規模は、ほぼ横ばいで推移している。


ところが、糖質ゼロ・糖質オフなどの「機能訴求あり」のタイプは、2020年から増加傾向で、2021年には2桁増となった。増加の背景には、2020年10月の酒税法改正もある。

改正により、ビール類のうち、発泡酒・新ジャンルを除くビールの値下げが行われた。糖質ゼロを訴求するビールの新商品が人気となり、ビール類の「機能訴求あり」の市場を押し上げているためだ。

一方でビール類の「機能訴求なし」のタイプも新商品の発売はあったが、2021年に前年比97%と前年割れ。ビールに絞っても、機能訴求なしのタイプの2021年の前年比は103%と微増にとどまっている。酒税法改正だけではなく、健康志向の高まりも、ビール類の消費トレンドに変化をもたらしていると言えそうだ。

また、ノンアルコール飲料も2020年から増加傾向にあり、2021年には2桁増となっている。とりわけ好調なのが機能性表示食品で、「脂肪や糖の吸収を抑える」といった効果を訴求するものだ。

感染拡大をきっかけに加速した健康志向の高まりが、このように消費者の身近な商品選びにも変化を及ぼしている。3年目に突入したコロナ禍の生活だが、今後も消費トレンドに動きがあるかもしれない。

(木地 利光 : 市場アナリスト)